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「ぐずったら母親が」の常識を打ち破るフィリピン人シッターのおもてなし

育休ママの挑戦~赤ちゃん連れ留学体験記~
セブ島入りした翌朝、コンドミニアムのリビングでうろうろするシンシン。隣にはベッドルームがある=2018年9月、今村優莉撮影

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2018年9月。ある日曜日の夜、私たち母子は予定から1時間ほど遅れて、フィリピンのマクタン・セブ国際空港に到着した。

成田からの直行便とはいえ、バシネットもない狭いLCCの機体で乳幼児と5時間のフライトを終えた私はヘロヘロで、顔も脚もむくみまくっていた。

それでも、異国に足を踏み入れた時に感じる独特の高揚感は子どもたちにも伝わったのか、抱っこひもの中で寝ていたルールー(当時0歳3カ月)もむっくり起き出し、シンシン(同1歳6カ月)も興奮した様子でキョロキョロとあたりを見渡していた。

私たちは、留学先の親子留学専門学校kredokids(クレドキッズ)が用意した送迎バンに乗り込んだ。空港で、学校スタッフの日本人男性と一緒に出迎えてくれたフィリピン人シッターのJosefa(以下ジョセ)さんは、私の代わりにシンシンを抱っこすると、窓から見える車を指さしたり、バイクやバスを説明したり。日本とは違う風景にシンシンがキャッキャと反応すると「wow~~ you are so cute~~」と何度もほおずりしていた。初日から超がつくフレンドリーさと陽気さだ。シンシンもすぐになついた様子だ。私に対しても「あなたの子どもたち、本当にかわいいわあ~~!」とめちゃめちゃ褒めるので、なんだかとっても気分が良くなった。

日本からの赤ちゃん連れの女性はもう1人いた。エミさん(31)。8カ月の長男を連れた、背のすらりと高い女性だ。エミさん母子専属のシッター、マリッサさんも乗っていて、シンシンとはしゃぐジョセさんに比べると静かな印象だったが、優しい口調でエミさんに話しかけていた。

コンドミニアムの部屋のキッチン。コンロや電子レンジ、炊飯器(左)のほか冷蔵庫(右)、食器類などもすべて完備されていて、ホテルと違って自炊できるのが特徴だ=今村優莉撮影

助手席に座った男性スタッフは、後方に座る私たちを振り返りながら、今後の流れについて説明を始めた。空港からコンドミニアムに着くまでの約1時間、「トイレットペーパーは絶対にトイレに流さないで下さい」と3回は言った。

彼は日本の大学卒業を翌年に控え、夏からkredokidsでインターンシップをしているという。セブシティーとはどんなところか、という説明よりもトイレの話に力を入れるところをみると、よほどイタイ目に遭ったのだろうか。「いや~僕自身、トイレットペーパーを何度か詰まらせて、大変な思いをしたので……」。やっぱり。

我々が滞在するコンドミニアムは、築2年ほどでセブ市内でも「高級マンション」に入るという。いくら高級でも、いくら築浅でも、フィリピンのトイレットペーパーは水に溶けないし、下水管が細い。「だから流さないで」と、彼は繰り返した。

部屋にはキッチンや洗濯機など生活に必要な設備はあるものの、日用品や食料は自分でそろえなければならないため、チェックインする前にまずは買い物が必要だった。コンドミニアムの道路を挟んで向かい側にはセブ市内でも有数な巨大ショッピングモールがある。私たち二組の母子は、男性スタッフの案内で、同モール内のスーパーへ向かった。それぞれのシッターさんも一緒だ。

セブ(と言うよりフィリピン)は物価が安い、と思い込んでいた私たちの思いはまずそこで軽く砕かれた。案内されたのが、超高級スーパーだったからだ。オムツにおしりふき、醬油も米も日本製がそろっているが、何もココじゃなくたって。思わずぼやいた私に、男性スタッフは「モール内には現地資本の安いスーパーもありますが、こちらは日本人の方が安心して買えるものがそろっているので、まずはこちらを案内しているんです」と頭をかいた。

シンシンとルールーの「Children’s medical record」。それぞれ、あらかじめ日本語で学校側に送っておいた2人についてのアレルギーや好きな食べ物、性格などの情報が、シッターがいつでも確認できるように英訳されて冷蔵庫に貼られていた=今村優莉撮影

