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プーチン氏の後継議論も ロシアの論客たちが語る2021年の展望

迷宮ロシアをさまよう
ロシア連邦議会の下院。2021年総選挙の行方はいかに?(撮影:服部倫卓)

悲観論が支配的なロシアの論壇

今回のコラムでは、ロシアの論壇で有識者たちが年末から年始にかけて、自国についてどんな展望を語っているのかを紹介しながら、2021年のロシアの行方を占ってみたいと思います。

全体として言えるのは、現時点のロシアの論壇では、非常に悲観的なムードが支配的だということです。その一例として、社会・経済調査センター「アスペクト」を主宰するG.フョードロフ氏の見解をご紹介しましょう。

「2021年は、我が国にとって苦しいものとなるだろう。経済、政治、社会など、あらゆる意味においてだ。というのも、ロシア経済も、社会政策も、単に良くなっていないだけでなく、大幅に劣化しているからである。2021年には下院選挙があり、国際環境もロシアにとって不利であり、さらに社会をかえりみない政府の政策によりロシアではもう6年間も国民の所得が低下している。これらのことが積み重なり、国民の一層の貧困化が進むことになる。貧困線以下で生きている国民が、すでに2,000万人いる。

2021年は、政権側にとってもしんどいものになる。深刻な経済・社会状況の中で下院選を戦うのは、大きな試練だ。こうした連邦レベルの選挙戦は、なんらかの『うねり』を引き起こすものなので、政権にとってのリスクは巨大である。国には貧困が蔓延しており、貧しい民というのは動きが読めず、革命的な変化を望んだりもするものである」

このように、フョードロフ氏の見通しは、非常に厳しいものです。もっとも、ロシアには「先に良いことを言いすぎると、逆に悪いことが起きてしまう」という迷信があるそうです。ですので、ロシアの論客たちも、「ちょっと大袈裟に悲観論を述べておくくらいが丁度良い」と思っているフシもあります。ロシアを取り巻く内外の環境が厳しいことは事実ですが、「悲観論を言いがち」という国民性は考慮しておくべきかもしれません。

経済はどうなる

経済に関しては、ロシアを代表する民間銀行のアルファバンクのP.アベン社長とN.オルロワ主任エコノミストが年末に連名で『ベードモスチ』紙に寄稿し、次のような見通しを示しています。「2021年は、経済回復の年と見られている。しかし、どのくらいのスピードで回復するかについては、2020年の最後の数ヵ月、とりわけ最後の数週間で、より慎重にならざるをえなくなった。2020年の半ば頃にはまだ、2021年には正常な生活に完全に戻れるという期待があったが、現在はそれに数年を要するというシナリオが現実味を増している。ワクチン開発は進展しており、ロシア政府は2020年のような厳格なロックダウンは回避すると見られる。それでも、ワクチン接種は一定の時間を要し、すべての制限措置が早期に解除されるとは期待できない」

一方、ロシア経済の屋台骨を支える石油産業では、ロシアを含むOPEC+の枠組みで、2020年5月から大幅な協調減産が実行に移され(ロシアの生産量については下図参照)、減産はその幅を緩和しつつも2021年も継続されることになっています。格付け機関「エクスパートRA」のS.ティシチェンコ所長は、次のような見解を示しています。「OPEC+の枠組みで実施されている石油の協調減産により、価格の安定が保たれている。我々の予想では、2021年にブレント油価は1バレル当たり55~57ドル程度となろう。今日の石油市場は実質的に、OPEC+の監視委員会の管理下にある。ロシアを含む協定の当事国は、エネルギー資源に対する世界的な需要の回復の動向にもとづいて、生産割当量の拡大を決定していくことになる。翻ってその需要は、人々の移動が再開し、制限措置が緩和され、ワクチン接種が迅速に行われるかにかかってくる」

