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シュクメルリの日本風アレンジってどう? ジョージア大使に聞いたら感動の答え

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インタビューに応じるティムラズ・レジャバ駐日ジョージア臨時代理大使=東京、関根和弘撮影
インタビューに応じるティムラズ・レジャバ駐日ジョージア臨時代理大使=東京、関根和弘撮影

ティムラズ・レジャバ氏がシュクメルリについて熱く語る動画

――日本ですっかり有名になったシュクメルリですが、ジョージアに何度も行ったことがある料理研究家でも数年前に初めて知ったという反応でした。この料理の歴史について教えて下さい。

シュクメルリのルーツはジョージアの北部にあるラチャ地方です。私の母のふるさとでもあります。

この地方にシュクメリという村があって、ここの料理人が考案したという言い伝えがあります。ただ、それは定かではありません。

誕生したのは19世紀前後と言われていますが、食文化の歴史が古いジョージアでは最近の料理と言えるでしょう。なにせワインは8000年もの歴史がありますから。

ジョージア人ならみんな知っている料理ですが、例えば日本で言うところのおにぎりのような存在であり、ジョージアの「お袋の味」でもあるハチャプリと比べると少し違う位置付けかもしれません。

シュクメルリ=gettyimages
シュクメルリ=gettyimages

――というと、ジョージア料理と聞かれて真っ先に挙がるものではない、と。

私自身は、ジョージアにいらっしゃる日本の方には必ず振る舞う料理の一つではあります。ただ、それはいわゆる王道のメニューから一歩踏み込んだものをご紹介するようなイメージです。ジョージア人が日常的に食べている料理といった感じですね。

例えば外国の人が日本に来たとき、お寿司や天ぷらは食べたけれど、豚汁を食べる機会というのはありそうにないですよね。シュクメルリもそれに近い感じなのではないかと思います。

つまり、外国の人も知っているような定番料理のトップ10には入らないけれど、国民はみんな知っているという感じのものですね。

ジョージアの食文化は多彩です。各地方に色んな郷土料理があります。それはジョージアがアジアとヨーロッパの間にあって文化交流が盛んだったことや、ワイン発祥の地でもあることなどが影響しています。

郷土料理として外せないものといえば、先ほどお話ししたハチャプリ以外にも、粉物のヒンカリやキュウリとトマトのハーブサラダ、パン類やチーズ類をはじめ、スープもメイン料理も多く、レパートリーは切りがありません。また、シュクメルリもそうですが、鶏肉の料理が豊富です。

特徴を一つ挙げるとしたら、クルミを多く使うことでしょうか。ジョージアが原産国だということもありますが、これだけクルミの消費量が多い国も珍しいと思います。スープから主食、デザート、ソースまで、全てくるみで構成されるメニューもあるほどです。サツィヴィ(鶏肉をくるみソースで煮たもの)などは、その代表です。

――日本では松屋でシュクメルリを知った人がほとんどだと思います。商品化のきっかけは。

ご縁は突然のことでした。松屋さんではシュクメルリを定食として、ご飯と一緒に提供されましたね。そこが市場を開いたのだと思います。日本人になじみやすい形でした。

松屋さんから事前に概要はうかがっていたのですが、実際の中身は知りませんでした。国旗や国名の扱いなど、事務レベルの確認のみでしたので、そこまで気にしていなかったのです。それだけに、いざ蓋を開けてみたら大盛況で驚きました。

――定食という形に違和感はありましたか。

私自身も色々と知りたくて、後から松屋さんを取材したほどです。それによると、松屋さんは当時、とにかく何か新しい料理を探していたということなんですね。

けれども、松屋さんで展開させるとなると、必ず「定食」という型にはめ込まなくてはならない。つまり、それに適した料理でなくてはならない。

飲食店「松屋」が販売してヒット商品となった定食「シュクメルリ鍋定食」=松屋フーズ提供
飲食店「松屋」が販売してヒット商品となった定食「シュクメルリ鍋定食」=松屋フーズ提供

――要するにご飯に合う味、ということですね。

お客さんにしっかりと強く印象づけ、リピートしてもらえるようなメニューであることが必要で、様々な料理をリサーチされたそうです。

その過程で、たまたま日本人の旅行者がネットに書き込んだ投稿を見つけたそうなのです。それは「シュクメルリという料理がおいしくて、日本人の口に合う」といった内容のもので、それがきっかけとなって最終的にあのような定食の形が生まれたのです。

新しいメニューにはもう一つテーマがあったそうです。それがなんとニンニクでした。シュクメルリはニンニクのソースを使った料理なので、二つとも条件をクリアしたというわけです。

