1. HOME
  2. World Now
  3. ロシアに上陸した日本のファストファッションとファストフード

ロシアに上陸した日本のファストファッションとファストフード

迷宮ロシアをさまよう 更新日: 公開日:
モスクワの某ショッピングセンター内のユニクロ店舗。(撮影:服部倫卓)

ロシアにはユニクロが37店舗

ファーストリテイリング社の展開するブランドであるユニクロは、2019年8月末現在、世界22ヵ国で店舗を展開しており(なお、2019年秋にさらに3ヵ国で新規出店)、店舗数は日本国内817店、海外1,379店に上るということです。うち、ロシアでは37店を数え、店舗数で見れば、ユニクロにとって9番目に大きな市場ということになります。

2010年に首都モスクワの高級ショッピングセンター「アトリウム」にロシア一号店をオープンさせたユニクロは、その後順調に店舗を拡大し、上述のとおり現在では37店に達しています。モスクワ20店、サンクトペテルブルグ8店、その他の地方が9店という内訳です。

ユニクロ成功の秘密は?

出店のペースから判断して、ファーストリテイリングのロシア事業は軌道に乗り、上手く行っているということなのでしょう。日系企業のロシアビジネスは、成功したもの、失敗したもの、色々ありますが、ユニクロの成功の秘密は何だったのでしょうか?

開業当初に関係者に聞いた話では、ファーストリテイリングでは、殊更にロシアに合わせるというよりも、ユニクロという世界共通ブランドをそのままロシア市場にも投入する方針とのことでした。また、日本式の経営方式を貫くため、あえて現地の代理店と組んだりはせず、自ら小売りを手掛けるのはもちろんのこと、人材採用や宣伝広告なども日本の方式をそのまま持ち込んだというお話でした。外国企業の中にはロシアの特殊性に合わせることで上手く行っているところもありますけれど、ファーストリテイリングの場合は自社の確固たるブランドとノウハウを貫くことが成功の秘訣だったようです。

個人的なことですが、先日モスクワに出張した際に、思ったよりも肌寒かったので、現地のユニクロ店舗に駆け込み、セーターを一枚買いました。その時に改めて思いましたけれど、やはり定番的な商品が、豊富なカラーバリエーションときめ細かいサイズ設定で売られており、しかも値段も手頃なユニクロは、安心して買い物ができます。久し振りにロシアのユニクロ店舗を覗いてみて、ロシアの消費者にもすっかり受け入れられている様子を確認でき、嬉しく思いました。

ユニクロのロシア一号店出店から間もない時期の「アトリウム」の様子(撮影:服部倫卓)

チェーン展開は必須

ところで、ユニクロがロシア市場に根を張るに当たって、もう一つ鍵となった条件があると思います。それは、最初から多店舗をチェーン展開することを想定していたことです。「まずはモスクワで早期に10店舗程度の展開をしていきたい」というのが、当時聞いたお話でした。

一般消費者をターゲットに日用的な商品やサービスを販売する商売は、薄利多売にならざるをえません。ユニクロのロシア一号店がオープンした初日には、開店前に1,000人もの行列が出来るなど、人気を博しました。しかし、いくら旗艦店が繁盛しても、1店舗だけでは限界があるはず。ユニクロ・ロシアの場合は、良く売れたから店舗を増やしたというよりも、店舗数を拡大することによって真の意味でビジネスが軌道に乗ったと言えるのではないでしょうか。

日本企業はしばしば、「まず1店舗で試験的に販売してみて、それで上手く行ったら、本格的に店舗を増やしていこう」などと考えがち。しかし、そうした及び腰の投資は、ロシアでは失敗することが多いです。ロシアでは、最初から不退転の覚悟で多店舗展開を目指し、「自分たちがこの国の消費・生活スタイルを塗り替えるのだ」というくらいの意気込みで臨まないと、埋没してしまいます。もちろん、皆が皆、ファーストリテイリングのような体力があるわけでないにせよ、ロシアにおけるユニクロの成功は重要な教訓です。

あれは1990年代の末頃でしたか、日本のドトールコーヒーショップが商社と組んで、ロシアに進出したことがありました。当時、モスクワ随一の繁華街だったアルバート通りというところに、我らがドトールがお目見えしたわけです。その頃のロシアは、まだネスカフェのインスタントコーヒーが珍重されていたような時代であり、ちゃんと淹れたコーヒーと気の利いた軽食が味わえるドトールの進出は、今考えても画期的だったと思います。

しかし、モスクワのドトールは、在留邦人をはじめとする一部のユーザーには好評を博したものの、ロシア市民に充分に認知されるには至らず、数年で撤退してしまいました。混乱期のロシア特有のビジネス環境の悪さに翻弄された面もあったようですが、やはり1店舗だけで様子を見るという慎重な姿勢では、多くを望めなかったのだろうという気がします。その後のロシアで、地場資本のコーヒーチェーンや、外資のスターバックスが急拡大したことを考えると、「あの時ドトールがもっと大胆に大量出店していたら…」などと、つい考えたくなってしまうのです。

モスクワにお目見えした松屋の店舗外観(撮影:服部倫卓)

牛丼の松屋がロシア進出

令和の時代に入って、日本企業による新たなロシア進出のニュースが飛び込んできました。㈱松屋フーズが、北海道総合商事㈱と組んで、ロシアにおける牛めし業態「松屋」の展開を行うと発表、本年6月にモスクワに一号店を開設したものです。

松屋フーズではプレスリリースの中で、「ロシアは世界9位となる1億46百万人以上の人口を有しております。特に首都モスクワには1,200万人以上の人口が集中しており、経済規模も大きく、重要なマーケットと考えております。近年、日本の食文化への関心が高まっておりますが、本格的な日本食レストランが少なく、ニーズが満たせていない状況と考え、出店することとなりました。今回のモスクワへの『松屋』第1号店を皮切りに、ロシアへ日本の食文化を広め、弊社商品を通してモスクワのお客様に喜んで頂けるよう努めてまいります」と、進出の理由を説明しています。

筆者も早速、9月の出張時にモスクワの松屋で食事をしてみました。オーダーした牛丼は、肉質が日本のそれよりもやや淡泊かなと感じましたが、ちゃんと日本の味を再現してくれています。メニューの中には、日本の松屋にはないカツ丼やカツカレーがあり、そうしたカツものが意外な人気メニューとなっている様子でした。

モスクワの松屋でも、値段は抑え目にしてあるので、利益を出してビジネスを長期的に安定させるためには、お客さんの回転率の向上が課題になってくるでしょう。さらに、今のところは1店舗だけですが、将来的には店舗網の拡大が必要になってくるのではないでしょうか。前掲のプレスリリースに見るように、当然のことながら、経営側もその課題を認識しているようです。その奮闘に、心からエールを送りたいと思います。

これがモスクワの松屋で供された牛丼。日本と違って、味噌汁を豚汁に変えられないとのことだったので、豚汁を単品で注文し、汁物ダブルスタンバイとなった(撮影:服部倫卓)