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【石井遼介】うまくいくテレワークに絶対必要な「心理的安全性」とは?

LifeStyle 更新日: 公開日:
石井遼介さん=本人提供

新型コロナウイルス対策で再び緊急事態宣言が発令され、人の移動を抑える手段としてテレワークの重要性が増している。多くの人がそのメリットに気づいたものの、やはり気になるのは、対面とは違うオンラインでのコミュニケーションの取りにくさだ。同僚の反応が見えないことが不安だったり、ちょっとした相談がしにくくなったりしたと感じる人も多いのではないだろうか。こうした問題の多くは、まず良いチームを作ることから解決が始まる、というのが『心理的安全性のつくりかた』の著者、石井遼介さんだ。「心理的安全性」とはどんな考え方なのか。良いチームをつくるヒントはどこにあるのか、石井さんに聞いた。(澤木香織)

●石井遼介さんのプロフィール チームの心理的安全性を構築するためのサービスを提供する株式会社「ZENTech」取締役。一般社団法人「日本認知科学研究所」理事。慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント研究科研究員。心理的安全性の計測尺度・組織診断サーベイを開発。ビジネスの現場経験とアカデミアの知見を生かし、組織・チーム・個人のパフォーマンスを研究する。

■「うちのチーム、ボロボロだったんだ」

――テレワークでコミュニケーションが取りにくくなったという声をよく聞きます。昨年9月に出版された石井さんの著書『心理的安全性のつくりかた』(日本能率協会マネジメントセンター)では、「リモートワークはすでにあった『チームになれていない』という問題を明示化しただけだ」と指摘していました。どういうことでしょうか。

多くの会社がコロナでテレワークを始めたばかりの頃、「どんなツールを導入すれば良いか」という相談を受けることが多かったんです。ツールは大事ですが、「良いチーム」になれていなければ、ツールが入ったところで、すぐに上司やメンバーと話しやすくなるわけではないですよね。まずは良いチームを作り、その過程でツールを考える方がうまくいく。それがお示しした背景です。

――「チーム」に対する企業の意識は変わってきましたか。

テレワークになって改めて、「うちのチーム、ボロボロだったんだ」ということに気づいた方が多かったようです。以前は、みんなが同じ場所に集まり、たまに怒号が飛び交ったり、静かに詰めたりしつつも、仕事が進んでいた。一見マネジメントできていたように見えて、実際にはできていなかったのかもしれません。「良いチーム」や「協働して成果を挙げること」について、多くの企業が危機感を持ち始めていると感じます。

■「心理的安全=ヌルい」職場ではない

――石井さんの言う「良いチーム」とはどんなチームですか。

「チーム」と「グループ」を対比させるとわかりやすいでしょう。グループはただの人の集まりです。例えば、イベントでたまたま隣に座った人とその場で一緒に何かをすることになっても、「チーム感」は生まれにくい。しかし一定期間、一緒に仕事をしたり同じ目標に向かって何かに挑戦したりすると「チーム感」が出てくる。つまり、ただ複数の人が集まっているだけではチームではなく、グループに過ぎないんですね。ともに目標に向かいながら、お互いに良い意味での「負荷」を掛け合える、相互作用があることが良いチームです。

――良いチームを作る上で大事なのが「心理的安全性」という位置づけだと思います。心理的安全性とは何でしょうか。心理的安全性が高いチームとはどんなチームでしょうか。

心理的安全性とは「地位や経験にかかわらず、誰もが率直な意見を言えること」です。逆に「心理的非安全」なチームから考えるとイメージしやすいと思います。

取材をもとに編集部作成

非安全なチームは、罰や不安、不機嫌で人をマネジメントするチームです。何か意見を言っても、否定されたり、スルーされたりする。「何でも提案してください」と言われたのでアイデアを出したら、だめ出しされる――。そんなことが続いたら、誰も意見を言ったり提案したりしなくなりますよね。

誤解してほしくないのは、「心理的安全であること=ヌルい」ではないということ。心理的安全性が高く、仕事の基準が高い(下の図・右上)のが良い状態です。こういう状態にあるチームでは「まずやってみよう」「もうちょっとこうしてみよう」とお互いに対話できる。

NICU(新生児集中治療室)を調べた研究で、ミスをしたときにきちんと報告できる、心理的安全なチームの方が患者さんの予後が良くなるという結果(Tucker et. al., 2007)が出ています。ミスの「報告数」は多くなりますが、早めに言うことで対処できる可能性が増えます。一般の職場でも同じことが言えます。

