2021年版「働きがいのある会社」No.1に輝いたシスコ
コロナ禍でリモートワークが普及するなど働き方の選択肢が広がり、働き手はより“自分らしく働ける環境”を求めている。そして、企業としては、より多様な人材を生かすためのダイバーシティの意識が大切になってきている。
この状況のなかで、20年前から「働き方改革」に取り組み、市場を取り巻く環境の変化にあわせて柔軟に働く環境を整え、社員のエンゲージメントを高めてきたのがシスコだ。
シスコはアメリカ・サンノゼに本社を構え、世界480拠点・約7万7千名もの従業員(日本の従業員数は約1300名)を抱えるグローバル企業。2019年、2020年には、世界各国の「働きがいのある会社」を調査・分析するGreat Place to Work®(GPTW)で世界1位を獲得。日本支社も今年2月に発表された日本国内「働きがいのある会社」(GPTWジャパン調査)従業員1000人以上の大規模企業部門で、2018年に続き第1位に選出された。
「ミッションや価値観が明確に定められ、それに基づき様々な制度や施策が設けられており、特に福利厚生、ダイバーシティ、コミュニケーション、教育などの面が明確な方針のもと豊富な施策が用意されています。働く従業員は事業に誇りを感じられており、仕事に行くことを楽しみだと感じられています」(GPTWジャパンHPより引用)という点が1位獲得のポイントだが、その「ミッション」や「価値観」とは、どのようなものなのだろうか。
トップダウンとボトムアップの双方向の関係性
シスコは、「いかに市場変化に対応しうる組織体制をつくり、社員のエンゲージメントを高め、イノベーションを促進できるか」という組織作りを大切にし、この“働きがい”のある企業をつくるために3つの基本理念を定めている。
- 「トップダウンとボトムアップの双方向の関係性を築く」
- 「一人ひとりの役割と期待値を明確にする」
- 「最初から完璧を目指さない」
「全員参画型の組織として、全社員が経営に関わっている意識をつくることが大切です。企業文化をつくるのも企業ではなく社員一人ひとりが日々の体験を通して『自分ごと』として作っていくことが大切です。これはトップダウンとボトムアップの双方向の関係性があってこそです」と執行役員・人事本部長の宮川愛氏は言う。
企業文化を「全員参加型」で育てることで、“働きがい”が生まれていくのがシスコの特長だ。その企業文化は、創業時から育まれてきたものだ。
「働き方改革」で、企業文化を育む
シスコが「働き方改革」に着手したのは2001年。以来、時代の変遷にあわせて現在までに大きく4段階にわけて改革をおこなっている。
「2001年の第1期では、営業社員の生産性向上の観点から在宅勤務を導入しました。2007年の第2期は子育てする女性をサポートするために在宅勤務対象者を拡大し、また本社移転にあわせて部署間の横のつながりが生まれるためのフリーアドレス制や、ペーパーレス化を推進しました」
2011年の第3期には、現在のシスコの企業文化の根幹でもある「インクルージョン&ダイバーシティ(以下、I&D)」の活動が本格的に始動した。
「ダイバーシティ&インクルージョンと呼ばれる企業が多いと思うのですが、シスコではあえてインクルージョンを前にしています。これは様々なバックグラウンドをもつ社員や、いろいろな状況や環境に置かれる社員などを受容(インクルージョン)して、お互いの多様性(ダイバーシティ)を認め合いましょうという思いからです。第3期は今から10年前。ちょうどコロナ禍のいまと同じように、日本が困難な状況であった東日本大震災のときです。家族と一緒にいたい社員や東京から離れたいという社員もいましたので、社員の安全と健康を最優先に全社員2週間在宅勤務にしました。このときに『皆がリモートでも仕事もコミュニケーションもできる』ということに全社員が気づき、働き方改革へのステップが加速しました」
I&Dから「インクルージョン&コラボレーション」へ
そしてI&D定着後、現在の第4期ではI&Dを一歩先に進めた「インクルージョン&コラボレーション(以下、I&C)」に取り組んでいる。これは多様性をもつ人が受け入れられるだけでなく、つながりあって価値を生み出すことを目的としている。
急速に進むデジタルトランスフォーメーション(DX)や、働く世代の変化による価値観の違いなど、多様性が求められるいま、「立場や価値観、性別、国籍などが異なる人達の力を包括的にまとめて、協働(コラボレーション)によって成果を上げていくI&Cは、経営戦略としてシスコの核になっています」と宮川氏は言う。
シスコはI&Cを推進する取り組みを、6つのグループに分けている。「Women of Cisco(優秀な女性社員の獲得、育成、維持)」や「Flexible Work Practices(革新的で多様なワークスタイルの推進)」、「Emerging Talent@Cisco(世代を超えたネットワーキングの促進による新たなアイディアの創出)」など、それぞれのグループで社員の有志がアンバサダー(中核)となって活動している。社員一人ひとりがI&Cを考え、取り組むことで、企業文化が育っていく。
このI&Cや働き方改革で醸成してきた企業文化(カルチャー)にくわえ、働きやすい環境を含め、カルチャーを戦略的に根付かせるための制度(プロセス)、そしてシスコ自社のコミュニケーションツールWebexをはじめとしたテクノロジーの3要素によって、社員の“働きがい”を支えている。
幸せな生き方につながる、働き方
ほかにも、グローバルで定められた共通の行動指針を“自分ごと”として全員で考え、行動していくプロジェクトなど社員が経営に参加することを大切にするシスコ。このプロジェクトには日本から約200の部署がチームとして参加し議論を重ね、ボトムアップで企業文化と価値観を築いていく。
コロナ禍の前からテレワークを週1日程度おこなう社員が40%以上いたシスコは、現在は80%以上の社員が出社を月に2~3回以下にする働き方を希望し、現在は出社率平均5%を実現している。“働きやすさ”“働きがい”がもたらす効果は大きく、「シスコで働くことを誇りに思う」と答える社員は96%にものぼる。
「働き方改革」や数々の施策をふくめた企業文化を醸成していくことで、シスコは働き手にとって大切な存在で、“働きがい”“生きがい”のひとつになっている。
宮川氏は最後に言う。
「『働くこと』は、ただお金を稼ぐだけではなく、一人ひとりに意義があるものです。日本には何かを犠牲にしてでも働かなければいけないというカルチャーが残っていますが、仕事は自分にとってわくわくするものであることが、幸せな生き方にもつながります。お金のためだけではない、そんな働き方を根付かせたいと思っています」