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【ヨルゲン・ランダース】新型コロナと気候変動 対策に必要なものは同じだ

World Now 更新日: 公開日:
昨年11月、講演のために来日したヨルゲン・ランダース氏

民主主義や資本主義のもとでは、短期的な利益を追求してしまうことから、気候変動のような長期的な課題を解決することは難しい――。そう訴えてきたBIノルウェービジネススクール名誉教授(専門は気候戦略)のヨルゲン・ランダース氏に6月、コロナ危機から見えた変化の兆しについてオンラインで話を聞いた。(聞き手・目黒隆行)

――新型コロナウイルスの影響で、世界は大きく変わってしまったように見えます。あなたはどうお考えでしょうか。

コロナからの復興を考えるこのタイミングが、石炭や石油といった化石燃料の使用にかわり、太陽光や風力の発電所を作るきっかけとなったら、それは素晴らしいことだ。ただ、各国が景気刺激策を実施しているが、多くの国では環境重視の対策には前向きでないようだ。これほどの機会であっても、(環境負荷を考えた)グリーンな景気刺激策を選択しようとしないというのは、悲しいことだ。

コロナの影響は、短期的には海外旅行やビジネス、人口動態、経済成長などの様々な分野に及ぶ。だが、長い目でみれば、多くの人が想像するほど強いものではない。気候変動問題でも同じで、経済が止まったことで短期的には良い変化がみられるが、エネルギー転換にいたるほどではないだろう。化石燃料から再生可能エネルギーへの転換という点については、ウイルスの存在のみによってはそれほどの大きな影響はない。

――コロナウイルスが経済や環境に与える影響は小さい、ということですか。ですが、各国が採った国境封鎖や世界同時に陥った「ステイホーム」は経済に大打撃を与えています。

たいていの人が考えるよりは、影響は小さいだろう。環境への負荷というものは、生産活動の大きさと比例している。企業活動がもとの水準にまで戻ったら、短期的には良くなった大気や海洋の状態もすぐに元に戻ってしまうだろう。

BIノルウェービジネススクール名誉教授のヨルゲン・ランダース氏=本人提供

それでも、ここで一つ、コロナウイルスが私たちに教えてくれた大事なことがある。それは、リベラルな西側諸国においてさえも、コロナ対策のために政府が強い行動を取り、巨額の金を使うことが可能だったということだ。強い政府が出現したと言える。強い政府とは、短期的に国民の反発を招いても、長期的な国民の利益を考えて行動する政府、と定義している。

民主主義の国で、国家予算の1割にあたるほどの支出増に合意できるとは、いったい誰が思っただろうか。人々への影響が大きいネガティブな政策であっても、大多数の人を説得し、実行できることを示した。米国や独仏などの西欧諸国は、民主主義体制の元であっても強い政府として行動できたということなのだ。

――中国についてはどう見ていますか。厳しい移動制限をかけたことにより、感染の抑え込みには成功したようにみえます。

中国がとった対策については非常に感銘を受けている。何が素晴らしいかといえば、彼らはあの時点で武漢を封鎖するという決断ができる政治的な能力を持っていたことだ。感染症に対処する上での良い政府とは、かすかな兆候をもとに強い行動が取れること。中国の行動はとても早かった。

封鎖されて間もないころの武漢市中心部=2020年1月下旬、市民提供

――中国のような強い力を持つ政治体制がグローバルな感染症と闘う上で有効ならば、気候変動のような問題についてはいかがでしょうか。

まず感染症について言えば、世界政府のような強い権力を持った機関が存在していれば良いのだが、まだない。現在の状況に(強制力をもって)対処できる国際組織はないのだ。国連にそうした権力はないし、世界保健機関(WHO)も助言はするが、それを聞くかどうかは各国の政府次第だ。

感染症と同様に、気候変動問題の解決においても強い政府が必要と言える。エネルギーの転換というものは、もうからない。だから政府が入って、これまでのビジネスのルールや規制を変えない限り、古い仕組みのままずっと続いてしまうのだ。

感染症から身を守るのは、最終的には自分の行動になる。他人と距離を取り、手を洗い、ハグをしないことが大事だ。しかし、気候変動の影響からは、自分だけを守ることはできない。民主主義や資本主義の国においても、気候変動の問題が解決すべき重要課題であると位置付けさえすれば、確実に対処できるはずだ。

地球温暖化対策を訴え、欧州連合(EU)本部周辺の道路を埋めたデモ参加者。沿道のオフィスからは拍手する人も=2019年1月、ブリュッセル、津阪直樹撮影

――コロナ危機を経て、人々の民主主義や資本主義に対する考えというものに変化は訪れるのでしょうか。

訪れる「べき」だと考えている。コロナウイルスは、集団的な行動によってのみ対処できる。民間企業や個人が競争原理に沿って行動したところで解決できない問題であり、強い政府が必要な局面なのだ。

――地球の未来を悲観的に予測した著作『2052』では、人々はこれまでと異なる新しい幸福の基準を定めるべきだと記しています。コロナ危機は、幸せとは何かを考える機会にもなりました。ポスト・コロナの世界における幸福とはいったい何なのでしょうか。

これまで最も広く使われてきた1人当たりGDP(国内総生産)という指標でのみ計るのではなく、自分が暮らす環境の質というものも指標に加えられるべきだ。もし気候変動が深刻化すれば、未来では自由に移動し、無垢(むく)の自然に触れることも難しくなる。「最新の電子エンタメを好きになれ」と(皮肉を込めて)本に書いたが、自宅にいながら娯楽や教育に活用し、機器を通して素晴らしい風景を見ることに慣れる必要があるという意味だった。コロナでこの予測が思いのほか早く実現し、未来予測の専門家としてはうれしいが、背後にある事実には悲しさを感じる。

――コロナ危機は将来の世代に対してどのような影響を与えると考えていますか。歴史的な転換点になるのでしょうか。

世界では、若い世代とそれ以外の世代との対立が大きくなっている。そして若い世代は、次第に悪化する地球環境のもとで長く暮らすのは自分たちだと理解し始めている。左派か右派か、強い政府か弱い政府か、という問題ではない。

この問題はコロナウイルスが顕在化させる前から存在していたのだ。若い世代によるムーブメントが、まさに形作られようとしている。彼らはこの古びた社会で行動する必要性を実感している。コロナ危機を経て、新しい世代の始まりになることを強く願っている。

オンラインでインタビューに応じるヨルゲン・ランダース氏

Jørgen Randers  1945年生まれ。資源の浪費や環境悪化について警鐘を鳴らしたローマクラブの報告書『成長の限界』(1972年)の共同執筆者の一人。この先の世界を予測した2012年の著作『2052―今後40年のグローバル予測』では、「最新の電子エンタメを好きになれ」などのユニークなアドバイスをしている。