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まさに「ほぼ卵」 キユーピーが作った代替卵「ほぼたま」、ヒントはある京都名物

LifeStyle 更新日: 公開日:
「ほぼたま」を使ったメニューのイメージ=キユーピー提供

「日本で最も卵に精通しているメーカー」を自認するキユーピー(東京都渋谷区)が今年、卵を使わずに植物性の原材料だけで作ったスクランブルエッグの販売を開始した。その名も「HOBOTAMA(ほぼたま)」。卵アレルギーがある人や、動物性の食品を食べないヴィーガンでも食べることができる。販売は業務用のみだが、市販化を望む声が多く寄せられている。世の中に必要とされるものを作りたい、と考えた開発者・梶聡美さん(34)が発想のヒントにしたのは、京都名物のあの食べ物だった。(目黒隆行)

■京都での食事がヒントに

パッケージに入った状態の「ほぼたま」=キユーピー提供

――卵を使わない商品を作ったのにはどのような経緯があったのですか。

2019年に新設された部署で、これまでの発想から離れて、卵を使わないで世の中に必要とされるものを作ろうという思いで開発を進めました。当時は大豆ミートなどの代替食品が普及し始めていたころ。食の多様性が広がっているという感覚がありました。そうした代替食品にも合う「卵」があれば、メニューの幅が広がるんじゃないか――。そう考えて、まずはやってみようという感じで始まりました。

調味料では卵を使わない「エッグケア」というマヨネーズタイプの商品も販売しています。アレルギーで卵を食べられない方にも、こういった商品がきっかけになって新しい食経験を提供できるのではないか、という思いもありました。

――開発のヒントになったものは何かありますか。

湯葉です。旅行が好きで、京都に行けば湯葉を食べていました。湯葉丼を食べてびっくりしたのが記憶にあります。ご飯の上に湯葉をのせる経験がなかったのですが、意外に合うんだという発見がありました。当初から湯葉をヒントに作ってみようと考えていましたが、京都旅行での体験をうまく生かせました。

■執念の「ふわとろ」感

解凍して袋から出した「ほぼたま」=キユーピー提供

――実際ほぼたまをいただいてみました。ふわふわした食感にびっくりしました。

ふわとろ感を追求し続けてきました。少し製法を変えると固くなったり、べしゃっとしたりしてしまいます。卵が好きなので、卵を使わなくても卵の一番おいしい状態を届けたいという、執念でこのふわとろ感にたどり着きました。

――そもそも、卵に詳しいキユーピーがなぜ卵を使わない商品を作ろうとしたのでしょうか。

海外では代替卵がいくつか出ていますが、日本で初めてとなった時に「なんだ、代替卵ってこんなものか」と思われたくないという気持ちがありました。「おいしい卵とは何か」ということに精通しているという自負はありますので、おいしい代替卵は私たちが一番最初に日本で作るんだ、という使命感を持っていました。

「ほぼたま」開発者の梶聡美さん=キユーピー提供

――開発の途中では、卵とは何かについて、考え込んでしまうこともありましたか。

そうですね、社内の開発者の中でも、一人一人卵の味がこれだっていうのは全く違います。卵黄のコクだという人もいれば、鼻から抜ける卵白の香りだという人もいます。何がおいしい卵か、という定義が人それぞれ違うので、どこに狙いを定めるかは難しいところでした。

ただ、小手先の味や香りにこだわらずに、何にでも合わせられるという卵の汎用(はんよう)性、それこそが個性だとも思います。ですので、余計な味を出さない方針にしました。それがかえって、ブレークスルーのポイントになったのかもしれません。開発のスピードも上がりました。

「ほぼたま」を使ったハンバーガーのイメージ=キユーピー提供

――卵アレルギーの人や、植物性食品を積極的に取りたい方でも食べることができます。

そういった方々にも卵を身近に感じていただける選択肢の一つだと考えています。ハンバーガーなどにも組み合わせて使えますし、黄色い彩りを加えることで見た目でも楽しんでいただけると思います。(週に一度肉を食べない)ミートフリーマンデーなどの食生活にも採り入れていただけるものになると思います。

商品の発表後、卵アレルギーに悩むお客様からたくさんの声をいただきました。こういった商品を作ってくれてうれしい、ぜひ家庭で食べたいという声が本当に多く、反響に私たちも驚きました。なんとか市販化に向けて検討したいと思っています。

■試作139回「暗闇の中を手探り」

「ほぼたま」の開発風景。右が梶さん=キユーピー提供

――試作回数は139回にも上ったと聞きました。

120回くらいまではなかなかうまくいきませんでした。卵を使わないという新しい挑戦でしたので、社内の先輩方の経験も通用しません。試作の数としては少ないかもしれませんが、暗闇の中を手探りで進んだ139回でした。色や滑らかさなど、細かいところまでこだわりました。社内でOKとなった時はすでに発売予定日が決まっていたので、安心したというのが正直なところです

――ここまで卵にこだわるということは、やはり卵が好きなんですか。

子どもの頃から偏食で、卵ばかり食べていました。高校生の時はお昼休みにゆで卵を食べていましたし、大学時代はオムライス屋でアルバイトして、主食がほぼオムライスの時期もありました。

入社してからもオムライスがどうしてもやりたかったんです。「ほぼたま」には私の理想のオムライス像をすべて入れ込みました。半熟感をもう少し抑えようかと悩んだ時期もありましたが、やはり私が毎日食べて飽きないような商品にしないと買っていただけないと思い、そこは貫きました。自分で料理しても簡単には作れないふわとろ感に仕上がっていますよ。

かじ・さとみ 2009年キユーピー入社。ゆで卵製造ラインやタマゴサラダの開発などをへて、グループ会社のキユーピータマゴに2019年に新設された開発本部新領域創造部に配属。約2年かけてHOBOTAMAを完成させた。