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中国を見よ、若者に聞け 「今後40年のグローバル予測」ランダース教授の助言

Global Outlook 世界を読む
ヨルゲン・ランダース教授。2019年11月、東京で開かれたイノベーティブシティフォーラムで講演した

――代表作「2052 今後40年のグローバル予測」(2012年出版)では、世界の将来について多くの悲観的な予測をしています。出版から7年が経ちましたが、そういった予測を覆すような出来事は起きているのでしょうか。

いいえ、何もありません。ですから、私の予測は今でも正しかったと確信しています。執筆以降に起きたことは、基本的には本の内容に沿っています。他の執筆者とも会い、科学的な検証も行い、予測と異なることが起きていないか調べました。ですが、それらはなかったと結論づけました。

最も大きな問題として、気候問題が迫ってきているということに変わりはないと考えています。解決するためには、石油や天然ガスの使用をやめ、太陽光や風力などの発電方式に置き換えなければなりません。置き換えは進行中です。ですが、とても遅い。今世紀後半に気候問題が深刻化することに変わりはありません。

――世界にとって良いことは何も起きていないのですね。

何もありません。ただ、太陽光エネルギーのコストが低下したことは、とても、とても、とても大事なことです。コスト低下はもちろん予測していましたが、すでにガスなどと比べて競争力を持つほどまでになりました。これがおそらく最も重要な変化だと考えます。各国政府に石炭、石油や天然ガスへの投資をやめさせ、資金を太陽光エネルギーにつぎ込めさせれば、気候変動対策は加速するのですが。

■長期的志向は中国に学ぶ

――民主主義と資本主義が、現在のような状況を生み出した「犯人」だという指摘を、あなたはしています。民主主義と資本主義では遅すぎると。しかし、民主主義は人々の機会を最大化させる仕組みでもあります。民主主義の将来についてはどう考えていますか。

まずは民主主義と自由市場の何がいけないのかについて、はっきりさせなければいけません。それは、これらの制度が短期志向主義だということです。5年先、10年先のことを見ていません。十分な教育を受けた有権者でさえ、30年後の子どもたちの生活を向上させるために目先のコストを上げることについて、驚くほど同意しません。つまり、問題は人間が本質的に短期志向ということなのです。この短期志向主義は近代に制度化され、私たちは世界を運営するための仕組みとして、自由市場と民主主義を選んだのです。

これらの制度は、気候変動のような地球規模の問題を解決することには適していません。気候問題が抗しがたいほどになるまで放置するでしょう。何らかの対策はやがて取るでしょうが、そのときには手遅れになっています。

それでは、より長期的志向にするために、何ができるのでしょうか。市場についていえば、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出に対して課税する炭素税を導入すれば良いのです。しかし、四半世紀前から議論はありますが、うまくいっているとは言えない状況です。高すぎる税に対して合意が得られないのです。高い炭素税に支持が得られないため、民主的な政府では実行に移すことができないのです。

そして最も大事なことは、議会を変えることにあります。議員の中から20人から50人程度選んで、20年ほどの長い任期の特別な組織を作るのです。そして彼らに、議会の決定に対する拒否権を持たせるのです。米国の最高裁や、日銀の政策委員会に似たような仕組みとも言えます。政治の争いから離れたところで、気候変動から世界を守るという任務に就いてもらうのです。

こうした制度は人気があるでしょうか? ないですね。私も実現するとは思っていません。ですが、短期志向から抜け出すことがどれだけシンプルなことかを示したかったのです。

――民主主義とは異なる、中国の統治システムについて、地球規模の問題に対処するには良い仕組みだと評価しています。中国共産党による統治をどう見ていますか。

これだけの規模で貧困をなくした地球上で唯一のシステムだと思っています。そして中国は再生可能エネルギーへの転換も成功するでしょう。なぜかと言えば、中国政府は、長期的な視野で超大国をめざして国家建設をしているからです。何が目先の利益かに、とらわれていないのです。

中国モデルは、長期的志向を導入する上でのもう一つの道です。ですが、私の提案した案よりもさらに実現は困難でしょう。欧米の多くの人は、中国を批判的に見ています。しかし持続可能な開発という観点からは素晴らしい仕組みです。

――国連などの国際機関はどうでしょうか。

見込みはありません。約190の国が良い案だと同意した持続可能な開発目標(SDGs)がありますが、それぞれの目標が矛盾しています。大気や水や大地を守るという目標は簡単です。ですが、それらと同時に飢餓をなくしたり、健康を増進したり、すべての人に仕事を与えたりしようとすると、ことは簡単ではありません。

つまり、民主主義の抱えている問題と同じです。大きな目標には同意しても、細かな点で異なる意見を持つ国々が多すぎるのです。私の住むノルウェーのような、小さく、そして高い教育を受けた人々が多い国でさえ、民主主義について話し出そうとすると気が立つ人がいます。考え始めようとすらしない人がいます。

■若者に耳を傾けよ

――アメリカのトランプ政権やイギリスのブレグジット(EU離脱)は、事態をより悪化させているのでしょうか。

そうです、悪化させています。気候変動が最重要の課題ですが、不平等、失業という大きな課題も世界にはあります。トランプ政権の誕生とブレグジットは、不平等の帰結だとみています。

