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eriが語るヴィーガン、環境、豊かさ 「ベターな選択、一人一人が考えないと」

LifeStyle

■自分のエゴなんて取るに足らない

福田 ヴィーガンになったきっかけは。

eri 動物性食品を食べないことで、消化に余計なエネルギーを使うことなく頭がさえると聞いて始めました。そこまで厳しくやっているわけでもなくて、いただいたお菓子に卵や乳製品が入っていても食べることもあります。食べ物を残したくないという思いもあるので。

約4年続けて、食べるものが体調にすごく関係していることを意識するようになりました。そして、自分が以前は何も考えずに食べ物を口にしていたこともわかりました。菜食を通して、何を食べ、何を着て、何を選んで、どういう未来が欲しいのか考えるのはすごく重要なことなんだなと感じています。

平川 若い世代はSNSに日常的に触れていて、eriさんの発信をきっかけにヴィーガンに興味を持つこともありますが、親世代は違います。肉がないとエネルギーが出ない、というイメージも根強くあります。

eri 私は菜食に関連する番組をネットフリックスで親に見てもらいました。根気よくやっていくしかないかな。今は大豆ミートとかで置き換えがきく食べ物も多くて、工夫を楽しむこともできますし。

動物性のものを食べることって、私はたばことかお酒のような嗜好(しこう)品と一緒だと思っています。お肉やお魚をおいしく食べることが文化的に発展してきて今の肉食がありますが、それで環境負荷が高くなっている面もあるんですよね。みんながヴィーガンにならなければならないとは全然思いませんが、リスクを冒してまで食べるものなのかなと。

私は健康面からヴィーガンになって、動物福祉といった倫理面、環境面などへ考えが広がってきました。以前食べていた好きなお肉の料理もあります。でも、それを食べたい気持ちと、お肉の背景にある問題をてんびんにかけると、食べたいという自分のエゴなんて取るに足らないっていうか。欲求を追い求めてきた先に今の環境問題があると思うと、やっぱり生活自体を改めないといけないって、食を通して感じています。

■いま私たちは、トランジションにいる

eriさんにインタビューする上智大学3年生の平川楓さん(右から2人目)と福田みなみさん(右)、目黒隆行記者(左)

平川 ファッション界には(動物の革を使わない)ヴィーガンレザーがあります。受け入れは広がっていますか。

eri ヴィーガンレザーのシェアはこれから増えると思います。ただ、動物の搾取がないレザーを作ろうとすると、今の技術ではほとんどは石油を使わないと作れない。どっちが良いんだろうって、いろんな面から考えないといけない。

目黒 ヴィーガンを追求していくと、別のところで問題が生じることがあります。食の価値観が多様な中で、どうバランスを取ればいいのでしょうか。

eri フレキシタリアンって言葉がもっと普及したらいいなと思っています。自分の食べるものを選択する前提には、環境や動物福祉に自分たちの食卓が直接つながっているという理解を広げることが大事ですよね。私たちはいま、トランジション(転換期)にいると思っています、確実に。従来の消費社会に慣れ親しんできたところから、世の中が大きく変わるはざまにいて、ベターな選択を一人一人が考えないといけません。

■インクルーシブな社会を作るんだったら……

福田 ベジタリアンを公表している人がSNSにちょっとお肉を載せるだけで批判されることもあります。

eri 一人一人価値観が違う中で自分の意見を表明していくことって確かに難しい。私の場合、ディスカッションする場所を作っているようなイメージ。批判や非難されることも自分のアクションの一つだと思っていて、自分と違う意見を聞いてなるほどって思う時もある。この発言の仕方だとこういう風に受け止められてしまうんだなって気づく時もある。本当にインクルーシブな社会を作っていくんだったら、多様性みたいなものを自分も含めてもっと学んでいかないといけない。全部が気持ちいいことではないけど、いろんな側面を見る必要が自分は立場的にもあると思っています。

目黒 個人のマイクロなアクションと同時に、政治や企業側のアクションも進めることが大事だと言っています。

eri 地球が病気にかかっていると思うと分かりやすいかもしれません。野菜をたくさん食べたり運動をたくさんして健康的な生活をするだけでなく、手術をしたり、薬を飲んだりといったアクションも必要になる。個人のマイクロアクションも必要だし、政治や企業などが社会システムをドラスティックに変えていくことも必要で、その両輪で私たちはやっていかなきゃいけないんじゃないでしょうか。

