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アジアでの伸びしろ、アニメに託す 増えるコンテンツ需要、業界に期待と警戒

World Now
ネットフリックスのオリジナルアニメ「エデン」制作の様子を語るCGCG社プロジェクトリーダーのチャン(左から2人目)=渡辺志帆撮影

「過去12カ月で、日本発アニメの視聴時間が9割増の急成長」

東京都内で10月、ネットフリックスの新作アニメ紹介イベントが開かれた。そこで強調されていたのは「日本作品の人気ぶり」だった。

ネットフリックスが日本でサービス開始したのは2015年。日本の会員数は約300万人で、伸びしろは大きい。国内外の新規会員を引きつけるコンテンツとして、2年前から独占配信するオリジナルアニメの制作に本腰を入れている。

アニメ制作拠点は米ロサンゼルスと日本の2カ所。2020年秋に配信予定のオリジナルアニメシリーズ「エデン」は、ロボットだけになった未来の世界で人間の少女がロボットに育てられるSFファンタジーだ。原作兼プロデューサーは米国人、監督は日本人の入江泰浩、音楽はオーストラリア人、背景美術監督は中国人という国際色豊かな作品だ。

2020年秋配信予定の「エデン」=ネットフリックス提供

■国境をまたぐ制作現場

11月上旬、エデンの制作を手がけた台北市の制作会社「CGCG」のオフィス。200人以上のクリエーターが所属する台湾屈指のCG会社だ。作業ルームを案内してもらうと、黒い天井に窓のスクリーンを下ろした薄暗く大きな空間にコンピューターが整然と並び、数十人のクリエーターが一心に画面に見入っていた。辺りに聞こえるのはゴウゴウと響く空調の音と、カチカチ鳴るマウスのクリック音だけだ。

「CGでの光の当たり具合や質感、色彩が正しく見えるよう、わざと暗くしています」。管理部門のダイアナ・チェン(41)が声を落として教えてくれた。

作業室の撮影は一切禁止だ。クリエーターが使うコンピューターもインターネットに接続されていない。そういえば取材を始める前に保秘契約書に署名を求められた。ディズニー傘下でスターウォーズで知られる「ルーカスフィルム」と資本関係がある同社は、アップルTVプラスなどからもCG制作を受注している。未公開作品の情報が漏洩(ろうえい)しないよう、徹底した保秘がはかられているのだ。

エデンを担当したクリエーターたちが取材に応じてくれた。プロジェクトリーダーを務めたコニー・チャン(35)によると、苦労した点の一つは、キャラクターに3次元のCG技術を駆使しつつ、監督の入江の求めに応じて2次元のセル画アニメのように輪郭や影のラインをくっきり見せることだったという。

台湾で制作されたネットフリックスのオリジナルアニメ「エデン」の主人公の表情を、入江泰浩監督が日本から遠隔で修正した=渡辺志帆撮影

3次元アニメ―ションではキャラクターの向きによって顔や髪の陰影は刻々と変わるが、それでは入江が考える「日本的なアニメらしさ」が出ない。「背景美術が手描きで、キャラクターも限りなく2次元に見せる作品は初めてで最初は戸惑った」と振り返った。日本にいる入江や米国にいるプロデューサーらとは、特殊なソフトウェアやアプリを介して作業の進み具合を確認し合ったり、話し合ったりしたという。

■広がるアニメ配信先に、期待と警戒

ジョージ・ルーカスら世界中のクリエーターたちのサインで埋め尽くされた制作会社「CGCG」のロビー=台北市、渡辺志帆撮影

激しさを増す動画配信サービス各社の競争は、制作現場をどう変えているのだろう。副社長のアンディ・ツァオ(56)によると、「視聴者から選ばれるために、配信各社はコンテンツを増やす必要に迫られている。うちは業界でも卓越した技術があるので、受注量がぐっと増えている」。

ネットフリックスのアニメ部門チーフプロデューサー桜井大樹(42)も、「短期的に見たらパイを取り合うかもしれないが、中長期的にはクリエーターの層が厚みを増し、業界全体が活性化するのですごくいいことだ」と話した。

ネットフリックスのアニメ部門チーフプロデューサー、桜井大樹=渡辺志帆撮影

日本動画協会によると、日本のアニメ産業の規模は17年、配信事業などの急成長で、初めて2兆円を超えた。特に海外市場が12年と比べて4倍強の9948億円と急上昇中で、国内の1兆1579億円に迫る勢いだ。要因として、中国市場の成長や多国籍配信プラットフォームの増加などが挙げられるという。

動画協会理事で制作会社「ぴえろ」社長の本間道幸(58)は、配信プラットフォームが増えたことを評価する。「作品の置き場所が多岐にわたることで、日本のアニメ業界全体の収益を持ち上げている」と話した。

ただ、ネットフリックスなどの大手配信業者のコントロールが強まることへの警戒感も聞こえる。

アニメ制作会社はキャラクターグッズやゲームなど関連商品の売り上げも見込めるが、大手の配信業者と組んだ場合、そうしたビジネスがやりづらくなるとみられている。クリエーターの奪い合いも起きており、ある日本のアニメ業界関係者は「人材の引き合いでは絶対負ける」と話す。