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「ハエは友達?」 セブ親子留学で滞在の高級コンドミニアムで飛び回る虫との格闘

育休ママの挑戦~赤ちゃん連れ留学体験記~ 更新日: 公開日:
セブ親子留学中に滞在していたコンドミニアムのロビー。一帯のなかでも築浅で、受付のスタッフやガードマンも常駐していた=Joseさん撮影

私が入学した親子留学専門学校「kredo kids(クレドキッズ)」では、宿泊先を、学校から徒歩6分ほどのコンドミニアム(いわゆる分譲タイプのマンション)に指定していた。スタッフも同じ建物に住んでいるので、何かあればすぐに駆けつけてくれるし、何かと安心だ。

ワンルームタイプか、1LDKタイプかで費用が違った。数カ月にわたって滞在したり、子どもが複数いたりするママは、ゆったりできる1LDKタイプを選ぶ人が多かった。どの部屋に入るかは学校が振り分ける。洗濯機や冷蔵庫、ウォーターサーバーや電子レンジ、掃除道具や食器類など、最低限の備品は学校の管理下のもと、どの部屋も同じようにそろっているが、もともとは個人が持つ不動産だ。

セブで不動産業を営む男性によると、フィリピンでは、コンクリートむき出しの状態で物件を引き渡すため、同じ建物でも、壁の色や装飾品、家電の大きさや家具の質など、オーナーのセンスによって雰囲気がまったく違う。質素なところもあれば、重厚な家具が置かれている部屋もあり、私たちは互いの部屋を行き来しては、違いを楽しんだ。

同じコンドミニアムの1LDKタイプ(約45平米)の部屋。ソファやクッション、テーブル、カーペットなどはもともとの個人オーナーがそろえていたもの=若狭志歩さん提供

親子留学を実施しているセブ内のほぼすべての学校は、安全面から学校が指定した宿に宿泊することが決められているという。

その中でも、私たちが住むコンドミニアムは、ロビーにはガードマンや受付のスタッフがいる。築2年ほどの建物は、一帯では高級コンドミニアムと呼ばれていた。

その高級コンドミニアムで、事件は起きた。当時9カ月の長男ソウちゃんと親子留学に来ていたカオリさんの部屋だ。

「1匹や2匹じゃないのよ。10匹とかでもない。もう、Many many fliesだよ!」
カオリさんの説明によると、こうだ。

当初、案内された部屋には、ソウちゃんがハイハイをすると頭をぶつけてしまいそうな角のある家具が多かったため、違う部屋をリクエスト。

すぐに案内された別の1LDKは、きれいではあったが、一つだけ大きな欠点があった。
小バエだ。

どこからともなくわいてくる小バエだち。
最初は数匹だった。カオリさんは
「発展途上国だし、『ハエは友達』くらいの気持ちで」と構えていたが、増える、増える。

入居して1週間も経たないうちに数えられただけで20匹以上。台所や食卓の上をゆうゆうと歩く小バエたちに、日本から持ってきていた「コバエがホイホイ」を置いたが、まったく効かない。
「タマネギ型のホイホイの中を歩いて、そのまま入ってきた穴から優雅に出てきたわぃ」

カオリさんの部屋のリビング。もともとタイル張りの部屋に、無地のフロアマットの上にアルファベットと数字のパズルマットを敷き並べて厚みが出るよう工夫。息子がハイハイしても安全な仕様にした=カオリさん提供

学校に相談すると、即効性のある殺虫剤をスプレーすることを提案された。だが、カオリさんはこれを拒否。0歳の赤ちゃんがいるからだ。

清掃業者を入れることになったが、すぐには来られないという。その間にも、小バエたちは確実に数を増やしていった。

フィリピンのハエに日本製の「ホイホイ」は効かないとみたカオリさんは、清掃業者がくるまでの数日間、自力で対策を練る。

発生場所は台所のあたりだった。

ハエは発酵食品が好きらしいという情報を聞き、日本から持ってきていた味噌と食器用洗剤を空き瓶に入れ、台所のシンク周辺においてみた。だが、小バエたちには見向きもされなかった。

カオリさんの部屋のキッチンと同じタイプのキッチン=平原仁美さん提供

ふと、ビールならもっと釣られるのではないかと思い立った。ネットで彼らが上に飛ぶ習性があることを知り、ペットボトルの横に穴を開け、ふたを閉めたら、ハエが閉じ込められるに違いないと仮定。穴は小さすぎては入ってもらえず、大きすぎると逃げられる。試行錯誤の結果、ボールペンの先ならちょうどいいサイズだというところまでたどり着く。ペットボトルに約3センチの高さまでビールを入れ、さらに小さじ1杯ほどの食器用洗剤を加えた。

こうして出来た自家製「ホイホイ」を部屋に5、6本置いた。ビールの匂いに釣られた小さな敵は、入った穴から出られず、上に逃げることも出来ず、食器用洗剤によって確実にとどめを刺された。一晩おくと、翌朝には1本あたり底に10数匹たまっていた。

同じコンドミニアムの1LDKタイプ(約45平米)の部屋。ソファやクッション、テーブル、カーペットなどはもともとの個人オーナーがそろえていたもの=平原仁美さん提供

数日後、学校から派遣された清掃業者により、原因は台所のシンク下のパイプの中の汚れによるものだということが判明した。2週間以上かけて、ようやく小バエは完全に除去されたという。

この間、カオリさんとの会話がもっぱらflyだったことは言うまでもない。

「いるときはストレスだったよ。でも、自家製ホイホイ作っている時や、ハエが一杯とれた時は、スーザン(カオリさんの家政婦兼シッター)と一緒に喜んだよ。彼女に『カオリさん素晴らしい!作り方教えて下さい』とか言われちゃって」と振り返るカオリさんは、どことなく楽しそうでもあった。

住み慣れない土地で送る親子留学生活は、決して完璧ではない。でも、カオリさんは「これだから発展途上国は…」というようなネガティブなことは一切言わなかった。トラブルがあっても前向きに解決しよう(実際、解決していた)という姿勢を持てるかどうかで、ストレスはだいぶ違うように思う。

カオリさんはその後、新しく来た留学ママたちが小バエに悩んでいると知るたび、「Many many flies」の武勇伝とともに自家製ホイホイの作り方を伝授していた。