最初は限られた店舗でのテスト販売だったものが、その後、全国展開されました。翌年にも再登場を果たしましたが、その頃になると、他社からレトルト商品やカップ麺まで販売されるようになり、コンビニエンスストアにも並びました。

レトルト商品の製造元の松原食品さんにいたっては、コロナ禍のマスク習慣から、ニンニクの香りを気にせず食べられることを強みに商品化を決めたそうです。

そうしてこの料理は、気づいた時には日本でかなりの「人気者」になっていました。

シュクメルリのレトルト商品(右)とカップ麺=東京、関根和弘撮影
シュクメルリのレトルト商品(右)とカップ麺=東京、関根和弘撮影

――商品化はレジャバさんから売り込んだのですか。それとも自然発生的に広がっていったのでしょうか。

我々は食文化の概要をお話しすることはできますが、シーンやターゲット、料理の具体的な提案ほど知識はなく、専門家でもありません。

例えば、今年の冬に再び限定発売された松屋さんのシュクメルリにはサツマイモが入っていましたが、ジョージアにはそもそも食べる文化がない。つまり、日本の皆さんへの提案として思いつかないわけです。

――本場の味はどのようなものでしょう?

シュクメルリはニンニクを食べるための料理、とも言われるほど大量のニンニクが効ているのが特徴です。一度食べたら癖になる、人懐っこい食べ物だと思っています。

材料は大変シンプルで、ジョージア名物であるひな鳥を丸ごと一羽、大量のニンニク、バター、塩、水。場合によっては少しだけスパイスを加えます。基本的にはこれだけです。

塩をふって焼き、脂を落とした鶏一羽をニンニクとバター、水を加え、乳化させたソースが白濁したところでグツグツ煮ます。

ジョージアで人気の食材である放し飼いの鶏肉一羽をニンニクと水、バターで煮たような感じでしょうか。

ジョージアでも、お店によってはその他の乳製品を入れるケースも増えているように思いますが、本来はクリーム煮のようなこってりとしたものではなく、とてもシンプルでサラッとしたものなんです。

――どのようなシーンで食べられていますか。

ジョージアには「スプラ」という宴会の文化があります。「タマダ」という宴会部長が場を仕切り、テーブルにはずらりと料理が並びます。シュクメルリはこの中の一つとしてよく出てきます。

「ケーツィ」と呼ばれる、鉄板より少し深い浅鍋ごと調理されてテーブルに並びますね。大きさでいうと松屋さんの浅鍋と同じくらいでしょうか。それをワインとともに、みんなで分けて食べます。

一方、ジョージアと鍋のサイズが同じであっても、日本の定食の場合は一人が食べきる想定です。他の小鉢や汁物などと一緒にご飯と一緒に合わせていますので、意味合いが少し違うのかも知れませんね。

インタビューに応じるティムラズ・レジャバ駐日ジョージア臨時代理大使=東京、関根和弘撮影
インタビューに応じるティムラズ・レジャバ駐日ジョージア臨時代理大使=東京、関根和弘撮影

――シュクメルリの日本流アレンジについてどう思いますか。

決まった型がないのが料理の素晴らしさだと思っています。国によって気候も違えば、空気の質も違います。その土地によって食べて美味しいと感じる具合も違う。だからこそ地域や人によって同じ料理でも大きく形が変わる。

日本で商品化されたシュクメルリも確かに、故郷のジョージアのものとは違う部分もあります。けれども、基本的な味の構造となる土台は同じなんですよ。

乳製品、鶏肉、ニンニク。これらがうまく絡み合って表現されている。日本風にアレンジはなされているものの、食べてみると「これはシュクメルリだな」ということがジョージアの人にきちんと伝わってくる。何より、ご飯によく合います。

私は、アレンジされたものと現地の味、両方を含めていろんな形で普及していったら、それが一番よいのではないかと思っていますね。

文化として形を変えたとしても、その国々で受け入れられやすい形で普及して定着して、もっと知りたい人は本物を食べに行こうとなるでしょうし。それで、本物を伝える機会も自然にできてゆくのではないかと思います。

飲食店「松屋」が販売して人気になったシュクメルリ=松屋フーズ提供
飲食店「松屋」が販売して人気になったシュクメルリ=松屋フーズ提供

――柔軟でいらっしゃいますね。世界では「SUSHI論争」なども絶えないですが。

例えば「カリフォルニアロールこそが寿司だ」と思っているアメリカ人は多いと思いますが、あの形までたどり着くのは大変なことだと思います。

確かに「お米とのりを巻いて、具と合わせる」形を思いついたのは日本の方です。カリフォルニアでは味付けにマヨネーズが入ったりして、変化している部分はいくつもありますね。けれども、向こうの人にはそれが愛されているんです。

