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ぴえろ本間道幸社長が語る 日本アニメのディズニーとは違う、世界での戦い方

World Now

1961年生まれ。83年、スタジオぴえろ(当時)入社。「まいっちんぐマチコ先生」、「うる星やつら」などの制作進行としてデビュー。「星銃士ビスマルク」、「きまぐれオレンジ★ロード」の制作デスクなどを経た後、企画営業プロデューサーとして「ヒカルの碁」、「BLEACH」、「NARUTO-ナルト-疾風伝」などの大ヒット作を手掛ける。

■商機広げるネット配信

――ネットフリックスなどの配信プラットフォームでも日本の「アニメ」が配信され話題です。業界に及ぼしているプラス面、マイナス面を教えてください。

プラス、マイナスで配信プラットフォームを検討するのをいったんやめて、まずはアニメ業界全体を考えてみましょう。若手クリエーターの育成や、働き方改革など、アニメ業界には課題がある一方、実際には2兆円を超える産業が構築されています。

我々は何十年と変わらない制作業務を続けながらアニメを供給していますが、そんな中でなぜ産業として伸びているのでしょうか。産業が急成長した要因の一つとしては、国内外の配信プラットフォームが定着・増加し、我々が制作した作品の置き場所が増えたことにあります。

テレビ放送やビデオ、DVD、ブルーレイなどを1次使用として制作された作品が、ネットフリックスにも、アマゾンプライムビデオにも、Huluなどにも置けます。それが海外の視聴者に届き、事業化されていきます。国内にとどまらず世界に広く作品を届けることができれば、それらの国々でも日本と変わらぬアニメビジネスが展開され、その作品が世界各国で収益を上げてくれます。その収益が一つ一つの作品の制作売り上げ以外の収益アップにつながり、日本のアニメ業界の向上につながるということです。

「NARUTO-ナルト-疾風伝」

単体でネットフリックスはどうか、配信プラットフォームはどうかと考えるより、我々が制作者としてありがたいのは、置き場所が多岐にわたっているということ。それがアニメ業界の全体収益を持ち上げていることを知っていただければと思います。

■中国市場、海賊版から収益出るマーケットに

――日本動画協会によると、2017年、日本のアニメ産業の市場規模は初めて2兆円を超えました。

その中の国内配信収益は540億円。市場規模が以前ピークだった2000年代後半、視聴手段としても収益としても下支えしたのはビデオパッケージでした。みんながDVDやレーザーディスクを買っていました。今では、テレビ放送をテレビや録画機のハードディスクに保存するタイムシフト視聴やスマホによる配信という視聴手段の多様化により、ビデオパッケージは視聴手段のひとつではなく付加価値を有した嗜好(しこう)品としての存在に形を変えてきています。

日本のアニメの海外展開に関しては、かつては欧米にしか著作権を管理する市場がなく、世界的には違法に視聴されていました。日本で録画された作品が、中国行きの船の中でVHSのビデオテープに大量にコピーされ、中国全土に違法のVHSが出まわっていました。台湾、香港でアニメのVHSが100円、200円で売られるという、我々には一銭も入らない市場がありました。つまり、著作権管理がきちんとしている欧米の市場からしか、収益が入ってきませんでした。欧米の正規ディストリビューターが発売する玩具やパッケージが、海外の市場を支えてきたといえます。

このような状況を、中国の大手配信会社は日本のアニメを正規に購入し、市場を広げるプラットフォームを構築することで、収益がない市場から収益が上がる市場に変えていきました。欧米が支えてくれてきた日本のアニメ市場は今も変わりませんが、中国市場の急成長が、アニメの海外売り上げ増加に寄与しています。弊社の海外収益の割合から見ても、中国市場の売り上げは欧米に肉薄しています。

「魔法の天使 クリィミーマミ」©ぴえろ

一方で、中国市場については、政治的文化的なリスクがあるので、配信やゲームへの規制強化など市場に対する影響を慎重に見守る必要があります。

今後の世界市場への展開を考えると、インドネシアをはじめとしたASEAN諸国や中東などといった新たなパートナーを模索しつつ、さらなる市場開拓を進めていく時期にも来ているでしょう。