■新しいカルチャーを作っているんだ

目黒 やはり政治というものは大事なんですね。

eri 政治でしか変えられない分野というものはあります。一人一人が声を上げて、望ましい未来への意見がきちんと形成されれば政治も動くと思います。

菜食って新しい食生活じゃないですか。私はカルチャーだと思っていて、新しいカルチャーを作っているんだ、という感覚があります。これまで楽しんできた食文化やファッションのベースを塗り替える時代なのかなと。新しい何かを生み出す社会運動にはいつもカルチャーが背景にあるし、それはやっぱり格好良くないと。菜食が格好良いことだっていうことを体現していくのが、もの作りをしている側の人間の使命だと思っています。

■豊かさの再定義

鈴木 ご両親の代から古着店を経営してきましたが、ファッションの世界も変えていくべきことは多いと感じますか。

eri 変えなきゃいけない部分もあるし、ある種の原点回帰が必要だとも思っていて。いま江戸時代の生地や糸の作り方を習っているのですが、いかに当時の人がものをリサイクルして使っていたかということがわかるんですよね。古着屋の娘に生まれて、自然に1940年代ごろからの洋服をずっと見ていますが、80年代に急に素材が変わってくるんです。より化学繊維が増え、お洋服もいかに大量に作れるかという仕様に変わる。ちょっと前のお洋服はもっと素材がしっかりして、長く着られた。私は70年代とか60年代の服を着ますが、もう全然ちゃんとしてる。いまその辺で安く買えるお洋服って、来年着られるかな、っていうものがすごく多いですよね。

ファッションってそういうものじゃないと私は思っているんです。今日着て明日捨てるようなお洋服が本当に欲しいのか、それともきちんと愛して長く使えるものが欲しいのか、その選択を今迫られている。

私は消費者という言葉は使わないようにしています。消費社会というものが今のこの状況を作り出していると思うので、生活者といった言葉を使います。消費するということ自体が本当に豊かなことなのか。それも含めて、豊かさの再定義がこれからの社会ですごく必要になってくると思います。食べるものも、お洋服も、政治も。

えり 米ニューヨーク生まれ。DEPT Company代表。2015年に父親が創業した古着屋「DEPT」を再スタート。ヴィーガンカフェ「明天好好」のプロデュースや、社会問題がテーマのPodcast「もしもし世界」配信など多岐にわたり活動する。

■インタビューを終えて

はじめは、ヴィーガンを取り巻く人々のオシャレさに引かれて、ヴィーガンというライフスタイルに興味を持った。アパレルブランドが手掛けるヴィーガンレストランには抜群のファッションセンスを持った人々が訪れ、洗練された食生活で美しい体形を手に入れている……そんなフワッとした憧れの気持ちから、ヴィーガンがもっと多くの人に浸透するといいのにな、と考えていた。だが、ヴィーガンに対する理解を深めれば深めるほど、そのような理想とはあまりにも乖離(かいり)した現実に気づき始めた。

上智大学生の平川楓さん

確かに若い世代はオシャレやダイエットに興味を持っているが、それと同じくらいお肉が好きだし、革製品が好きだ。アルバイトで稼ぐ少しのお金で成長真っ盛りの食欲を満たすほどの野菜や代替肉は買えないし、まず、ともに生活する家族から理解してもらえるかも不明だ。理想と現実の乖離を前に打ちひしがれていたとき、憧れのeriさんにお話を聞くことが出来た。そして取材を通して、大きく考え方が変わった。

「自分が食べたり使ったりするモノの背景には自分と同等の命が存在していて、彼らを犠牲にしてまで自分が何かを食べたり、使ったりしたいのか、それが格好良い行動なのか、そう考えた時に自分が納得できる行動がしたい」

「自分にとっての『豊かさ』とは何なのか、考える必要がある」

このような言葉を聞いて、ヴィーガンというライフスタイルの真の魅力は精神的なところにあるのだと気づかされた。自分が食べるモノ、使うモノを選択する行動は、自分の生き方に自信を持ち、自分自身を愛することにつながる。今まで何げなく使っていた革製品も、その背景を理解することでありがたみに気づき、もっと長く使おうと思える。

だからと言って、私が明日から完全にヴィーガンになれるのかと言ったら、そうではない。先に述べたような現実的な問題は、つきまとい続ける。しかし、今自分が「豊かではない」「格好悪い」行動をとっているという自覚を持つことであれば、今すぐにでも、誰にでもできる。

私は自分の行動を選択する時に、少しでも自分を好きになれる、納得のできる選択をしていきたいと考えている。(平川楓)