石井さん提供

――そもそも心理的安全性はどのような経緯で生まれた概念でしょうか。

もともとは、マサチューセッツ工科大学のエドガー・シャイン教授とウォレン・ベニス教授が1965年に提唱した概念です。さらにハーバード大学のエイミー・C・エドモンドソン教授が1999年に「チームの中で対人関係のリスクをとっても大丈夫だ、というチームメンバーに共有される信念のこと」だと定義しました。

エドモンドソン教授は、当時チームワークと失敗の関係について研究しており、病院の医療ミスが起きる文化や構造を調査する中でチームの心理的安全性の重要性を知り(Edmondson, 2018)、経営学の中でそのコンセプトを確立させました。そして2016年、ニューヨーク・タイムズで「グーグル」の「完璧なチームづくり」を探求する取り組みの中で、最も重要なのが、エドモンドソン教授の提唱する「心理的安全性だった」と紹介(Duhigg, 2016)されたことを契機に、ビジネスのフィールドでも広く着目されるようになりました。

私たちの研究チームでは、米国と日本の文化的な背景の違いを踏まえて、エドモンドソン教授の研究をもとに、組織の心理的安全性を測るために「日本版4因子」を導きました。①話しやすさ ②助け合い ③挑戦 ④新奇歓迎の4因子です。組織診断サーベイ「SAFETY ZONE」としてサービス化し、すでに国内だけで1万人分のデータを集め、日々その精度を高めています。

石井さん提供

■イノベーションを目指すと言いながら…

――この4因子で計測するなかで、日本企業に特有の傾向や課題は見えましたか。

もちろんすべての企業に当てはまるわけではないですが、「イノベーション」という名前がチームや組織についているところに限って、4因子のうち「挑戦」の因子が低い傾向がありました。最も挑戦が必要とされるにも関わらず、なぜか挑戦因子が低かったのです。

――提案が求められるのに、受け入れられる環境が整っていない、ということでしょうか。

心理的「非安全」なチームで説明しましたが、「アイデアを出して」と言われて出したのに、そのたび詰められたら、普通はくじけてしまいます。多くのマネジャーは「厳しくすれば(部下は)がんばる」と思っているようですが、実は逆。厳しくすることは、行動量を減らす、ということです。また、マネジメントの立場からは、実際には「ほめる」ことの方が難しいという面もあります。だめな部分は気づきやすく、指摘もしやすいけれど、良い部分を見つけたり、より良い物に改善したりすることは大変なことです。

――私自身、思い返すと、「非安全」なチームにいたこともありました。なぜそれで仕事が成立していたのか、今思えば不思議です。

例えば、超人気企業で人材が集まりやすく、飛び抜けた人だけ残ってくれれば良い、という会社であれば成立したかもしれません。つまり「選抜する」上では、厳しくすることは役に立つ時もあるでしょう。ただ、今は多くの会社がそういう状況にはありませんよね。心理的安全性は、チームで学習すること、メンバーの成長や育成を大事にしています。いまいる人材がもっと生き生きと輝けるようにしよう、選抜ではなくチームとして成長できる環境を用意しようという考え方です。

また、なぜ罰や不安を与えるマネジメントがはびこってしまったかを考えたとき、上司の立場で短期的に見れば「メリット」があるからです。何かトラブルが起きたとき、上司が怒鳴っておけば部下もぴしっと引き締まって、「何とかします!」とか言うわけです。人間は、何か行動を起こした直後に「ハッピーな出来事」が起きると、その行動が増えることが分かっています。半年後に部下が辞めてしまうといった中長期的なデメリットを無視し、短期的にメリットがある「今、部下を詰めて、この場でなんとかしてもらう」行動を繰り返してしまうのです。

――テレワークであらわになった「コミュニケーションの課題」を乗り越えるためにも、「非安全」なチームは変わらないといけないですね。

変わらなければいけないフェーズにあります。特にこの1年、世の中が大きく変わり、誰も正解を知らない時代に突入しました。過去の経験が生きる分野もありますが、上の立場にいる人が正解を知っていて、社員のみなさんが手足のように動く時代は終わりました。

