■ 小山薫堂/「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」総合監修
「今回の展覧会を京都で開催できて本当に良かったと思っています。京都で開催する理由のひとつにフレームがあります。京都というフレームが、伝統工芸にとてもしっくりくるものでした。両足院も、平安神宮も、京都新聞の地下も。隈さんの演出もありますけども、場所にパワーとオーラがあります。そして京都の展示ということで、見る側の気持ちもまた変わります。全国の匠のみなさんにとっては、『京都で開催する』ということで緊張感もある。それが京都のブランド力なんだろうなと思います。
ここは本物がたくさんあつまる街です。“本物” の“本”という字は、象形文字の木の下にちょんと印をつけます。つまり根っこという意味だそうです。ぼくは“本物”とは、幸せの根っことなる“物”、だと思います。匠のみなさんが作っている“物”は、幸せを作っている。その物を所有することによって、所有した人が幸せな気持ちになり日常のなかにささやかな幸せが生まれます。ぼくはこのプロジェクトで出会った徳島の匠・永原レキさんのサーフボードをきっかけに、55歳にしてはじめてサーフィンに挑戦しました。伝統工芸の職人さんの作品がきっかけで自分の人生がかわることもあります。このプロジェクトが始まる前には想像もしていなかったことです。匠のみなさんにはこの所有する側の気持ちも忘れずに、これからもモノづくりに挑戦していただければと思っています」
■ 隈研吾/「TAKUMI CRAFT CONNECTION -KYOTO」展示企画
「京都での展覧会に参加できて興奮しています。匠や日本の技を世界に発信するときに、京都は玄関であり、聖地でもある、ということをあらためて認識しました。会場のひとつである京都新聞ビルの地下に初めて入ったとき、まずパワーを感じました。数年前まで輪転機が回っていた場所の匂いがします。インキのような機械の油のような匂いですね。この場所に日本の匠の作品が集まる。新聞を印刷する場所と伝統工芸は一見対極に感じますが、あわさるとよりパワーが出るのは、さすが京都だと思います。平安神宮の額殿もふくめて、京都はまだまだそのような隠れた場所が沢山ありますね。
今回わたしがコラボレーションしたひとりが、高知の匠・岩本大輔さん。組子はわたしがもともと興味をもっていて、いつか建築で使いたいと思っていたものです。日本の職人さんはチャレンジングです。岩本さんもわたしの言う無理な要望に対して想像以上のもので応えてくださった。組み方も彼がやったことがない方法でしたが、単に伝統を引き継ぐだけでなく、チャレンジする気持ちで制作してくれました。日本の伝統工芸の職人さんのそのような力を、今回あらためて感じています」
つづいては、平安神宮 額殿で開催中の「CREATORS connection」で、匠とコラボレートして作品を発表するトップクリエイター4名に、作品について、そして匠と伝統工芸について話を聞きました。
■ 廣川玉枝/SOMA DESIGN デザイナー
「現代のライフスタイルに合うように、洋装にも和装にも似合う履物を、東京で草履を手掛ける匠の伊藤実さんとコラボレートして作りました。日本人が守り培ってきた伝統の技術を活かしながら、日本人の履物の特徴である“開放性”をひとつのコンセプトにしたプロダクトです。下駄型、ポックリ型、草履型の3種類の履物を制作しました。いままでにないデザインやカッティングなので、伊藤さんに技術を応用してもらいながら、研究し何度も作り直していただいています。挑戦ではありましたが、強いメッセージを発信するプロダクトにしたいという思いがありました。デザインするために履物の概念からリサーチをし、多くのプランからどれが新時代の履物に相応しい形なのか検討しました。伊藤さんはじめ日本の伝統技術は、物に込めた想いが細部まで現れるので本当に素晴らしいと思います。伝統工芸は、時代によってライフスタイルなど環境が大きく変化したとき、ダーウィンの進化論のようにそれに併せて進化を遂げることができれば未来に繋がると思っています。そういう意味で、伊藤さんは常に伝統を活かしながら、前向きな取り組みに挑戦して新時代へ向かう力を持った方だと思います。製法は伝統的な手法でありながら、新しい世界観を見せられるプロダクトをデザインしたので、見にいらっしゃる方にもそういうところにも注目していただけたらと思います」
