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日本はすでに遅れてる? ベトナムでも「ウェブ授業」がニューノーマル

子連れで特派員@ベトナム 更新日: 公開日:
自治体から送られてきた学習サイトを開くポコ。どんな内容かな=鈴木暁子撮影

鈴木です。7歳の長男(ポコ)と夫(おとっつあん)とともに赴任した、ベトナム北部ハノイでの新聞記者の生活を終え、帰ってきた特派員としてコラムを書いています。今回は学校のウェブ授業についてのお話です。

新型コロナウイルス感染症の広がりで、自由に外出することができない毎日が続いている。ちまたでは「ニューノーマル」という言葉をよく見聞きするようになった。これまでと一変した新常識、という意味のようだ。かなり楽観的な考え方だが、離れた場所からインターネット会議に参加したり、家にこもりながら楽しむ方法を考えたりする経験が、これまであたり前だった働き方や生き方の見直しに本当につながるのなら、ありがたいことだと思う。

ベトナムでは、インターネットを使った「ウェブ授業」がニューノーマルになりつつあるそうだ。ハノイ支局助手のビンさんがこんな話をしていた。「まわりの保護者に聞いたら、ウェブ授業っていいねという声がとても多いから驚いた。子どもを塾や補習にバイクで送り迎えしなくて済むし、お金もかからず、効率が良いと考えているみたい」。新型コロナウイルス感染症の拡大を防ぐため、ベトナムでは日本よりもずっと早く、旧正月明けの2月初旬から、公立や私立の学校の多くを休校にする措置をとってきた。ベトナム政府が指示を出す前から、それぞれの学校がフェイスブックや、ベトナムで普及しているチャットアプリのzaloを使って、課題や宿題のやりとりを始めたという。3月初旬にはテレビでの授業も始まった。通信環境の悪い田舎では、先生が宿題を届けたり、ある地域では通信が届きやすい山頂にテントを作ったりしてまで、ウェブ授業をする環境を整えたという。

小学校から配布されたプリント。算数は好きだけど、漢字は難しい=鈴木暁子撮影

私たち家族は1月下旬に日本に帰国したが、ハノイでポコが通っていたインターナショナルスクールからは、担任の先生が「みんなもうちょっとの辛抱だよ」などと話しかける動画が、ポコにも毎日のようにメールで届いた。3月初旬に、現地で仲良くしていた日本人のご家族に聞くと、この学校では休校になった直後から、インターネットを使った遠隔授業が始まったという。前日に届く課題にそって、本読みや筆記をしたり、学習アプリを使った勉強をしたりするのだ。

面白いなあと思ったのは、美術や音楽、体育の先生からも課題が送られて来ることだ。例えば体育なら、「この動画に合わせてダンスしよう!」、美術は「パスタや豆など家にあるものを使って絵を作ろう」といったテーマが届き、おうちで子どもが実践する。その様子を家族が写真や動画に撮って先生に打ち返す。今や日本でも人気のZoomというビデオ会議アプリを使い、週に何度かは、15分間のウェブ授業もあると聞いた。

おうちにあるパスタを使った芸術作品も学校の課題(提供写真)

親御さんはなかなか大変だ。毎日自宅で子どもたちにつきあい、動画や写真をウェブサイトにアップしたり、先生に送ったりするのだから。お友だちのお母さんは、「『プチ先生』の状態で日中を過ごしています」と話していた。「学校も子どもも、普段からパソコンや学習アプリを使うのに慣れているので、割とスムーズに遠隔授業を始めることができた。子どもたちの成長ぶりや、興味を持っていることを見ることができたのはよかった」とも。ただ、忙しい日本の家庭環境を考えると、「なかなか日本で同じことをするのは難しいかな」

どの家庭もインターネットにアクセスする機器をもっている私立の学校だから、こうした取り組みが一斉に実現できたという面はある。でも、日本の学校がこれからの学習のありかたや、保護者との連絡の取り方を考えるとき、海外の例は参考になると思う。例えば、普段から学校で学習アプリをもっと活用してもよいのではないか。学校と家庭がより簡単にやりとりできる連絡方法を取り入れてもよいのではないか。ポコが日本の小学校に編入して驚いたのは、「お休みするときは、連絡帳に書いて近所のお友だちに渡し、持ってきてもらってください」といわれたことだ。えっメールや電話じゃだめなの?高熱が出て目が離せないときに、連絡帳うんぬんは手間がかかるし、先生だって大変だと思う。理由のないずる休みを防ぐといった利点があるのかもしれないが、より簡便にできないだろうか。

お友だちが送ってくれた写真。インターナショナルスクールの課題はセロリを色水につけて観察する実験。親御さんは「セロリなんて常備していない!」と嘆きつつ、対応したそうです(提供写真)

私たちの住む自治体から、「自宅学習等で学習できるコンテンツを提供しています。インターネット接続ができない家庭には機器を貸し出します」というメールが届いたのは4月13日のこと。やっときた!と思った。いつまで続くかわからない休校の間、7歳のポコは家にいればテレビを見たりiPadで遊んだりしてばかりで、勉強の習慣がつけられずにいた。

実は、ポコはまだカタカナの読み書きができない。学校からもらったプリントでは、「左にまがって校もんに入る」など、漢字の勉強も始まっている。カタカナも漢字も、普通の暮らしをしていればいつの間にか覚えるものだが、今は非常事態。「外出自粛が2022年まで必要か」という予測もある中で、遊ぶだけの毎日ではまずい。家にある幼児向けのカタカナドリルをまずやらせてみるが、なかなか集中できない。習慣づけのためにも、学校がメールで勉強のヒントや宿題を出したりしてくれたらありがたいのだが、と思っていた。

休校中、ご飯をつくるお手伝いもします=鈴木暁子撮影

つくづく思った。これからのニューノーマルは、日本は「世界をリードする先進国」ではないという認識を、日本人が世界の人たちと共有することなんだ。「技術の国」「最先端医療の国」と言われてきたが、インターネット活用も遅く、報道によると、感染症対策では、人材不足などでウイルス感染を調べる検査もすばやくできないという。人命最優先を掲げて立ち向かえる政府もリーダーも、この国にはいなかった。私たち国民も、「国がやっていると思っていた」と口にしてたたずむばかり。今回の危機が教えてくれたのは、世界から学ぶべきことの多さを認識し、再スタートをきる謙虚さが日本には必要だということだ。

これから学校がどう授業をするつもりなのか、その後、連絡はない。私も自分で考えて、ポコと遊びながら学ぶことにした。ネットのフリー素材で見つけた「カタカナカルタ」の画像をプリントし、在宅でつい飲んでしまうレモンチューハイの空き箱にはりつけてカルタを作った。まずはこれだ。さて、覚えてくれるかな。

まずは自分でできることから、カタカナカルタを作る=鈴木暁子撮影