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米軍が持つ「北朝鮮攻撃計画」の中身 米記者の新著『怒り』で注目

北朝鮮インテリジェンス
2017年1月29日に発射された北朝鮮のICBM「火星15」=朝鮮通信

米ワシントン・ポストのボブ・ウッドワード氏が今月、新著『RAGE(怒り)』を出版した。そこに、米国が2017年当時、北朝鮮との対決に備えて米韓共同作戦計画を詳細に検討したという記述が登場する。複数の関係筋によれば、開戦後30分間で北朝鮮の戦略目標700カ所を攻撃する内容だという。

『RAGE』によれば、北朝鮮は17年7月28日夜、大陸間弾道ミサイル(ICBM)「火星14」(射程約1万3千キロ)を発射。直後に、ネブラスカ州オマハの米戦略司令部が米韓の共同作戦計画5027を詳細に検討したという。

同著は同計画について「80個の核兵器の使用を含む攻撃に対する米国の対応」(the U.S. response to an attack that could include the use of 80 nuclear weapons)だとした。

だが、北朝鮮を念頭に置いた作戦計画は、複数存在する。複数の関係筋の証言を参考にすると、同書が指摘した「5027」は、実際には最新の作戦計画「5015」のことだろう。5027は朝鮮戦争のような大規模な陸上戦闘を想定したものだ。有事の際、米本土などから総計69万の増援などをうたった。通常兵器の老朽化が著しい北朝鮮軍との間で、5027が想定した戦闘が起きる可能性は極めて低い。

北朝鮮が2013年2月、3回目の核実験に成功すると、米韓は5027の全面的な改訂に乗り出した。北朝鮮が3度目の核実験で、核弾頭を1トン以下までに小型化できたと分析。韓国全土を射程に収める短距離弾道ミサイル「スカッド」に核弾頭を搭載できるようになったと判断したからだ。

在韓米軍はまず、北朝鮮を念頭に置いた弾道ミサイル防衛を強化するため、高高度ミサイル迎撃システム(THAAD)の導入を推進。同時に韓国軍とともに、北朝鮮軍による弾道ミサイル攻撃を未然に防ぐことに主眼を置いた新しい作戦計画「5015」の作成に踏み切った。

関係筋の一人によれば、5015が描いている攻撃は次のようなものだ。

北朝鮮による弾道ミサイル発射の兆候をつかんだ後、30分以内に北朝鮮内にあるミサイル発射拠点や司令部、レーダー基地、南北軍事境界線沿いに展開している多連装ロケット砲など約700カ所の戦略目標を攻撃する。巡航ミサイルや長距離爆撃機による空爆、無人機などによる攻撃を想定しているという。長期間にわたる地上戦は想定しておらず、作戦開始後5日以内に戦闘を終結させることを目指している。局地戦や対テロ戦闘など、平時から戦時に至るまでの様々な戦闘も合わせて想定している。

5015に合わせ、当時の朴槿恵政権は、北朝鮮による攻撃の兆候が出た時に先制攻撃する韓国軍の作戦「キルチェーン」の導入を決め、2020年代初めまでの実現を目指した。

一方、米韓軍は毎夏に行うコンピューターを使った大規模な指揮所共同演習で5015を検証している。そこには、英国やカナダ、豪州など朝鮮戦争当時の国連軍参戦国も招待されるが、一部の国から「(相手が攻撃の兆候を示さない時点で攻撃する)予防攻撃になる可能性がある」という懸念の声が出たこともあったという。

2017年11月、米空母ロナルド・レーガンを先頭にして日本海を航行する日米の艦艇=海上自衛隊提供

『RAGE』の記述をみると、米国は2017年当時、北朝鮮が弾道ミサイルを発射する可能性があると判断し、5015の発動を真剣に検討していたとみられる。

また、米国は2010年2月から日本と、11年3月から韓国と、日韓それぞれが攻撃された場合に備え、「核の傘」を含む拡大抑止協議を行ってきた。米国は一連の協議で、日韓が核攻撃された場合には、米国が必ず核による報復攻撃を行うという信頼関係の構築を目指してきたが、具体的な核攻撃計画を両国に明かしたことはない。

『RAGE』の記述などから、米国防総省が北朝鮮の保有する核兵器を80発と見積もり、米韓共同作戦計画である5015とは別に、北朝鮮が核攻撃に出た場合にどのように報復・反撃するかという米独自の計画についても検討を加えていた可能性が高いと言えそうだ。

