――アウンサンスーチー氏率いる国民民主連盟(NLD)政権下で、民主化の停滞が指摘されています。
残念ながら、5年前の総選挙の時、NLDに投票した多くの人が、その政権運営能力は期待はずれだったと落胆している。
――何が問題なのですか。
政府と国軍の関係がうまくいっていない。国内の少数民族和平問題でも、軍事政権下につくられた憲法の改正問題でも、NLDは国軍の協力なしに進められない。だが、両者は距離を縮めずにお互いが言いたいことを言い合って解決は遠のいている。スーチー氏と国軍のミンアウンフライン最高司令官の対話の場もほとんどなくなっている。
NLDは野党時代、軍事政権批判で支持を集めてきた。今でも国軍批判で国民の後押しを得ようとしているが、反軍政イコール民主化ではない。実際、現政権では言論の自由が制限され、情報の開示も進まない。これでは民主化とは言えない。
人材不足が深刻だ。NLD内には国軍との橋渡しができるような人材もおらず、民主化を本当に理解している人も少ない。民主主義を根付かせたいなら、海外で学んだ若い人材の登用が必要だが、NLDはまだ年功序列、野党時代の論功行賞から抜け出せていない。
――スーチー氏のリーダーシップ不足では。
確かにリーダーは大事だが、彼女が全てを解決できるわけではない。官僚や政治家のレベルで解決するべき細かな事案まで、スーチー氏が決断を求められている現状もある。リーダーは国の大きな方針を決めることに集中すべきだが、人材が足りずに機能不全に陥っている。
――今度の選挙はどう予想されますか。
NLDが多数の議席をとる可能性が高いだろうが、今のままではまた5年、同じような政治が続くだろう。もしNLDが勝ったとしても、党やスーチー氏が民主化施策や人材登用のやり方を大きく変えなければいけない。
「スーチー氏以外にいない」という消極論では、この国は良い方向に進まない。
――イスラム教徒ロヒンギャの問題では国際的に批判を受け、一方で国内ではスーチー氏の姿勢が支持されています。
この問題で一つの重要なポイントは、彼ら(ロヒンギャ)に国籍を認めるかどうかだ。この部分は政治で変えられる。だが、今は「国籍」と「民族」が混在して問題が複雑化している。彼らをミャンマー土着の「民族」とみることは簡単ではない。史料が十分とも言い切れない。だが、国籍をとることはそれとは別物だ。
今、国籍取得のためには自らの「民族」を書き込まなければいけない規則になっている。ここで差別が生まれたり、行政側の恣意的に判断で国籍取得が難しくなっていたりしている。国籍取得に民族は関係ないという規則にすべきだ。
――なぜ、国籍を民族を混在させようとする人がいるのでしょうか。それで利益を得ている人がいるのでしょうか。
国籍を認めることが、何か失うことだと考えている人がいるのは確かだ。実際、それが国にとっての損失とは思わない。逆に、国籍問題で国際批判を生んでいることこそがミャンマーにとってマイナスだと思う。
――新型コロナウイルスは選挙結果にどんな影響を及ぼすでしょうか。
国民の多くはこれが政治問題ではないとわかっており、それ自体が直接選挙に影響するとは思えない。だが、経済は甚大な影響を受けており、そこに明確な対策を示せなければ、どの政党が政権をとったとしても、支持は得られないだろう。