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ふたりの「匠」が、隈研吾と出会い気づいたもの/特別企画【新時代の匠たち】vol.02

PR by LEXUS 公開日:
高知の「匠」・岩本大輔さんが手掛ける組子細工(撮影・有村蓮)

「匠」のプロダクトが京都に集まる           

「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」の集大成ともいえるクラフトの祭典は、京都の3つの会場で開催される。京都新聞ビル地下1階の新聞工場跡地では総勢150人におよぶ匠のプロダクトが集結する「JAPAN connection」、平安神宮 額殿では、日本を代表するトップクリエイターと匠がコラボレーションした新作6点が展示される「CREATORS connection」、建仁寺塔頭の両足院では、京都の文化の担い手が若き匠と共作する「KYOTO connection」。そのなかの、「CREATORS connection」で隈研吾さんとコラボレーションしてプロダクトを制作・展示するのが、高知の組子細工職人・岩本大輔さんと、奈良の木工作家・平井健太さんだ。

奈良の「匠」・平井健太さんは吉野杉で家具を制作している

日本の伝統工芸を継承するふたりの「匠」

岩本大輔さんは、欄間や障子など建具の装飾に使われる組子細工を現代生活に合わせた商品の開発・企画・制作に取り組む匠。厳選した木材を加工したごく小さな木のパーツを組み合わせる組子細工だが、指先ほどもない小さな部材が組み上がることで美しい模様が浮かぶ。部材の一つひとつがつながって均衡を保つことで模様全体が成立する超繊細な技術に、ファッション性や現代性をプラスして、独自の世界が広がっていく。

一方、奈良県の吉野地方で生産される吉野杉にほれ込み、家具づくりに打ち込んでいるのは平井健太さん。飛騨高山で木工技術を修得後、アイルランドでの3年間の修業を経て、2017年に奈良・吉野の川上村に移住。家具業界では硬くて重い広葉樹が重用される中で、針葉樹である吉野杉の美しさと品質に着目し、比較的入手しやすい薄板を使って「曲げ木」に挑むとともに、長くても節がない「無節」と「年輪」をデザインに取り入れた家具の制作を続けている。

彼らふたりが、今回隈研吾さんとそれぞれコラボレーションをしている。このプロジェクトを通して彼らは何を感じたのだろう。彼らのモノづくりへの思いもふくめて語ってもらった。

高知の「匠」・組子細工職人の岩本大輔さん(撮影・有村蓮)

最高峰の技術に「土佐組子」で新しい風を/高知代表 組子細工職人・岩本大輔さん(談)

私が組子細工を始めたのは、家業が建具屋だったから。江戸初期に現在のスタイルが確立されてきたとされている建具の最高峰の技術が組子ですが、四国ではその技術は門外不出とされていました。父は埼玉へ、そして3代目の私も、やはり組子の仕事がしたくて、宮城で修業しました。それから高知へ戻り、「土佐組子」という会社を立ち上げました。建築様式のモダン化で少なくなってきた組子の仕事、少し逆風の中ですが、あえて革新的な取り組みにチャレンジし、新しい時代の風を取り込んだ土佐組子を広めたい一心で取り組んでいます。

組子の魅力をひと言で表現するのは難しいですが、やはり光と影の調和でしょうか。もともとは障子や欄間に使われていた建築部材です。光を通して見える景色、逆光のシルエットが美しく、さらに幾何学模様の連続は、見る角度や人によって模様の見え方が変化する。そこが面白いのかなと思います。

「土佐組子」創設2年目のまだこれからの方向性を決めかねていた頃に、このプロジェクトを知りました。組子を「より多くの人に知ってもらいたい」、「人目につく機会を増やしたい」という思いで作った木製の組子バッグは、現在の土佐組子を象徴するものになったかと思います。

今回、隈さんと組むことが決まった時は思わずガッツポーズしました。建築の仕事を生業としていたこともあり隈さんは憧れの方。コラボレーションできるという夢のような話でしたから。隈さんの手掛けた建築の中には、組子にとても近いと感じるものもあり、そこから何か制作のヒントを得たいという欲求もありました。本当に偉大な方とお会いしてアドバイスをもらう機会をくださったこのプロジェクトには感謝しています。

隈さんは建築家ならではのスケール感の大きな発想で、私の思い描く組子の限界を飛び越えて、枠の外側からモノづくりにアプローチしてくださいました。隈さんの要求をカタチにする。するとまた新たな要求が生まれる。サンプル制作のやりとりを重ねるうちに、プロダクトのカタチは大幅な変化を遂げました。隈さんとコラボレーションできたことで、大きな自信につながったと思います。

このプロジェクトで、同じ境遇でモノづくりをしている匠たちと出会えたことも、とても大きな収穫です。皆がものすごい熱量を持っていて、とても刺激的でいろいろな話から新しい世界が広がります。