日本の大きな企業を見ていて、トップ層の人たちのプランをなんとか失敗させないように下の人たちががんばってしまうことがあると、気づきました。うまくいっていないのに、無理やり取り繕う。トップ層も一次情報を積極的に知り、不都合な真実でも受け止めた上で、変化に対応する必要がある。そのためには、ネガティブな情報にいちいち怒っている場合じゃない、ネガティブな情報でも上げてくれる部下は、むしろ重用すべきだと伝えたいです。

――テレワークの状況下でも、個々が取り組めることをいくつか教えてください。

まず、顔が見えないことで生じる課題は2つあります。一つは、「いつ相談して良いかわからない」こと、もう一つは「相手の反応がわからない」ことです。

一つ目は、「時間を決める」ことがおすすめです。相談を受ける立場の方なら、「何曜日のこの時間は空けておくので、なんでも相談してください」と呼びかける。二つ目は、素早くレスポンスをすることです。「反応」と「返信」を切り分けてもいいくらいです。

反応というのは、例えば、チャットに誰かが何かを投稿したら、とりあえず「見ました」という意味でスタンプを押す。「ありがとう」と一言書き込む。「返信」を重視すると、つい「きちんとフィードバックしなければ」と思い、時間が経ってから反応することがあると思います。相手は反応なく放って置かれている間、不安になりますよね。

まず反応し、すぐにフィードバックできなければいつ返事できるか、伝える。「すぐ返信できなくても、まず反応だけはしよう」そういった約束事をみんなですることで、余計なストレスはだいぶ減ります。

取材をもとに編集部作成

トップ層、管理職層、メンバー層それぞれでできることもあります。というより、心理的安全性はトップだけががんばっても、メンバーだけががんばっても構築できません。ひとりひとりが心理的安全な環境の構築・維持に協力していくことが重要です。

まずトップ層にいる方へは、2点あります。一つ目は、心理的安全性について基礎的なポイントを抑えた上で「こういう組織を目指そう」と宣言するのがおすすめです。これまで私たちも、国内大手上場企業の取締役研修などで心理的安全性について基礎をお伝えし、社内外に宣言することを依頼しています。実際に、心理的安全性を重視するとプレスリリースを出した上場企業もあります。トップの仕事として、まず「旗」を立てるのです。

二つ目は、立てた旗を、自分たち自身で守ること。つまり、少なくともトップ層配下の執行役員・本部長ら、管理職の方々との会議の場で、心理的安全性が担保されるよう意見を促したり、ミスに対する反応を返したりしていくことです。この実践を通じて、管理職の方々に心理的安全なチームの力を感じ取って頂くことが重要です。

管理職の方は、いま自身のチームの心理的安全性が低いと感じるならば、自身がその環境を作ってしまっている可能性がある。まずは何かを始めるより、何かをやめることが必要かもしれません。

ある大手企業の部長さんは、心理的安全性の組織診断サーベイを部内で実施し、その結果を開示した上で、部下に匿名のアンケートで、自分たち管理職と話すとき、コミュニケーションを取りにくいと感じるポイントはどこか聞いたそうです。

「部長って、僕がプレゼンしているとき、言おうとしていた結論を先に言っちゃうことがありますよね」といったことが書かれていて、最初にそのフィードバックを見た時は胸に刺さったそうです。けれども、その部長さんの素晴らしい点は、きちんと咀嚼して、真摯に受け止めたんですね。「またやっちゃうかもしれないから、そのときは言ってね」と言って実際に行動を変えていった。ついつい言っちゃった時は「ごめん、また聴き切る前に、言っちゃった」と。すると、部下からの新しい提案の数が倍以上に増え、クオリティも満足できるものになった。心理的安全性なチームの強さを実感した、と仰っていました。

石井遼介さん=本人提供

メンバー層でいくと二つあります。一つは、上司もマネジメントに悩んでいることに思いをはせること。その上で、意見を言いやすい環境を作ってくれたら「助かりました」と感謝を伝える。良いところを見つけてお互いほめ合えると良いですね。

もう一つは、心理的安全性の高いチームを作る当事者として、問題の中に自分自身を置くこと。「上司のせいで心理的安全性がつくれない」と上司を責め立てても、チームが変わることはありません。上司部下の関係だけでなくメンバー同士でも心理的安全性は必要ですから「この後輩・先輩の心理的安全性は私が担保する」というつもりで、4つの因子へアプローチしていくのがいいでしょう。

変化の激しい今の時代だからこそ、お互いに顔の見えないテレワークの日々だからこそ、わたしたちひとりひとりに、できることがあると思います。

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