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バイデン陣営から伝わり始めた「北朝鮮と核軍縮交渉」がはらむ大きな危険

北朝鮮インテリジェンス
バイデン氏の勝利宣言を演説会場の外で見守り、歓声をあげる支持者ら=2020年11月7日、米デラウェア州ウィルミントン、渡辺丘撮影

米ラジオ・フリー・アジア(RFA)などによれば、バイデン陣営の外交安保ブレーンを務めるブリンケン元国務副長官やサリバン元副大統領補佐官らは、北朝鮮が核放棄をしないという現実的な判断から、軍縮交渉も一つの手段だと考えているという。

バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権は2009年、「核なき世界」を訴えるなど、核軍縮に力を入れた。来年1月には核兵器禁止条約も発効する。バイデン政権が核軍縮に力を入れる政権としてアピールするため、北朝鮮との間で安易な核軍縮交渉に踏み切る懸念もつきまとう。

だが、軍縮交渉で絶対に欠かせない条件が、情報公開だ。米ソはかつて戦略爆撃機の設計図などを交換し、核爆弾を何個搭載できるかといった情報も共有したうえで交渉を行った。北朝鮮の核の全貌がわからないまま、軍縮交渉に突入すれば、いくら「最終目標は核廃絶」と訴えても、北朝鮮の核保有を許してしまいかねない。

北朝鮮は一体、何個の核爆弾を保有しているのか。米ミドルベリー国際大学院モントレー校不拡散研究センターのジェフリー・ルイス博士は「米政府の推計は多くて60個。現在は、年間12個の生産能力があるというものだ」と語る。

一体、この計算はどこから来るのだろうか。

北朝鮮は2010年11月、米国の核開発の権威、ジークフリート・ヘッカー博士に寧辺のウラン濃縮施設を公開した。博士は、北朝鮮は寧辺でウラン235の割合が3~5%程度の低濃縮を行った後、別の場所で80~90%まで高濃縮作業を行っていると推測した。博士の計算では、北朝鮮は現在、年間80キロの高濃縮ウランを生産できる。これは核爆弾3個分にあたる量だ。

米ロスアラモス国立研究所元所長のヘッカー博士=2007年8月11日、北京空港、中田徹撮影

また、ヘッカー博士は寧辺にある原子炉を冷却する水蒸気の量などを計算。年間6キロほどの兵器用プルトニウムを生産できる能力があるとみている。核爆弾1個分程度の量だ。博士は15年にインタビューした当時、「2020年の段階で、北朝鮮は核爆弾50個程度を保有しているだろう」と予測していた。

米政府は北朝鮮の核爆弾生産能力について、ヘッカー博士の計算の4倍と見積もっている。これは北朝鮮がウラン濃縮に必要な遠心分離機をどの程度保有しているかという計算の違いによる。

米政府は遠心分離機に必要なアルミニウム合金やマルエージング鋼が北朝鮮に密輸入されるルートを追ってきた。韓国国防研究院で北朝鮮軍事を研究した金振武・韓国淑明女子大国際関係大学院教授によれば、過去の輸入量などの公開資料だけで、10年末までに1万5千基程度の遠心分離機を保有した可能性がある。寧辺にあるとみられる4千基の3倍以上にあたる。

ポンペオ米国務長官は18年10月に訪朝した際、金正恩委員長に迫った。「非核化の意思があるなら、まずカンソンでのウラン濃縮活動を中止するべきだ」。カンソンは平壌郊外にある秘密のウラン濃縮施設があるとされる。

だが、米韓両政府が把握している施設は寧辺やカンソンだけではない。

韓国政府元高官によれば、北朝鮮は遠心分離機を多くの施設に分散させている。それぞれの規模は不明だが、最大で10カ所前後というウラン濃縮施設は、平壌近郊の地下に集中している。元高官は「ウラン濃縮は北朝鮮の最高機密だ。クーデターや指揮命令が行き届かないことも恐れている。最高指導者の目の届く範囲に収める必要があった」と語る。

米韓当局は遠心分離機が大量の電力を消費することに着目した。衛星情報などから電力消費の状況を分析した。衛星は、寧辺で低濃縮作業を終えたウラン物資がトラックでどこに輸送されるのかも探り、秘密の施設の場所を探った。ヘッカー博士が寧辺施設を訪れた時期から逆算し、施設周辺の動きを探ったこともあった。

その結果、最大で10カ所前後という数値をはじき出したという。

ただ、北朝鮮の核関連施設はウラン濃縮施設だけではない。研究、精錬などの施設や鉱山などを合わせると300~400施設にも達する。北朝鮮は既に核兵器も保有している。軍事施設まで把握しなければ、北朝鮮の核の全容をつかんだことにはならない。

北朝鮮の労働党幹部は過去、秘密協議の席で韓国政府高官に「核兵器は地下にだけ隠されているのではない。海の下にもある」と豪語した。「核兵器の貯蔵庫までの通路は迷路のようで、担当者でもたどりつけないほどだ」とも語った。

米国は24時間体制で、徹底的に核関連と疑われる物資の移動を監視してきた。その結果、90%までは把握したとみている。

米国は朝鮮半島有事の際、北朝鮮内にある核兵器や核関連物質が流出しないよう、特殊部隊を送り込む作戦計画も保有している。把握できていない残りの10%がどうなるのかは、誰もわからない。

金正恩氏は18年10月、カンソンの廃棄を迫ったポンペオ長官に対し、「我々は米国との約束を守っている」とだけ語り、カンソンの存在自体を認めようとしなかった。

2018年10月、平壌で会談したポンペオ米国務長官(右)と金正恩朝鮮労働党委員長=労働新聞ホームページから

バイデン政権が核軍縮交渉をもちかければ、北朝鮮は軍事挑発などに踏み切らず、大喜びで協議に応じるだろう。核兵器をほんの数個残しておくだけで構わない。それが不可能でも、技術者を確保してさえおけば、いつでも核開発を再開できるだろう。

もちろん、バイデン政権も「完全で検証可能、かつ不可逆な核廃棄(CVID)」という目標は掲げるだろう。北朝鮮の核問題をめぐる多国間協議の場だった6者協議が試みたように、北朝鮮に核の全貌を申告し、検証しようと試みるかもしれない。

だが、北朝鮮は6者協議でこれを拒否した。バイデン政権がCVIDにこだわれば、核実験や弾道ミサイル発射などの武力挑発に立ち戻る可能性もある。そうなれば、バイデン政権が根負けして、CVIDをおざなりにしたまま、核軍縮交渉の道をたどってしまうかもしれない。

北朝鮮の特権層は、北朝鮮が完全に国際社会の一員になることなど望んでいない。開国して、将来の南北統一への道を開けば、自分たちの地位が危うくなるからだ。核開発の大半と引き換えに、自分たちの権力を維持できる程度の外貨が得られるだけの制裁緩和を得られれば、交渉は大成功だろう。

バイデン政権は、米国の歴代政権が散々、北朝鮮に騙されて苦汁を味わった事実を忘れてはいけない。