職業病でしょうか。車窓の建物も橋の欄干も、見るものを組子に置き換えたらどうなる? と、いつも考えています。これからも「伝統と革新」というテーマのもと、建具屋としての仕事や伝統的な組子の技法も大切にしつつ、組子の新しいカタチを創造、追求していきたいですね。

奈良の「匠」・木工作家の平井健太さん。写真は隈研吾さんが工房を訪れたときの様子(撮影・大和田博一)

吉野杉の美しさとぬくもりに魅せられて/奈良代表 木工作家・平井健太さん(談)

僕が奈良県川上村で木工作家になった大きな理由は、吉野杉に魅せられたからです。杉は軟らかく、家具には不向きという弱点もありますが、節がない特徴を生かし、薄い板を何枚も重ねて積層合板にしたものを、型を使わず自由に曲げ、加工することで、強度を補填し杉でも家具を作る事が出来ました。杉は軽い分、他の木にはない軟らかさや温もりがあります。吉野杉の歴史は古く、何百年も前から人が手入れしてきました。木の1本1本が人の創り出した作品とも言えます。自然の物であって人工の物でもある。そこにも惹かれますね。

もともと僕は、ゼネコンで設計の仕事をしていましたが、実際に建物を建てるのは職人さんで、モノづくりに直接携わっている認識が薄かったんです。ただ、最初から最後まで自分で作りたいと思っても、建築はスケールが大きすぎます。それでスケールダウンをして、家具制作をするようになりました。

とはいえ、既成家具の概念に固執したくない。例えば、「椅子の足は4本で背もたれがあって」という常識から、時には外れてみたい。僕の使う技術は歴史が浅いからこそ、自由な発想も出やすいと思う。「これ、本当に木でできているの?」と言われるようなものにも、チャレンジしていきたいです。

大学の建築史で隈さんのことを学んでましたし、憧れを抱いていました。だからコラボレーションが実現して驚いています。いざ冷静になると、不安と緊張が押し寄せてきました。「隈さんの前で大風呂敷を広げてしまって、実現できないような事になったらどうしよう」と思いもしました。でも、隈さんはクリエーターとしてこちらの技術を把握した上で、最大限の提案をして頂けました。クリエーターと作り手の思いが共鳴し、とても良い経験ができました。

今回のプロダクトの見どころは「スケール感」です。これまで経験のない大きさで、全長は約6メートル。全体のスケール感や、細かなディテールなど、隈さんから様々なアドバイスをいただきました。それらに応えるべく、制作に淡々と向き合っています。家具にも建築にもないオブジェとしての迫力を出したいですね。

他の匠たちとはお互い切磋琢磨して向上していきたいです。ジャンルは違えど、同じようなフィールドでモノづくりと向き合ってきた。交流することで気づきが生まれ、突破口も発見できる。そんな環境で僕たちを手厚くサポートしていただけたことも、このプロジェクトの素晴らしさだと思います。

来場された方が吉野杉に興味をもつ第一歩になれば嬉しいです。僕がやっていることは些細なことですが、それをきっかけに林業全体を盛り上げたい。それが僕の希望です。

「CREATORS connection」の会場となる平安神宮の前で(撮影・大和田博一)

「モノづくりの現場にいくと見えてくる」/建築家・隈研吾さん(談)

最後に、隈研吾さんに彼らふたりとのコラボレーションを選んだ理由について聞いた。

岩本さんが取り組む組子細工というものにはもともと興味がありましたが、木をあそこまで細くしても強度を獲得していることにとても心が惹かれました。木を格子状に使う工芸や技術は、世界各国に見られますが、日本の組子の繊細さや華奢さは、他に類を見ません。組子で曲面が作れないか、ずっと考えていました。だから、組子の創作に挑戦する彼の意欲的な姿勢が、とても心に響いたんですね。

一方の平井さんの作品をはじめて見たのは東京です。まず、「すごいけど、どうなってるの?」と思いました。今年の夏には実際に吉野の工房も訪ねました。モノづくりは現場に行くと、必ず基本的な原理がわかります。工房で材料を見て説明されると、地道で細かい作業に頭が下がる一方で、「わりと簡単にできるものなのか」とも思えた。これはすごく重要なこと。ひとつのものモノづくりに納得がいくと、新しい発想にジャンプしやすくなる。家具というスケールのすごみを、家具を超えてもっと強調したいと思いましたね。

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「CRETATORS connection」では、このふたつのコラボレーション以外にも森永邦彦さん、廣川玉枝さん、辰野しずかさん、谷尻誠さんが、「匠」とプロダクトを制作し、展示する。日本の伝統工芸を継承する匠たちと日本を代表するトップクリエイターが共演する夢のような3日間にぜひ足を運んでみたい。

(文/深瀬圭子)


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特別企画【新時代の匠たち】は全5回でお送りします。

  1. 小山薫堂が考える「これからの匠」に必要なもの
  2. ふたりの「匠」が、隈研吾と出会い気づいたもの
  3. 伝統工芸の、新たなるはじまり
  4. 隈研吾が、これからの伝統工芸に思うこと
  5. 新時代の匠を京都で知る3日間