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北朝鮮の党大会が開幕 金正恩氏が認めた「過ち」とは

北朝鮮インテリジェンス
第8回朝鮮労働党大会で演説する金正恩党委員長=労働新聞ホームページから

党大会は2016年5月の第7回大会以来。正恩氏は5日の開会の辞で、2016年に始めた国家経済発展5カ年戦略について「期間が昨年で終わったが、ほぼ全ての部門で掲げた目標が全く達成できなかった」と述べた。

「体制の優越性」を強調する北朝鮮で、確かに失政を認めることは珍しい。ただ金正恩氏は過去、体制を維持するために、逆に失政を素直に認めるスタイルを取ってきた。17年の新年の辞では「能力が思いについていかず、自責の念にかられる」と反省した。昨年10月10日の軍事パレードでは、涙を流す場面を放映させた。北朝鮮当局は、市民を対象にした講演会などで「最高指導者に心配をかけさせてはいけない」と宣伝している。

北朝鮮では現在、携帯電話が600万台以上も流通している。市民は、物不足や劣悪な保健医療や教育サービスといった実情をよく知っている。失政を隠し通せるものではなく、逆に認めた方が体制への信頼が増すという判断だろう。

正恩氏は開会の辞で「犯した過ちを全面的に深く分析、総括する」とも宣言した。党大会までの4カ月間、関係者の聞き取りや資料の分析を行ったとも紹介した。

では、北朝鮮は何を間違えたのだろうか。

北朝鮮は過去5年間、それなりに経済を活性化させる措置を取ってきた。金正日総書記の時代は、市場で働く人の年齢制限や貨幣改革などを行い、市場活動を制限する動きも見せた。金正恩時代は、新型コロナウイルスの防疫対策を除けば、市場経済をある程度認める政策を続けている。

18年12月に咸鏡北道清津で撮影された市場の映像には、小麦粉や大豆、もち米などの値段を一生懸命説明する商人の姿が映っていた。1キロが7千ウォンのでんぷんを指さし、「6千ウォンでいいよ」と声をかけている商人もおり、当局が決めた公定価格を守らず、市場原理で商売している様子を確認できた。

北朝鮮北東部・咸鏡北道清津の市場=2018年12月撮影の映像から

また、不十分な保健医療サービスや災害対策が、経済成長を妨げていると判断。平壌などに専門病院を多数建設している。北朝鮮当局が作成した文書「災害リスク低減に向けた国家戦略」によれば、19年から30年までを3期に分け、防災情報の共有やインフラ強化を目指している。

しかし、不十分だった点も多い。例えば、「体制の維持」の障害になりかねないため、市場経済の完全な導入に踏み切れずにいる。北朝鮮では依然、私企業が認められていない。北朝鮮で撮影されたタクシーやバス、あるいは日本に漂着した木造船には、人民委員会や軍、国家保衛省の名前があるだけだった。脱北した元軍関係者によれば、金主(トンチュ)と呼ばれる富裕層が資金を出して船舶やバスなどを購入。取り締まりを避けるため、軍などに登録して商売するという。

こうした「赤い帽子をかぶった企業」の活動は、当局が関心を持つアパート建設や貿易業に集中している。当局が必要と認めない経済活動は制限される。いずれも、かつてソ連崩壊後の混乱の中、ロシアで台頭した「オルガルヒ」(新興財閥)のような勢力が北朝鮮でも生まれることを警戒しているからだろう。

また、北朝鮮には構造的な「賄賂」の問題もある。

朝鮮中央通信などによれば、党中央委員会政治局拡大会議は昨年2月、金日成高級党学校の幹部らを処分した。11月の同会議は、平壌医科大学で「重大な犯罪行為」があったと認定した。大学などでの収賄行為が原因だったが、個人の不正行為というよりも、党や軍など上位機関による「忠誠資金」の要求に備えたものだった。

北朝鮮では賄賂が各所で蔓延している。金正恩氏と取り巻きの特権層が法治を無視するため、賄賂なしに社会が動かなくなっているからだ。北朝鮮の統治システムを見直さない限り、こうした不正行為は根絶できない。

また、北朝鮮は2018年、米国や韓国に対話攻勢をかけた際、大幅な制裁緩和が実現できるという判断ミスも犯した。金正恩氏が同年の新年辞で「今年、最短期間での完成を目指す」と豪語した、日本海側の江原道のリゾート施設群「元山葛麻海岸観光地区」は外観が完成しただけ。国外からの輸入が滞っているため、内装工事に入れずにいる。

元山葛麻海岸観光地区の建設現場を視察する金正恩氏(中央)。2019年4月6日に朝鮮中央通信が配信した=労働新聞ホームページから

では、「失政を認めることを恐れない」金正恩氏が、失敗の本当の原因を明らかにし、是正することはできるだろうか。

朝鮮中央テレビは6日午後、第8回党大会が開幕した模様を録画放送した。会場の4・25文化会館では開会前、スーツ姿や軍服、チマ・チョゴリ姿の参加者らがまず、ステージカーテンに飾られた金日成主席と金正日総書記の肖像画に対し、深くお辞儀する姿を紹介した。会場の廊下に金正恩氏が白馬にまたがる姿や軍服を着て執務する姿などを描いた巨大な絵画が展示され、参加者が熱心に参観する様子も朝鮮中央テレビは伝えた。

金正恩氏が失政を認める演説をしても、誰もとがめない。最後は皆が、両手を顔の高さにまで上げて、熱烈な拍手を送った。会場内部には「闘争の大会」というスローガンが掲げられていたが、これは「体制を維持する闘争の大会」という意味だろう。

5日に開幕した第8回朝鮮労働党大会=労働新聞ホームページから

失政の責任は最高指導者である金正恩氏にあるが、自らの責任には言及しなかった。北朝鮮の場合、責任を追及する野党もいない。党大会の参加者らは皆、金正恩体制を支持することで恩恵を受けている。「深い分析と総括」など到底無理な話だ。

そして党大会では、党規約の改正と指導機関の選挙が行われる。体制死守が最優先課題である北朝鮮当局にとって、こちらの方が重要だろう。おそらく、金正恩氏の権威を高める措置や、実妹の金与正党第1副部長を中心にした更に正恩氏をバックアップするための体制づくりが進むはずだ。6日の会議では「より高い水準への国家防衛力の強化」も協議された。日米韓などとの対外関係も、体制を守るという目的に沿って決まることになる。