企画したのは、理化学研究所のアマンダ・アルバレズさんと雀部正毅さん、人間文化研究機構の高祖歩美さん、沖縄科学技術大学院大学(OIST)の大久保知美さんの4人のサイエンスコミュニケーター。アルバレズさんから欧州で昆虫食ブームになっていることを聞き、昆虫食文化のある日本で外国人も日本人も楽しめるイベントがしたいと考えた。アルバレズさんがフィンランド出身という縁、そしてフィンランド人アーティストによる昆虫の絵を出展したことなどで、フィンランドセンターが後援。展示物の説明などは日英バイリンガルとしたのが特徴だ。
会場内でまず目をひくのは、「コオロギチョコレート」「タガメサイダー」「コオロギパスタ揚げ」をはじめとする様々な虫の名前がついたスナックや飲料などの販売コーナーだ。飲食スペースでは、「ミールワームペペロンチーノ」やスズメバチの成虫をあしらった「蜂蜜レモネード」などのメニューも用意されている。
はじめはぎょっとするが、試食をすすめられて興味津々で口に運んだ来場者は「案外いける」「普通にチョコレートだ」と口々に発しているし、ペペロンチーノを注文した外国人に感想を尋ねると「ミールワームはくるみみたいに香ばしい」との答えが返ってきた。
食べ物ばかりでなく、パネルディスカッションやワークショップなど、専門家の話を伺う場も用意されていた。
ディスカッションには昆虫の専門家らが集結
パネルディスカッションには、環境問題に関するドキュメンタリーを撮り続けている映像プロデューサー、ルイス・パトロンさん、昆虫料理研究家の内山昭一さん、OISTでアリの研究をしている諏訪部真友子さんのお三方が登壇。
「これまでに食べた昆虫で一番おいしかったものは?」の質問に対して、「カミキリムシの幼虫は日本に生息しているもののなかでダントツにおいしい」と答えたのは内山さん。「わたし自身、生まれが長野なので小さいころからイナゴやハチノコを食べていた」と話し、特に明治以前の日本人は、食材としてもペットとしても昆虫に親しんできた日本の人と昆虫の歴史を紐解いた。
これに対してルイスさんは、「虫っていうとゴキブリや蚊といったマイナスイメージを思い浮かべる人もいるかもしれないけど、日本人はカブトムシをペットにしたりもするよね?」とコメント。また、自身の生まれ故郷メキシコでは、昆虫食としてはバッタ料理が一番人気であるほか、メスカルという蒸留酒に蛾の幼虫を入れたものもあると紹介した。
続く諏訪部さんは、これまでに食べた昆虫の中ではセミが一番おいしかったと断言。また、自身が現在、ヒアリをはじめとする外来種を研究していることから、「マイナスイメージが強い虫もいるけど、たとえば同じアリの中にも、ツムギアリといって農業害虫を食べてくれる有益なアリも存在する」など昆虫の姿を多面的に伝えた。
昆虫を食べる際の注意点やおいしく食べるポイントについては、内山さんの独壇場。「有毒な種類を食べるときは絶対に加熱処理を施すこと」「加熱しても毒を処理できないものもいるから注意して」「オオスズメバチのハチノコは熱湯に30秒くぐらせてしゃぶしゃぶみたいに楽しんで」「樹木の中で育ったクワガタの幼虫は食べられるけど、土の中で育ったカブトムシの幼虫はまずいから気を付けて」などなかなか聞けない貴重な話が飛び出した。
参加者から「ゴキブリは食べられるのか?」の質問が投げかけられると、内山さんは「街中のゴキブリは臭いから、食べるなら森に棲んでいるオオゴキブリがいい。街中のものを食べるなら、繁殖させて何世代か育ててから食べたら、ニオイが気にならないのでは」とのこと。ペットショップで販売しているマダガスカルゴキブリなどは、食用としてもイケると太鼓判を押した。
粉末状の昆虫でふりかけを作って食べよう!
パネルディスカッション後には、ヨーロッパイエコオロギ、クロスズメバチ、アブラゼミの3種類の昆虫粉末を好みの配合でブレンドして食べることができる「ふりかけワークショップ」を開催。
内山さんによると、ヨーロッパイエコオロギは味のクセがなく、クロスズメバチは香ばしい香りが特徴。アブラゼミは旨みが濃いという。粉末になっているので、説明がなければ見た目には昆虫とはわからない。テーブルに用意されたごまや青のりも一緒にブレンドして、思い思いのふりかけ作りを楽しんだ後は、アゲハチョウのフンで作った「虫糞茶(ちゅうふんちゃ)」も供され、参加者たちは昆虫食の奥深さに目をみはっていた。
「昆虫は美容にもいいの?」「わたしは鈴虫を育てているけど、鈴虫はどう調理したら一番おいしく食べられる?」など内山さんが参加者から質問攻めに合う一幕も。みんな興味津々の様子で耳を傾けていた。
(取材・文・撮影/松本玲子)