一部のエリートのみが多くの富を得ており、非エリートの人々は怒りを抱えています。その憎しみがワシントンに向けられました。有権者はトランプ氏に投票したのではなく、過去50年間にわたって虐げられてきたという反感を政府に突きつけたのです。

来日したヨルゲン・ランダース教授

事態は少し複雑ですが、ブレグジットも同様です。限られた職を移民と争っている人たちが、不満を募らせています。興味深いことに、裕福な人々も一方でEUからの離脱を支持しています。彼らは大英帝国の復権を望み、貧しい人々もそれに賛同した、という側面もあります。これらの動きの底流には不平等と失業という問題があります。

悲しいことに、トランプ氏やブレグジットの支持者は気候問題とは関係がないと主張していますが、結果として、気候変動に与える影響はよくありません。米国はパリ協定からの離脱を決めたでしょう。

そしていま、若者と、それ以外の世代とでの対立が始まっています。若者たちは声を上げ始めています。「老人たちよ、あなたがたはもっと気候問題に対処するべきだったのに」と。

――地球温暖化をめぐっては今年、スウェーデンの活動家グレタ・トゥンベリさん(16)が国連で印象的なスピーチをしたことが話題になりました。彼女の行動についてはどう思いましたか。

世代間対立が顕在化した一つの実例として見ています。私は、気候変動による問題が深刻化したときには生きていないでしょう。個人的には、彼女はとても期待されていると思っています。彼女からの批判を受け、恥を感じる人もいるでしょう。しかし、それ以外の人たちは自分たちを守り始めます。「彼女はほんの16歳だ。こんなふうにものを言うべきでない。無礼だ」と。

彼女の試みが成功するかは分かりません。ですが私は、本当に彼女に成功してほしいと望んでいます。

――若者と高齢者の世代間対立は世界で激しくなっているように思えますし、今後も広がっていきそうです。世代間の対立はどうすれば乗り越えられるのでしょうか。

若者たちに耳を傾けることです。世代間の対立には二つあります。一つは、過去20年間に、もっと多くのことをするべきだったのにしなかった、というもので、40歳より上の世代に向けられたものです。何をするべきだったのか? とてもシンプルです。化石燃料の使用をやめ、他のエネルギー源に力を注ぐことを強く推進することです。こうした批判に耳を傾け、行動を始めるべきです。

若い世代はまた、高齢化社会に不安を抱いています。労働年齢の人々は、子の世代に払うよりも、高齢者のために金を払わないといけません。「そんなものは払わない、誰かが代わりに払ってくれるだろう」と言う人もいます。ですが、そんな誰かは存在しません。

私は近年、世界の将来に対してさらに悲観的になっています。年金生活の世代が増え、税負担も重くなる。子どもたちのためにためたお金を両親に使わなければいけません。そして、こうした世代間の対立を解決に向けるような政治の支援はほとんどありません。物事は良い方向には進んでいないのです。

■日本は世界最初の「ラット」

――日本ではいま、かつてない深刻さで少子高齢化が進んでおり、多くの問題に対処しなければならなくなっています。日本の将来についてはどう見ていますか。今後、世界で日本はどのような役割を果たしていけばよいのでしょうか。

人口が減る中で、どうやって人々の幸福を高められるか、という点において日本は世界のリーダーになれるでしょう。明らかなのは、以前と同じ考え方では、もはや社会を構築できないということです。それは例えば、税制にも当てはまるでしょう。人口減の社会では、実に様々な種類の解決策が必要とされます。日本は豊かな国のうち、こうした深刻な問題に直面する最初の国です。言ってみれば、世界で最初のラットになるという素晴らしい状況です。

人口の増加が鈍り、GDPの成長が遅くなってきた1990年ごろでさえ、日本はすばらしい仕事をしてきました。こうした状況下にあっても、1人あたりのGDPは増えていたのです。最近の10年間でも生産性を上げています。日本人の視点からすれば、いまは90年と比べて、すごく良くはなっていないかもしれませんが、それでも良くなっています。

■「最新の電子エンタメを好きになれ」

――「2052」には、「やがて消えていくものに興味を持たない」「最新の電子エンターテインメントを好きになろう」といった20の個人的アドバイスがありました。なにか私たちにアドバイスはありますか。

私がよく人々に言っているのは、もしあなたが若ければ、中国に行き、中国語を勉強し、中国で学びなさいということです。特に日本人ならなおさらです。中国語と英語ができれば様々なものごとをつなぐことができます。

二つ目に、引っ越しをするなら気候変動の影響の及ばないところに行くべきだということです。以前私は、中欧は気候変動に影響されないところだと考えていましたが、それは誤りでした。10年前に考えていた時と比べて、熱波や干ばつといった実に難しい問題を抱えていることがわかりました。

最後に、実用的なアドバイスとして、「テレビを見るべきだ」ということです。美しいサンゴ礁を見たいと思い、世界中を探してフィリピンに妻と出かけたのですが、そのサンゴ礁は以前とはすっかり変わって、破壊されてしまっていたのです。地球を半周してサンゴ礁を見に出かけるより、テレビで見た方がきれいでした。映画や工芸品、人工的に作られた自然は、いまやリアルな自然よりも良いのです。「最新の電子エンターテインメントを好きになるべきだ」という私の予測は、悲しいことですが、証明されてしまいました。