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コロナ禍でものんびり旅行 北欧の人々の夏休み

ノルウェー通信 更新日: 公開日:
ノルウェーの夏至祭、6月23日の聖ヨハネの前夜祭のお祝いでオスロフィヨルド沿いに集まる人々。マスクをしている人はいない 撮影:あぶみあさき

夏休みシーズン。Go Toキャンペーンが騒ぎになっているが、北欧でコロナは今どうなっているのかと聞かれたら、「日本ほどピリピリとした空気はなくて、夏休み中なのでのんびりしている」というのが私の印象だ。

欧州の夏休みは日本とは違い、大人もたっぷりと数週間の休みをとり、メールのチェックなどもほとんどせずに、仕事の疲れを癒す。

北欧諸国はもともと冬の期間が長いために、短い夏をできるだけ楽しもうとする。太陽の光に対する執着心が強いため、夏休みには北欧の人がよく言う「南へ」、つまり、より気温が高い国外の南方に旅行したいという人が多い。そして、「バカンスを満喫していた証拠」として日焼けして帰って来るのだ。この夏休みを楽しみに、1年間の仕事を頑張るという人も珍しくはない。

人にもよるが、夏休みの期間は3週間ほどで、会社では社員が期間をずらして取得する場合もある。6月後半から8月中旬までは北欧現地の人とは仕事のやり取りはまず進まないと考えると良いだろう。

政治家だって夏休みをとる権利はある

日本では考えられないだろうが、平等を重んじる国なので、首相をはじめ政治家もみんなと同じように夏休みはしっかりとる。だから、今、北欧諸国の政治家たちのSNSには夏休みを楽しむ様子がアップされている。旅行を控えて、今年の夏は自分が住む家や別荘で読書や家族との時間を楽しんでいることを強調する人も多い。

ノルウェーのソールバルグ首相(右)のインスタグラム「ノルウェー休暇!美しいノルウェー」と #visitnorway という観光ハッシュタグをつけて投稿https://www.instagram.com/p/CCodNXIpJWP/

北欧では政治家と市民は縦の関係ではなく、横の関係だ。働きすぎでいい仕事はできないので、コロナ対策に忙しい政治家にも休んでもらう必要はある。

そして、コロナ禍中とはいえ、「政治家のSNS投稿写真は常に緊張に満ちているものでなければいけない」「他につらい思いをしている人がいるのだから同調して自粛しなければいけない」「外出や笑顔の写真は載せるべきではない」という考えはあまりみられない。

夏休み目前に北欧各国の移動規制を緩和

写真:オスロ市内の地下鉄駅にあるポスター。「そろそろお隣さんを訪れる時期ですよ」とデンマーク旅行を促す(撮影:あぶみあさき)

6月後半という夏休みモードになり始めた頃、北欧諸国ではいつからどれほどの規模で各国の国境規制を緩和させるかが大きな関心を集めていた。

3月に北欧諸国で第1波が訪れた時、各国の対策に違いはあれ、外出禁止令はないロックダウンがされ、一部の業界の営業を禁止し、国境はほぼ封鎖された。

集団免疫戦略を狙うスウェーデンだけはそれほど厳しい規制を行わなかった。北欧他国の市民がどんよりと自粛ムードの中、スウェーデンのジムも営業され、市民が夜にバーでお酒を飲んでいる光景などは他の北欧諸国でも驚きをもって報道されていた。

現在、各国はすでに第一波を乗り越えたので、「社会的距離や手洗いの習慣は皆さんもうつきましたよね?これからは感染防止対策をとりながら、新しいノーマルの中での暮らし方を考えて行きましょう」が焦点となっている。だから旅行の移動を厳しく規制するよりも、感染者数が増加していない国内外の地域においては、「感染防止対策をとりながら夏休みを楽しんでください」という雰囲気になった。

感染率が低い国であればノルウェー人は自主隔離なしで旅行は可能だ。しかし、すでに欧州では第2波の兆しがみられるために、急に「感染リスクが低い」とされていた国が翌日には「高リスク」になるケースも発生し、自主隔離を避けるために慌てて帰国、ということもあるようだ。

同様にノルウェーへの旅行者は、 ノルウェー公衆保健研究所 が「感染率が低い」と認定する北欧やEU諸国などからの入国の場合は10日間の自主隔離は免除される。

この大規模な人の動きは日本政府の「Go To キャンペーン」と似たようなものに見えるかも知れないが、欧州の夏休みは長く根付いている「ライフスタイルの一部」だ。北欧諸国の政府が緩和したのは国境規制や自主隔離の緩和で、経済優先でもなければ、市民の税金を使って旅行を促しているものではない。