■ディズニーとは戦い方が違う

――圧倒的なコンテンツを擁するウォルト・ディズニーが19年11月、北米などで新しいSVODサービス「ディズニープラス」を始めました。これから日本のアニメにどんな影響を及ぼしますか。

アニメーション市場全体の広がりは増えるものの、日本のアニメへの影響はないでしょう。ディズニーと日本のアニメは、違うものだから。

ディズニーのアニメーションビジネスの在り方は、アニメーション業界の理想だし、目指すべきビジネススタイルです。チャンネルを持ち、配信プラットフォームを持ち、ディズニーランドやディズニーストアがあります。ディズニーの全ての著作権を管理し、世界市場に流通網を持ち、コンテンツの流通をディズニー一つで抱えられます。そういう市場の王様、アニメ会社の理想のスタイルがディズニーです。

しかし、映像ということでは勝ち負けの話ではなく、違う分野で戦ってきています。

アニメーションを1秒間に24フレームで動きを付けるとして、ディズニーは24フレームのうちすべてに絵を入れて作っているのに対し、日本のアニメは24フレームのうち半分以下の絵で1秒間を表現しています。ディズニーのアニメーションは奇麗に滑らかに動くフルアニメーション。日本のアニメはキレよく動くリミテッドアニメーション。それぞれ違う環境で育まれてきました。

――日本のアニメ業界に影響はないと?

私たちは、決してディズニーをまねして映像を作りません。異なる文化によって作られた作品を同じ土俵で評価するべきではないと考えています。受け手となる皆さんも同様の感覚なのではないでしょうか。

日本のアニメーションは、日本のアニメーションの作り方・動きのタイミングで世界と勝負していかないとならないのです。その代わり、ストーリーの内容、キャラクターメイキング、演出方法などを工夫して、より面白い映像を作ろうとディズニーのそれとは違ったことをやってきました。だからこそ、「アニメ」という言葉があるのです。ディズニーは「ディズニー」。日本は「アニメ」。アニメーションという意味では同様の市場にありますが、むしろ全く違う市場であると考えていただいた方がいいのです。

■制作能力高めるアジア勢

――中国や台湾、韓国などアジア各国も制作能力をつけ、オリジナル作品を輸出するようになりました。日本のアニメ業界にとって危機ですか。

中国のアニメーションも、韓国のアニメーションも、大いに楽しんでもらいたいです。日本のアニメは独自の文化であり、この分野においては世界の先輩であることに変わりはありません。とんでもない圧倒的な文化が、日本のアニメにはあります。昭和初期ごろまでに漫画が文化として定着し、手塚治虫さんがアニメを始め、今の東映アニメーションが商業アニメを始めた歴史があります。日本のアニメとして独特のスタイルを完成させてきました。我々はアニメ文化の生みの親として、アジアの国や地域より、これからも先を走り続けていかなければなりません。

確かに、アニメーション制作の技術力という視点でいうとアジア各国の成長は目覚ましいものがあります。だが、アニメは技術だけで作られるものではありません。作品を支えるのは、ストーリーであり、キャラクターであり、演出です。これは一朝一夕にできるものではなく、自由な環境で様々な発想の作品作りができるということが重要なのです。その点について、まだまだ日本のアニメのような作品は作れないのではないでしょうか。テレビで深夜帯に放送される「大人アニメ」は、日本の「アニメ」のこだわりがあるからこそ、視聴者に受け入れられました。大人にマッチした、違和感のないアニメの設計図を描ける力があるということです。

ただ、アジアの他の国・地域の作品を見ても、優れた作品が輩出されてきています。もしかしたら新しい第3の文化が出来上がるのかもしれませんが、まだ模索しているようで道半ばではと思います。

とはいえ、日本のアニメも蓄積された圧倒的な文化という財産を利用しているだけではいけません。だからこそ、新しいアイデアを自由な環境で常に生み出し続け、よりよい作品を作り続けることに意味があります。そのためにも、日本国内だけではなく、世界に対して日本のアニメというものを強く押し出していく。冒頭お話ししたようなビジネス的な視野も正しく持ちながら作品をマネタイズし、業界の課題に取り組み、そして人が育つアニメーション制作環境を構築できるよう努力しないといけません。