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教育現場に昆虫食 「虫を食べる世界の文化」を知る 

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岐阜県立多治見高校で行われた昆虫食のセミナーでは、日本や南アフリカの昆虫の試食会も行われた=吉本美奈子撮影

■昆虫を非常食に

「昆虫食は災害時に効果的では」。そんな提案をしているのは、東大阪大学短大部実践食物学科教授の松井欣也(61)だ。2011年の東日本大震災後、避難所で食生活の調査を行い、たんぱく質やビタミン、食物繊維などの栄養素が不足しがちな状況を見てきた。栄養学の専門家として、そんな状況で最適な栄養源として目をつけたのが昆虫だ。「昆虫も食材だという意識改革が必要。常日頃食べられるものを作りたい」と意欲を示す。

昆虫食については、FAO(国連食糧農業機関)が2013年、人口の増加にともなう食糧問題に対する有効な方法のひとつとして提唱。EU(欧州連合)も最近、一部昆虫を新規食品として法的に認定している。それを受け、各国で昆虫食品のスタートアップ企業が続々と誕生するといった動きが出ている。

松井は同僚の准教授である岡本貴司(64)とともに、昆虫を輸入販売している大阪の株式会社「昆虫食のentomo(エントモ)」と産学連携で研究し、学会でも発表を重ねている。彼らはイベントなどでコオロギのパウダーを練り込んだパンやお菓子を作り、普及活動を行うと共に、アンケート調査で人々の昆虫食への考えを調べている。

作りやすいのはクッキーやバターケーキ、パン、チョコレートで、生地に練り込むコオロギ粉の割合は10~15%が適量。すでに8種類ほどの種類があるという。試食させてもらったが、パンは確かに少し香ばしく、小麦の殻まで入った全粒粉入りのパンに似ていると感じた。

コオロギ粉を練り込んだパン生地を手にする岡本貴司・東大阪短大准教授=2019年3月27日、大阪府東大阪市
コオロギ粉を練り込んだパン=2019年3月27日、大阪府東大阪市

松井は「文科省の食品データベースに載っている昆虫食品は、イナゴのつくだ煮と、はちの子くらい。日本ではほかの昆虫も食べてきた文化があるので、多くの種類が世に出て欲しい。大手食品メーカーが携帯食として開発すれば、非常食としても可能性があるのでは」と語る。

■昆虫通して世界を知る

一方、岐阜県立多治見高校では7月下旬、日本の昆虫食研究の第一人者・立教大教授の野中健一(54)や南アフリカの研究者らを招き、「SDGs・環境問題と昆虫食」のタイトルで、昆虫食に関する授業や講演会、交流会を行った。教師の佐賀達矢(33)が2年ほど前から開いているセミナーの一環。佐賀は「勉強の延長線上に世界があると言うことを知ってもらいたい」と狙いを説明する。

多治見には、ハチの子など昆虫を食べる文化があり、国内のほかの地域より昆虫食文化が残っているという。それでも佐賀は「昆虫を食べたことのない子も多い。実際に異文化と交流することで、自分たちが暮らす社会を改めて見つめ直してほしかった」

講演では、野中が「環境とは何だろう。その地域や文化も考えていこう」をテーマに、食用シロアリの塚が避雷針にもなっている外国の事例などを紹介した。交流会では、南アフリカで食べられている乾燥のモパニワーム(ヤママユガの幼虫)を試食したが、迷った末にようやく口に運ぶ生徒、イナゴやカイコなど次々と味見していく生徒、友達が食べるのを見るだけの生徒、と様々だった。

蜂の子やイナゴのつくだ煮の試食準備を行う生徒。中央ふたりは南アフリカからの参加者、左端は佐賀達矢教諭=2019年7月22日午後、岐阜県多治見市

終了後、生徒たちの感想は「虫は食べ物じゃないと思っていたが、南アフリカではこれが一般的に売られ、食べられていると聞き、普通に食べられると思った」が約8割を占めたという。

■普及の課題

世界でも徐々に昆虫食への理解が進んで来た。ただ、普及に向けては多くの問題点が残っているという。業界の第一線で活躍するビジネスマンは、普及に向けての課題をどのように考えているのだろうか。バンコクで昆虫食品会社を経営するイタリア人マッシモ・レベルベリを訪ねた。

レベルベリがまず指摘したのは、食品として昆虫を輸出入するために必要なグローバルな基準の欠如だ。「EUや各国が法律をつくっても、世界中で取引するには、食品として、明確な基準が必要だ」と指摘する。

クリケットパスタを手にするマッシモ・レベルベリさん=バンコク、吉本美奈子撮影

レベルベリは2015年に「bugsolutely」を設立し、コオロギ粉が20%配合された「クリケットパスタ」(コオロギパスタ)の販売で知られる。最近、新たな会社「Plento」を立ち上げ、欧米でもアジアでも好まれる昆虫食のスナックの販売を始めた。欧米では昆虫の姿形がわからない食品が好まれ、たんぱく質など栄養分として食べる傾向があるという。一方、アジアでは自然に採取した昆虫を、そのままの姿で間食や副菜的に食べる文化がある。その両方の特性に合わせ、緑豆やひよこ豆など植物由来のたんぱく質と混ぜたベースとなるスナックを製造。味付けを国によって変えて売るアイデアだ。

ただ、昆虫食材の輸入に関する各国の基準は「EU内で養殖されたもの」「養殖されたもの」「種類ごとで区別」などにばらばらだ。また、FAOとWHOが合同で作るCODEX(コーデックス)という食品の国際基準にも、まだ昆虫が含まれていない。国レベルの話し合いや投票で規格が決まるため、業者は議論の結果を待つだけだけの身だ。レベルベリは「国際的な法整備が進まないとビジネスとして広げるのも難しい」と不満を漏らした。