一方、これはロシア人の専門家ではありませんが、ロシアのシンクタンクからもしばしば意見を求められるリエージュ大学のマダリナ・ビカリ氏は、天然ガス市場について以下のようにコメントしています。「どうやら、コロナ危機の打撃は、石油や石炭に比べて、天然ガスでは比較的軽微と思われる。世界的なワクチン接種により、パンデミックの終わりが近付いてくるはずであり、それにつれてガスへの需要は、急激にではないにしても、徐々に回復することになろう。特に、欧州と、アジアの一部では、石炭および石油からガスへのシフトにより、ガスの需要が回復する。ロシアのガスプロム社も、欧州向けの輸出量を2020年の1,700億立米から2021年には1,830億立米に拡大することを見込んでおり、価格も33%上昇すると見ている」

対米関係は悲観論一色

アメリカではいよいよ1月20日にバイデン政権が発足します。この連載でも昨年11月に、「ロシアは米バイデン政権の誕生に戦々恐々」というコラムをお届けしましたが、それ以降もロシアの論壇では対米関係に関し悲観論一色です。以下で、目に留まった意見を3つほど紹介しましょう。なお、必ずしも筆者がこれらの意見に同意しているわけではなく、あくまでも「ロシアのメディアではこうした空気が横溢している」ということをお伝えする趣旨ですので、悪しからず。

まず、政治団体「強いロシア」のM.バルジン理事は、次のようなことを述べています。「バイデンがロシアとの関係構築に前向きだとは考えられない。ロシアに対する厳しい見方は、選挙キャンペーン中に再三述べていた。バイデンは2014年にウクライナのユーロマイダンを支持していたが、その後ウクライナがクリミアとドンバスを失ったため、ウクライナに負い目を感じており、失地を回復してあげようとするだろう。バイデンはモルドバのサンドゥ新大統領についてもバックアップしていくだろう。ベラルーシについても、リトアニアとポーランドの助けを借りながら、破壊的な野党勢力への支援、制裁などによりルカシェンコへの圧力を強め、ロシアから引き離そうとするに違いない」

ロシア科学アカデミー・アメリカ・カナダ研究所のV.バシリエフ主任研究員の見方はこうです。「バイデンはロシア問題の指揮を自らとろうとするだろう。国務省やその他の機関に丸投げするようなことはせず、政策は自らが主導することを望むはずだ。バイデン政権はまさに、ベラルーシ、ウクライナ、南コーカサスなどの旧ソ連空間の問題に重点を置くことになると思う。アメリカの理論家たちが提唱しているのは、ロシアの周辺にトラブル地帯を作り出し、情勢を尖鋭化させ、それによりロシアに圧力を行使するというものだ」

ところで、1月上旬にアメリカで、トランプ支持者らが議事堂に突入する事件が起きましたが、それを受け複合欧州・国際研究センターのD.スースロフ副所長は、次のようにコメントしました。「バイデンはもともとロシアに対して敵対的な路線をとるつもりだったが、今回の事件が起きたことでより一層ロシアとの対決色を強めるだろう。反ロシアの調子はより強迫観念にとりつかれたものとなり、あからさまにロシアを悪者にしようとするだろう。アメリカの伝統的な政治エリートたちには、トランプという国内の敵に加えて、外部の敵も必要となり、その役割を果たすことになるのがロシアである」

内政の焦点は下院選挙

2021年のロシアを展望するに当たって、メルクマールとなるのが、9月19日の投票が予定されている連邦下院選挙です。2016年の選挙を受けた現時点の議席配分は下図のとおりとなっており、与党「統一ロシア」が3分の2を優に超えています。その他は、共産党、自由民主党、公正ロシアといった、いわゆる「体制内野党」が脇を固める形であり、政権側にとっては盤石の勢力図です。プーチン政権は2021年の下院選でも、統一ロシアが3分の2を大きく超える議席を獲得することを、当然のノルマとして設定しているということです。

