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将来のパンデミックに、私たちはどう備えるべきか ヨーロッパからの視点

World Now 更新日: 公開日:
アンドレア・アモンECDC所長=2020年1月31日、ストックホルムのECDCで、ECDC提供

――世界的流行(パンデミック)になった新型コロナウイルス感染症の地球規模のインパクトをどのように感じていますか。

現在も進行中の新型コロナのパンデミックは、欧州と世界に未曽有の公衆衛生上の難題を突きつけています。EU加盟国は、地域における公衆衛生の基盤とネットワークを通じて協力しながら、迅速に対応してきました。欧州各地の介護施設で集団感染の報告が増えています。関連死も多く出ており、高齢者が犠牲になりやすいことを如実に示しています。

効果的な治療法やワクチンがまだ確立しておらず、2月下旬以降に感染者が指数関数的に増えるに至って、多くの国が「ステイ・アット・ホーム」を勧奨、あるいは強制することになりました。大規模な集会・イベントの中止や、教育機関や公共スペースの閉鎖といった施策も併せてとられました。

外出禁止令が出たローマでは、高級ブランド品を扱う店が並ぶ通りの人通りもなくなった=3月17日、河原田慎一撮影

こうした手法をとった結果、EU/欧州経済領域(EEA)、英国全体での14日間の感染者数は、4月8日以降と5月17日現在で比べると66%減りました。EU/EEAの30カ国では新たに報告される感染者数が減ってきており、感染の第1波はピークを越えたように見えます。

しかし、私たちの最新の評価によれば、現状では引き続き、検査や濃厚接触者の追跡などの流行監視戦略、離隔などの地域社会での対策、保健医療システムの強化、および市民と医療界への情報提供に力を入れるべきです。身体的離隔を強いられても人々が精神的に追い詰められないようにしなければなりません。それによって、こうした措置を続けることができます。

――世界保健機関(WHO)は1月末、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」を宣言して、世界に警告しました。にもかかわらず、欧州は流行を防げませんでした。どんな教訓を得ましたか。

ECDCは1月初旬から、世界的な流行情報とEU/EEA諸国で確認された事例に関する包括的な情報を収集し、監視してきました。1月から4月にかけて、この感染症の評価も9回更新しました。新しいウイルスですから、その特性に関する知識は刻々と深まりました。更新の度に、予想されるさまざまな影響にについて検討しました。中国からEUに感染が広がるリスク、重症化のリスクなどです。リスクは当初は低かったのですが、流行が拡大するにつれて高くなっていきました。

さらに、私たちは将来事態がどう進むのか、それにどう対応すべきかも検討しました。1月末には、対応の準備計画を更新し、病院の受け入れ態勢を強化する必要があると強調しています。1月時点で私たちの分析は予防や制御は可能であると示しており、実際にその段階では多くの感染例を特定し、感染の連鎖を断ち切ることができました。しかし、流行は急速に進み、ほとんどのEU/EEA諸国は地域社会での感染が増加する状態に移行しました。

「手指の消毒剤が入荷したらしい」と聞いてロンドン中心部のドラッグストアに行列する人たち=3月10日、下司佳代子撮影

イタリアやスペイン、英国、それにフランスのいくつかの地域での感染者急増は、医療システムに大きな負荷をかけ、公共サービスに重大な問題を生じさせました。EUのすべての国は、パンデミックの影響を緩和するための包括的な対策をとることで、新たな状況に対応してきました。現在の焦点は、新たな封じ込め対策です。欧州共同ロードマップは、以下の原則を強調しています。「行動は科学から情報を得るべきであり、公衆衛生がその中心になければならない」「行動は加盟国間で調整されるべきである」「加盟国間の尊重と連帯は依然として不可欠である」というものです。教訓をくみ取る活動は現在進行中で、欧州で将来の感染症流行に備える活動に役立てられるでしょう。

――WHO憲章に基づく国際保健規則では、パンデミックに際しても、できる限り人や物の国際的な流れを妨げないことを原則にしています。にもかかわらず、各国政府は国境を閉じ、都市をロックダウンしました。特に欧州はシェンゲン協定の下で移動の自由を根本理念にしています。こうした状況をどのように見ていましたか。

保健に関するEUの法的枠組みやECDCの創設規則によれば、私たちの役割はリスク評価にあり、リスク管理、例えば国境の開放や旅行制限に関する決定は個々の加盟国と欧州委員会にあります。保健衛生はもっぱら加盟国の責任です。私たちはリスク評価によって、加盟国のリスク管理をサポートし、コミュニケーションを支援します。最新のリスク評価では今後も、地域の状況評価に基づいて、流行の影響を緩和して流行のピークを遅らせるための対策をとるべきだとしています。

EU/EEA諸国と英国は実際にウイルスの感染を減らすためにさまざまな対策をとってきました。医療への負担を軽減するために特に身体的離隔に焦点を当て、重症化リスクの高い人たちを守り、超過死亡を減らそうとしてきました。多くのEU/EEA加盟国での新規感染者数の減少は、まず間違いなくこれらの厳格な規制措置の導入の結果です。モデル研究によると、こうした介入の解除を急ぎすると、感染者発生率が突然高まります。ただし、仕事に戻る人の割合を徐々に増やすような戦略をとれば、感染者の発生率を病院の能力の範囲内に維持することができます。

――WHOは中国寄りだと非難され、このパンデミックに際して十分なリーダーシップを発揮していないように見えます。トランプ米大統領はWHOへの資金拠出を停止すると公言しました。WHOは改革が必要ですか。

ECDCはコメントする立場にありません。今回のパンデミックで、私たちはWHOを含む国際的なパートナーと広範囲に協力してきました。

――人類社会にとって、新型コロナや将来出現する感染症と向き合う上で最も重要なことは何ですか。WHOやECDC、そして各国政府の役割とは何ですか。

効果的に対処する方法について結論を出すのは時期尚早ですが、現在の状況は将来のパンデミックに向けて各国がどのようによりよく備えることができるかを考えるうえで、重要な機会といえます。得られた教訓は、新型コロナのパンデミックへの備えを改善するのに役立つとともに、一般的なパンデミックに対して各国が自らの準備計画を更新するのにも使われるでしょう。パンデミックに対する準備計画は、状況に対応できる公衆衛生対策、しっかりした流行監視と報告、および保健医療システムが能力を発揮できるようにするものであるべきです。そのうえで、都市や介護施設、高リスクな人々など、さまざまな場面での備えを検討する必要があります。

アンドレア・アモン欧州疾病対策センター所長

パンデミックはまだ進行中ですが、対策と並行して途中で小規模な評価をすることは、危機管理者が迅速に現在の緊急事態に対処するのに役立ちます。得られた評価および教訓に学んだ活動は、地方、地域、国内および国際レベルでできます。準備計画は継続的に見直す必要があります。ECDCは今回のパンデミックの急性期が終わり次第、さらに詳しく検討します。保健分野をEU全体で底上げするのは、加盟国の責任だと考えています。

アンドレア・アモン  独ロベルト・コッホ研究所感染症疫学部長、ECDC所長代行などを経て、2017年から現職。