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津波から人々を守りたい 被災地と出会ったフランス人が研究する数値モデル

美ら島の国境なき科学者たち
OIST海洋生体物理学ユニットでポスドク研究員として津波のシミュレーションをするマリン・レ・ガル博士

2011年3月11日に起こった東日本大震災は、世界に衝撃を与えました。マグニチュード9.0という観測史上最大規模の地震のひとつであり、この地震が地球の地軸に与えた衝撃で、地球の自転が加速したことも記録されました。さらに、本震と余震によって引き起こされた大きな直接的被害に加えて、さらなる破壊も起こりました。海底地震によって放出されたエネルギーが、大量の水を押し出した結果、破壊的なパワーを持った波、つまり津波をもたらしたのです。

津波が日本の本州の北東海岸に近づくと、この地の浅い海底が、津波を驚愕の高さに持ち上げました。津波は防波堤を越えて町々に洪水をもたらし、1万5千人もの命を奪いました。

当時、パリの研究所で津波モデリングを研究する博士課程学生だったマリン・レ・ガルは、地震から数年経った岩手県大槌町を訪れました。大槌町は、災害による被害にまだ苦しんでいました。町の半分は押し流され、住民のおよそ一割が死亡または行方不明になったと報告されています。

東日本大震災の1週間後に撮影された大槌町の様子  画像提供: U.S. Navy photo by Mass Communication Specialist 3rd Class Dylan McCord

この災害から9年たった今、マリンは沖縄科学技術大学院大学(OIST)で研究員として働いています。大槌町での彼女の経験を聞きました。

大槌町での経験を話すマリンと、取材をする筆者のダニ。

「大槌町の人々に直接会ったり、被害の全容をこの目で見たりしたことは私の人生に大きな影響を与えました。それは私にとっての“啓示”でした」とマリンは言います。 「なぜ私がモデリング研究に携わるのかということが、大きな意味を持つようになったのです。自分の研究を、津波が深刻化する条件を理解することに利用すれば、津波の被害を減らすことに役立つかもしれない、と」

マリンはここOISTで、歴史上の津波を研究し、それらをシミュレートする数値モデルを作成しています。

彼女が最近作成したモデルは、およそ250年前に琉球列島を襲った明和の大津波をシミュレートしています。この大津波で大きな影響を受けた石垣島では、島の人口のほぼ半分となる約9,000人が亡くなったと考えられています。

今でも津波の痕跡が残っており、石垣の海岸線にはサンゴ礁が砕けた巨大な岩が点在しています。

石垣島の海岸線に点在している津波石  写真提供:東京大学 大口敬教授

石垣島周辺のサンゴ礁は、マリンにとって特に興味深いものです。サンゴ礁は嵐による波のエネルギーを弱める上で重要な役割を果たしますが、津波への影響はより複雑です。

「一部の研究では、サンゴ礁が保護的な役割をすることがわかりましたが、他の研究では、特定の状況においては、サンゴ礁が津波の影響を悪化させる可能性があることを示しています」とマリンは説明します。「そのため、理想的なモデルを使用するだけでなく、現実的なシミュレーションを行うことが非常に重要であり、特定の場所でどのような影響が発生するかを理解することができます。そうすれば、将来の津波発生に備えて計画を立てることができます」

遠い昔の津波を再現したモデルを作るのは簡単なことではありません。マリンは衛星データと歴史的証拠の両方を使用し、自分のモデルを微調整して実際に起こったことをできる限り忠実に再現しました。次に、シミュレーションからリーフ(サンゴ礁)を削除して、リーフがなかったらどうなるかを確認しました。

「海岸のほとんどの部分に沿って、リーフが重要な保護の役割を果たすことがわかりました。サンゴ礁が取り除かれたときの津波の影響ははるかに深刻でした。一方で、サンゴ礁が存在することで、実際に津波が強くなった特定の場所もありました」

マリンは、これらの特定の場所が、すべてサンゴ礁の割れ目であるリーフギャップ、またはチャネル(水路地形)と一致することを発見しました。例えば、ルーペで光を集中させてより強い光線を作ることができるのと同じように、これらのリーフギャップは津波を集中させ、波をより高く、より内陸部に打ち寄せる力を大きくします。

マリンが作成した、リーフギャップなどの特定の場所を示す地図。  画像提供:Marine Le Gal (OIST)

海岸線の保護地域と脆弱地域の両方を特定するためには、マリンのモデルは重要で価値のあるリソースだと言えます。

「これらのモデルは、沿岸域管理や開発に関わる専門家による利用が見込まれます。また、将来の津波によって引き起こされる洪水を予測するときに、リーフの影響を考慮することができることも意味します」

マリンにとって津波の研究は、彼女の最終目標である、海を理解するための最初のステップです。

「私はフランスのマルセイユ出身で、海のすぐ隣で生まれ育ちました。海の“動き”を理解することに惹かれてきました。津波のような波だけでなく、海流と潮流もそうです」とマリンは言います。「OISTで私は、専門知識をより広い海洋学の分野に拡大し始めました。これはなかなか難しいことですが、やりがいがあります。最終的には、人間が海と共生して生活できる方法に貢献していきたいと思います。海にダメージを与えることなく、海とお互いに交流するためです」

OISTのキャンパスから海を眺めるマリン

津波は海がもつ最も破壊的な顔の1つを表していますが、マリンは、人類の生存にとって海が重要であることを強調します。地球の気候調整から、水循環、私たちが吸い込む空気まで、海は、環境プロセスの基本となっています。「海は私たちに大きな利益をもたらします。その一方で、私たちは海や、サンゴ礁のような海の中の環境に多大なダメージを与えています」とマリンは付け加えます。「私の調査で、サンゴ礁は海の生物に住む場所を提供するだけでなく、私たち人間を守ってもらうためにも不可欠であることがわかりました。ですから、サンゴ礁を大切にすることが、本当に重要なのです」

OIST広報メディア連携セクション ダニエル・アレンビ)