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【世界報道写真展】国境の壁、分断したのは人間だけではなかった

世界報道写真展から――その瞬間、私は
アレハンドロ・プリエト Alejandro Prieto メキシコ

米メキシコ国境にそびえ立つ、鉄条網が張り巡らされた壁。機敏に走り回ることで知られる鳥ロードランナーが、米アリゾナ州側の壁の前で立ち止まっている。

「越えられない」と悟ったのだろうか、撮影したメキシコの写真家アレハンドロ・プリエト(44)によると、10秒ほどその場に止まった後、やってきた方向に引き返し、再び姿を見せることはなかったという。

不法移民対策としての壁建設は、2016年の米大統領選でトランプが公約に掲げ、世論を二分する論争となった。18年には中米からの移民集団キャラバンが国境に迫り、その存在がクローズアップされた。ただ、壁の影響を受けるのが人間だけでないことは見過ごされがちだ。

両国の国境付近は1500種以上が息づくともいわれる、生物多様性に富む地域。野生生物の保護を担当する米魚類野生生物局によると、通り抜けができない壁の構造や夜間照明、周囲での人間の活動が原因で、絶滅の危惧などがある23の生物が壁建設の悪影響を受けるおそれがあるという。

「壁はこの地域の野生動物が、水や食べ物、仲間、気候の良い場所を求めて移動する妨げになり、深刻な影響を与える」。そう心配したプリエトは、生き物たちに代わって声をあげようと、19年から約1年間、その生態を写真で紹介するプロジェクトに取り組んだ。

ジャガー、ピューマ、ボブキャット、コヨーテ、ペッカリー(イノシシに似た動物)、ミュールジカ……。野生の姿を間近に捉えるため、自動撮影カメラも活用しながら、現地に長期間滞在した。途中、国境をパトロールする警察に付近から離れるよう嫌がらせを受けたり、メキシコの麻薬組織と出くわしたり、砂漠地帯の酷暑に悩まされたりしながら、シャッターチャンスを狙った。

アレハンドロ・プリエト

「写真を通じて自然を守ることが人生の目標」と語るプリエト。現在はバクの保護プロジェクトに取り組む。「私たちが生きているのは、次の世代にどんな未来を残すのかを決める重要な時期。私たちが生きるこの場所を守るため、声を上げ、行動を起こすことがとても大事だ」と力を込めた。

■90年代から続く壁建設

トランプ政権で注目を集めた米メキシコ国境での壁建設は、不法移民対策として1990年代から進められてきたものだ。米同時多発テロ後の2006年には、一部の建設を政府に義務づける安全フェンス法が成立。壁の総延長は約3200キロの国境の約3分の1に達した。

トランプ政権では、建設費の予算をめぐって野党・民主党と対立し、18年末には一部の政府機関を閉鎖するなど混乱も起きた。その後、「国家非常事態」を宣言し、議会の承認なしに他の政府予算を建設費に転用する方針を打ち出すと、反対する環境団体や民主系知事の州が政権を訴えたが、19年に米連邦最高裁で転用が認められた。(太田航)