アジアの新興国でも、中国マネーによる「土地バブル」が起きた。
カンボジア南部の海辺の街シアヌークビルは、中国資本のカジノが密集し、「第2のマカオ」と呼ばれる。中心部の撮影スポットになっているのは、黄金のライオン像。街の名の由来になった前国王シアヌークの力を「百獣の王」で表したとされる。
そのまわりに、建設中の高層ビルが立ち並び、垂れ幕がかかっていた。遠目に中国語らしいとわかる。中国人は2017年ごろから急増した。その多くが中国本土では禁じられているギャンブル目当てともいわれる。
シアヌークビルでは、巨額のカネが動くギャンブルの影響で、マンションの価格が以前の2~3倍まで高騰した。「まさに不動産バブル。金に糸目をつけないギャンブルは実態に合った経済を崩してしまった」。不動産販売会社を経営するチェク・ソクミン(40)は嘆いた。
だが、この半年足らずの間に状況は一変した。首相のフン・センが昨年8月、「治安と秩序を守るため」として、ネットを使った犯罪の温床になると言われてきたオンラインギャンブルの禁止を表明したのだ。多くのカジノが閉業し、中国人の姿が消えた。内務省によると、19年末までに20万人以上の中国人がカンボジアを去った。カジノや飲食店で働いていた7000人以上が失職したという。
年間200万人以上の中国人が訪れるカンボジアでも、特にシアヌークビルでは経済も中国資本が握る。昨年7月のプノンペンポスト紙によると、156のホテルのうち150、62のカジノのうち48が中国資本。カラオケ店やマッサージ店も中国資本が多く、436ある飲食店に至っては95%を占めた。
政府のオンラインギャンブル禁止は、街の経済を直撃した。トゥクトゥク運転手の男性(29)は、「中国人がいなくなり収入は5分の1に減った。妻が働く中華料理店も閉店してしまった」。ビーチで観光客にマッサージをする50代女性も「商売あがったりだ」と嘆く。タクシー運転手の男性は、中国企業が運営するタクシーを指さし、「カジノもKTV(カラオケ)もタクシーもみんな中国に奪われたのに」と不満を漏らした。
改めて建設中のビルにかかる垂れ幕を見に行くと、こう書いてあった。「工事が止まって2カ月、給料が支給されなくなって4カ月。だれが助けてくれるのか」「給料を返せ、血と汗と銭を返せ、家に帰せ」……。
完成を待たず、中国の出資者は街から引き上げ、もう戻ってこないのだろうか。昨年11月に、フン・センが中国首相の李克強に「開発に向けた財政支援」を依頼し、快諾を得たと報じられた。バブルも、その後始末も中国頼みなのだろうか。