「提案の元は日本のお寿司で、それが世界中で広がっている」。考えてみたら、これは非常にありがたいことで、人を幸せにしている。

一方で、本物はどういったものかと知るのもまた面白いですし。そう感じた人は日本にやってくるかもしれません。日本にとっては大きな文化の宣伝になっているわけですからよいことではないでしょうか。

ジョージアの料理にも、我々の想像の枠を超えた可能性があると考えています。「文化を伝えることとは?」という、我々の本来の問いそのものが改まる、良い機会になっていると思っていますし、大いに歓迎もしたいと考えています。

カリフォルニアロール=gettyimages
カリフォルニアロール=gettyimages

――日本でシュクメルリが人気になったのは、ちょうど大使ご就任の時期と重なりますね。この料理によって多くの人がジョージアという国に興味を抱いたことでしょう。

私の着任は2019年7月でした。まず、日本でジョージアがどのようにとらえられているのか知りたいと思いました。

さまざまな人をヒアリングしましたが、「名前は聞いたことがある」「栃ノ心関ら力士の名前なら知っている」などといったものが大半。そして、ジョージアという国名は聞いたことがあっても、その先に何か思い浮かぶわけではないこともわかりました。

そんな状況でしたから、すごいタイミングでシュクメルリ定食が登場したと言えますね。コロナ禍の始まりの頃でしたので、旅行もできませんし、イベントなどで紹介する機会もない。思ってもみない形での効率的な宣伝になりました。これから始まるのだという期待感とうれしさ。よいサプライズになりましたね。

――日本での暮らしも長いそうですが、日本の料理とジョージアの料理、共通点はどんな部分にあると思われますか?

共通点は二つあると明確に感じています。一つ目は料理に地域性があるところです。

日本同様、ジョージアにも四季があります。産地で食べるからこそ美味しさが味わえるところ。素材の美味しさを楽しむところ。旬の素材が地域によって様々であること…。新年やイースターをはじめ、様々な行事食がある部分も共通しています。

もう一つは、料理を単なる食べるものとしてだけでなく、人同士がつながるツールとして大切に考えているところです。

お客さんが来たときには料理を通じて振る舞う、おもてなしの精神ですね。

在日ジョージア大使館に飾られたジョージアと日本の国旗=東京、関根和弘撮影
在日ジョージア大使館に飾られたジョージアと日本の国旗=東京、関根和弘撮影

――ともに長寿の国でもありますね。

日本の方はジョージアの料理がよく口にあうとおっしゃるのですが、考えてみるとどちらも調理法がシンプルです。

肉は焼いて脂を落とし、さっぱりさせる、ゆでて脂を流す、脂っぽいものには酸味を合わせる…。日本は漬けものが豊富ですが、ジョージアにもジョンジョリというピクルスのレパートリーが限りなくあります。発酵料理が多い部分も共通しているのではないでしょうか。

――シュクメルリに続き、どんなジョージア料理を日本人に味わって欲しいですか。

実は近いうちにハルチョーがレトルト商品として発売されそうです。ジョージア原産のクルミとお米をベースにしたスパイシーな牛肉のスープで、それこそベスト10に入る国民的料理ですね。

米のとろみ、クルミのコク、牛肉の旨味。そこにスパイスが複雑にからみあい、トマトの酸味が広がります。美味しそうでしょう?これがまた、日本の方にどういった受け止め方をされるのか楽しみです。

また、先ほど私が日本のおにぎりに例えたハチャプリ。これは、地方によって形も様々なチーズパンですが、最も定番の日常食で、食卓には必ず出てきます。家庭ごとの味もあります。

これもまた日本なりの形になってゆくのかわかりませんが、もし食べられるようになったらうれしいと思います。

あとはワインですね。8000年の歴史がありますし、熟成に使用する貯蔵壺「クヴェヴリ」も文化遺産に登録されています。

ぶどうも500種以上あります。飲み方一つにしても古来の記憶が込められた、フレンドリーで輪を大切にする風習がある。こういった文化とともにワインを広める機会が増えたらと思います。

シュクメルリが日本で確固たるポジションを作ったことは大きな出来事でした。これが他の料理、あるいはジョージアに対する何かしらの形につながることを期待しつつ、日本との交流をより深めていきたいです。

ジョージアの水色のワイン「ケサネ」(ジョージア語で「わすれな草」の意味)を示すティムラズ・レジャバ駐日ジョージア臨時代理大使。白ワインに赤ブドウの皮の色素を混ぜてこの色ができあがったという=東京、関根和弘撮影
ジョージアの水色のワイン「ケサネ」(ジョージア語で「わすれな草」の意味)を示すティムラズ・レジャバ駐日ジョージア臨時代理大使。白ワインに赤ブドウの皮の色素を混ぜてこの色ができあがったという=東京、関根和弘撮影