確かに「経済をまわすために市民に旅行・消費してもらいたい」という狙いもあるだろうが、夏の旅行はなによりも「心の安定のために必要な人間活動の一環」。この期間に心と体の休養をとらなければ、これからの長くて暗い冬を乗り越えていくことは難しい。もしコロナの第1波が北欧の冬にきていたら、メンタルヘルスを崩す人が急増していたと思う。

今年は国内旅行で我慢、「あれ、意外と自分の国もいいかも?」という発見

写真:7/28のオスロ中心部の地下鉄駅。人の姿は少なめで、電車を待つ人々は一定の距離を置いて立っている 撮影:あぶみあさき

さて、ノルウェー人は普段の夏休みなら、国外旅行をしたがる。特徴として、「自分が住んでいる自治体からは脱出したい、できれば自分が住む国からも脱出したい」傾向がある。家にいることは、「バカンスをエンジョイできていない」ことになるようだ。しかし、新型コロナで今年はそれが難しいために、ノルウェーの人たちが渋々と「夏休みに国内旅行をする」という珍しい現象が起きた。

夏のノルウェーといえば、人気の観光地であるフィヨルドや絶景スポットがある山々を満喫するのはこれまで外国人旅行者ばかりであった。ところが今年はノルウェー人旅行者が押し寄せ、「おお、自分たちの国でも旅行は楽しめるのか!」という「目からうろこが落ちる」体験をする人が続出している、と現地メディアは伝えている。

北欧諸国のなかでもノルウェーは物価が特に高い。物価が高いのに、それ相当のクオリティのサービスが受けられるというわけではない、というのがこの国の旅行の「当たり前」だと私は思っていたのだが、それを知らないノルウェーの人もいたようだ。

例えば、「これだけたくさんのお金を払ったのに、質素な朝ご飯しかでなかった」と消費者センターにクレームする人が増えているらしい。その朝ご飯の写真を見てみると、「前からこういう朝ご飯を出すところはあるが?」という思いが湧いた。いずれにせよ、旅行業界では価格と質のバランスがあまりにもとれていないことをより実感する人が増えた。今後の改善に少しでもつながればいいな、と密かに思う。

「旅行してもいいですよ、でもスウェーデンは注意」

集団免疫作戦を実行したスウェーデン。どの国の保健局もスウェーデンに対してだけは「渡航注意」という赤色警報を出していたために、スウェーデン側は「いじめのようだ」と眉をひそめていた。「一部地域だけ旅行しても大丈夫」という推奨が出され始めても、「なぜ、ここはOKで、ここはだめ?」と首をかしげていた。

スウェーデンはノルウェーより物価が安い。そのため、「週末に車で国境を越えて、安い肉・たばこ・アルコールをスウェーデンでまとめ買いする」カルチャーがノルウェーには以前からある。スウェーデン側にとっても、じゃんじゃんとお金を落としてくれるノルウェー人は大歓迎だ。この「国境ショッピング」が早く許可されることを祈る人は多かった。先日、とうとう規制が緩和され、スウェーデン国境へと猛ダッシュするノルウェー人が続出していた。

夏休みが終わって、第2波はくるか?

スウェーデン国境にある店であれ、各地の観光スポットであれ、規制緩和により一部の場所に人が集中しすぎている写真を見て、「第2波がくるのでは」と懸念する声もノルウェーにももちろんある。

7月、オスロの街を歩いていると、ドイツ語、フランス語、スペイン語など外国語が耳に入るようになり、ガイドブックを持って歩いている旅行者を見ると、「おお!」と新鮮に感じた。

ノルウェーに外国人観光客が再び出入りするようになることで、「マスクをする人が少しでも増えるかな」と私は予想していたのだが、驚くほどに旅行者はマスクをしていない。スウェーデンは別として、北欧諸国は感染拡大防止が比較的うまくいっていたので、「北欧旅行は安全だろう」というほっとするスイッチが入りやすいのかもしれない。

8月中旬を過ぎて、市民が仕事モードに少しずつ戻り始める頃、夏休みの人の移動の結果として第2波がきてもおかしくはないだろう。むしろ、これで第2波がこなかったとしたら、北欧の感染予防対策には何か特別な点があるということになる。

Photo&Text: Asaki Abumi