買い物の途中、荷物が重くなると持ちきれなくて大変だ、と心配する我々に、彼はこうも言った。

「全部家政婦に持ってもらえば良いんですよ!家政婦なんですから」

彼はおそらく「それが彼女たちの仕事だから、遠慮はいりませんよ」というつもりで言ったのだろう。20代前半の彼は、私たち「ママ」に対する配慮もあったのかもしれない。だが、私とエミさんはその言葉に、なんとも言えないモヤモヤを覚えた。

うーん。現地で生活していると、そういう感覚になるのだろうか? そう言うのって、ナントカ目線というのではないのかな。(この話は後日談があるが、それはまた次回以降)

だが、そんな我々の思いをよそに、当のシッター2人からは、私たちの負担をできるだけ軽くしようという思いが確かに伝わった。無駄のない動きでトイレットペーパーやらミニパックの洗剤やらゴミ袋やらを数個ずつバスケットに入れてくる。値段はともかく、何もないコンドミニアムに子連れでチェックインして数日間は困らない程度、というのをこれまでの経験則で知っているのだろう。

「次に買い物をするまでの食料品が必要ですが、肉や卵も入れて良いですか?牛乳は買いますか?パンはどれくらいいりますか?」とジョセさんが聞くので

「お任せします!」と答えると、

「ユリさんはここで待ってて。わたし行ってきます」

と、すばやくスーパー内をまわる。しかも彼女は、眠さと疲れに同時に襲われたため恐ろしいほどぐずり始めたシンシンを左手で抱きながら、だ。

「私、シンシン預かりますよ」と言うと

「イッツオッケー!」と笑顔。ぐずったときは「やはり母親が」と思いがちな私たちのジョーシキを、吹き飛ばしてくれそうな心強さだ。母親にはなるべく負担をかけない。それが彼女たちなりの「おもてなし」なのだろう。

シッター付きで買い物したことなんて人生で初めての私は、初日から、なんかものすごい感動を覚えてしまった。まだ英語の勉強もしていないのに、もう満足度高い!みたいな。

ちなみに当日のお会計はしめて3000ペソ。およそ6000円超くらいだった。結構値が張ったのは、新品の哺乳瓶を買ったからでもある。成田空港でバタバタと搭乗準備をしていてルールーの哺乳瓶をなくしたからだった。

子どもたちのお世話をしながらベッドメーキングをしてくれるジョセさん(中央)=今村優莉撮影

買い物を終えると、私たちは歩いてコンドミニアムに向かい、我々は18階の1LDKタイプ、エミさん母子は階下のワンルームタイプの部屋にそれぞれチェックインした。

トランクなどの荷物も部屋まで運んでもらうと、すでに夜9時をまわっていた。ジョセさんは男性スタッフと一緒に部屋の設備の説明などをしたあと、「グッナイ!」と明るく言って帰宅していった。

3人でシャワーを浴び、シンシンとルールーにそれぞれミルクとおっぱいをあげると、疲れが一気に出て、私たちは文字どおりベッドの上で川の字で寝た。蒸し暑い天気だったが、ルール-も疲れたのか、珍しく夜泣きもしなかった。

翌日の月曜日。7時45分を少し過ぎたころ、ピンポンがなった。ジョセさんだ。予定よりも10分以上も早い。

「グッモーニン~~ユリサァン!」

例の明るい声で挨拶し、頭をペコっと下げた。脱いだ靴をそろえて部屋の隅に置くと、手を洗った。すでに起きていた2人のちびたちに向かって「ハァーイ、シンシン、ルールー!」とほおずりすると、早速ベッドメーキングをした。その後も2人のオムツを替えてくれたり、服を着替えさせてくれたり。 

シッターがいる生活って、こう言うことかあ。私は久しぶりにゆっくりと朝ご飯のパンを頰張り、ファンデーションを塗り、眉毛を描いて髪を整えた。

***いよいよ親子での「留学」生活が始まりました。初日は英語のレベルチェックを兼ねた面談です。フィリピン人先生からの素朴な質問に、私はしどろもどろになってしまいました。

朝、私の部屋に来てシンシン・ルールーのお世話をしてくれるジョセさん。明るい笑顔が絶えない人だ=今村優莉撮影