■北朝鮮情勢の緊張、そのとき日本は 河野前統幕長に聞く

――最近出版された「統合幕僚長、我がリーダーの心得」(WAC出版)で、当時の状況を振り返っています。

2016年ごろから、北朝鮮が弾道ミサイル発射や核実験を繰り返し、状況が緊張していった。16年10月、ワシントンで日米韓参謀長会議を開いたが、北朝鮮情勢を巡る情報交換や認識の共有が目的だった。17年にトランプ政権が発足すると、北朝鮮との間で「言葉の応酬」も始まった。

17年4月の日米首脳会談で、トランプ米大統領が「すべてのオプションがテーブルの上にある」と語った。軍事オプションもありうるという意味だった。

17年7月、シンポジウムに出席するため、ワシントンを訪れていたが、ダンフォード米統合参謀本部議長から「会いたい」という連絡が来た。

ダンフォード氏は「朝鮮半島情勢が緊張している。今後、何かあっても日米で連携していきたい」と語った。具体的な説明はなかったが、「政治決断が下るような状況になれば、事前に知らせる」と語った。「状況」とは「軍事オプションを行使する事態」だと理解した。

日本に戻ると、自分の側近数人と頭の体操を始めた。米国が軍事オプションを行使した場合、放置すると日本が攻撃されるおそれのある「重要影響事態」に至る可能性が高い。その場合、現行法制で何ができるのか、指揮命令系統はどうなるのかといったシミュレーションをした。

ただ、米軍が軍事オプションを行使すると決まったわけでないので、あくまでも個人的な研究にとどめた。防衛省・自衛隊や首相官邸などに指示したり報告したりはしなかった。

2017年8月18日、防衛省で会談する河野克俊統合幕僚長(右)とダンフォード米統合参謀本部議長=代表撮影

――ウッドワード氏の『RAGE』では、米軍による北朝鮮への様々な威嚇行為が紹介されています。

戦略爆撃機B1Bや特殊部隊の居住区画や侵入用の特殊潜航艇を持つオハイオ級原子力潜水艦などが朝鮮半島や日本海に展開し、自衛隊や韓国軍と共同訓練を行った。すべて、北朝鮮に対する威嚇だろう。17年11月に、米軍の原子力空母3隻が相次いで日本海に入ったのも初めての事態だった。

当時は、ダンフォード氏と2、3日に1度、電話で協議し、情報を交換していた記憶がある。後は、北朝鮮の出方次第だった。彼らが計算違いをして、米国が定めた「レッドライン」を踏み越えるかどうかの問題だけが残っていた。ただ、米国は我々にも「レッドライン」が何かについて、説明はしなかった。

北朝鮮が18年から対話路線に切り替えたのは、国際社会による制裁よりもこうした軍事的プレッシャーが効果を上げた結果だったと思う。

――米軍が自衛隊との間で核兵器の使用計画を共有することはありましたか。

少なくとも、日米の共同作戦計画は核による抑止が効いているという前提になっている。

朝鮮半島有事の際、最も重要なことはソウルを含む首都圏で大きな被害が出ないようにすることだ。米軍は軍事オプションとして、なるべく早く北朝鮮の軍事拠点を潰すことは考えるだろうが、核の使用は基本的に考えていないのではないか。

朴槿恵政権下の16年11月、日韓で軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結した。当時、朴政権は政治的危機を迎えていたが、厳しい北朝鮮情勢を踏まえて決断してくれた。日韓は北朝鮮が発射した弾道ミサイルの事後分析を中心に情報交換していた。発射地点は韓国、着弾地点は日本に、それぞれ近いから、ミサイルの能力を把握するうえで役に立った。

一方、17年に米軍が戦略爆撃機や空母を朝鮮半島付近に展開した際、日本と韓国は別々に米軍と共同訓練を行った。日米韓共同訓練の話はでなかった。17年5月に発足した文在寅政権が日米韓の枠組みに慎重だったのかもしれない。

――2017年12月に導入を決めた陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の代替策づくりが難航しています。

17年春ごろから、「日本のミサイル防衛体制は大丈夫なのか」という声が上がり、国民の危機意識もあって導入が決まった。

あれから、北朝鮮は1発のミサイルも、1個の核爆弾も放棄していない。北朝鮮の脅威は変わらないのに、あのときの危機感はどこに行ったのだろうかと思う。