しかし、それは容易な課題ではありません。政治工学センターのA.マカルキン副所長は、次のように指摘します。「前回2016年にはまだクリミア併合効果が残っており、当時は野党に投票することがあたかもオバマ米大統領を支持するのと同じような行為だと考えられた。それゆえ、政権に批判的な有権者は棄権するか、『無難な』自由民主党に入れた。それに対し、2021年にはクリミア効果は霧消しており、むしろ2018年の年金改革、コロナのパンデミック、経済危機といった要因が社会のムードを決定付けているわけで、与党は難しい戦いを迫られる」

北西専門分析センターのY.コレスニコワ所長も、与党の苦戦を次のように予想しています。「現代の政治は、TikTokのようなものだ。人々は常にスマホで新しいものを検索しているわけで、そんな時代に『統一ロシア』は、『停滞』としか連想されない」

プーチンの後継問題は?

さて、これは2021年だけの問題ではありませんが、今後のロシアの国家体制を左右する大きな問題はやはり、プーチン現大統領が2024年の(さらには2030年の)大統領選に出馬するのか、それとも後継者を指名して身を引くのかという点です。

実は、これに関し、年末に興味深い動きがありました。野党(ただし上述のように「体制内野党」としてクレムリンとは協力関係にある)自由民主党のV.ジリノフスキー氏が、8名から成るプーチンの後継者候補のリストなるものを明らかにしてみせたのです。具体的には、M.ミシュスチン首相、S.ショイグ国防相、S.ナルィシキン対外情報庁長官、V.ボロジン下院議長、V.マトビエンコ上院議長、A.ジュミン・トゥーラ州知事、D.メドベージェフ前首相、S.ソビャーニン・モスクワ市長の名前を挙げました。もっとも、ジリノフスキー氏は最後に「結局はオレがなるけどね」と付け加え、相変わらずのエンターテイナー振りを見せましたが。この「ジリノフスキーのリスト」についての2人の有識者の見解を紹介して、本稿を締め括りましょう。

まず、政治コンサルタントのK.カラチョフ氏。「これはあくまでもジリノフスキー氏の見方であり、現実とは必ずしも合致しない。もっとも、私はミシュスチン氏や、このリストに入っているその他の誰かの可能性を、否定しようとは思わないが。一方、A.クドリン元第一副首相・蔵相、G.ニキチン・ニジェゴロド州知事など、個人的にはリストに入ってもおかしくないと思う政治家もいる。そもそも、すでに有名な政治家が後継者になるとも限らない。プーチン大統領はサプライズ効果を好む。プーチン大統領は今のところ引退するそぶりは見せていないが、仮に退くとしたら、新しい人物が浮上する可能性がある。後継者は、国民からの支持の度合いと、プーチンへの忠誠心という、2つの面から検討される。個人的にプーチンに近いのはメドベージェフ氏であり、同氏はすでに試験を終えているが、有権者受けに問題がある。もっとも、体制側がその気になれば、どんな候補者でも勝たせることはできるが。国民は、ミシュスチン氏であれば、政権を託してみたいと考えている。国民は国際関係の緊張緩和を望んでおり、その点、ショイグ国防相は好戦的すぎる。ソビャーニン市長は有能な実務家だが、その野心はモスクワ市議会選で頓挫している」

ロシア科学アカデミー地理学研究所のD.オレーシキン氏の見解はこうです。「プーチン大統領は、後継者を探すことなど考えたこともない。彼は健康が許す限り国を治めるつもりだ。したがって、ジリノフスキー氏のリストは、まだ現実味がない。プーチン大統領の問題は、B.エリツィン元大統領と違って、誰のことも信頼していないことである。後継者に関する議論は理論的なものにすぎず、リストの中で誰が有望かなどということを詮索すること自体が無意味である。ジリノフスキー氏は、単に政治家ランキングで上位にいる人たちを列挙しただけである。ただし、なぜジリノフスキー氏がこの段階で問題を提起したのか、それが彼自身の発案なのか、それともクレムリンの要請によるものなのかについては、考えてみる必要がある」