■ 森永邦彦/ANREALAGE代表取締役社長・デザイナー
「僕がコラボレートしたのは静岡の挽物師・百瀨聡文さんです。彼が手掛ける挽物をはじめとする伝統工芸に対しては、一周まわって新しささえ感じていました。製法も、使う道具もふくめて。百瀬さんは挽物でコーラ瓶を制作するなど、僕が思っていた伝統工芸の職人の印象とは真逆で、反骨精神と挑戦心をもった人。コラボしたら面白いプロダクトができそうだなと思いました。僕たちが制作したプロダクトはいわゆる鋲ジャンを300%に拡大したものです。生地はエコレザーで、通常シルバーで表現されてきたファスナーやスタッズを挽物に変換しました。木工でスタッズやファスナーを作ることで、時間経過に伴うエイジング表現も可能になります。木のファスナーは実際に開け閉めできる機能性をもっています。300%にスケールアップすることで、本来のファスナーの役目は洋服をくっつけたり離したりという機能ですが、扉であったり、家具であったり、ファッションとは異なる用途でファスナーが使える可能性が広がります。服を開けるファスナーが、新しい世界の扉を開けるきっかけとなることを願っています」
■ 辰野しずか /クリエイティブディレクター・プロダクトデザイナー
「薩摩切子は、2色のガラスを重ねて出来た吹きガラスをカットすることにより、とても色幅が豊富になります。一つ一つ手でガラスを吹いているため、色だけではなく、できる造形も多種多様なことを知り、鹿児島の薩摩切子職人・鮫島悦生さんとコラボレートすることにしました。モノづくりの過程では、壁に当たってとても辛くなる時期がおとずれます。そこをともに乗り越えられる人柄だと鮫島さんに感じたのもコラボレートしたポイントです。今回の展示ではいつも通りのモノを作っても、プロジェクトとしては成り立ちません。だから技法的にも挑戦的なプロダクトを目指していました。そのため制作過程では『今までの薩摩切子では見たことない作り方』と言う人もいました。でも鮫島さんは『やってみます』と言って根気強く一緒に乗り越えて下さり、この積み重ねで、今までにない薩摩切子が完成しました。色を青系にまとめたことで、グラデーションの美しさをより感じていただけると思います。薩摩切子をはじめ伝統工芸は、私にとって守りたいもの、愛するもの。人の手から生まれるモノは、作る人の性格やDNA、それに環境なども関係してくるので生命すらも感じます。伝統工芸は時代の流れにあわせてアップデートされて未来につながるものもあれば、不変で時代にあうようにアプローチする方法もあると思います。私は、魅力に感じる工芸を守っていければと思いますし、みなさんにも会場で人の手から生まれる伝統工芸のロマンを感じていただけたらと思います」
■ 谷尻誠/建築家・起業家・SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd.代表取締役
「大阪のガラス工芸家・関野亮さんとコラボレーションしています。彼の作品はガラス工芸のなかでもとくに繊細。今回はその繊細さをいかしつつ、関野さんが今までに作ったことがないプロダクトを制作しています。ある意味、関野さんのモノづくりに制約と負荷をかけています。クリエイターやアーティストは負荷があって、彼らの力がもっと生きてくるものですから。展示のプロダクトは、“何か見たことがある新しいもの”です。ガラス工芸と呼ばれるものはみなさん見たことがあると思います。だけど、僕らが制作したものは新しく感じてしまう作品です。僕がいつも手掛ける建築はすべて機能ありきのものですが、この展示では機能がないものを作りたかったんです。関野さんはものすごく苦労して僕の要求に応えてくれました(笑)。関野さんから『これは難しい』と言われると『どうしたら出来るのか』を何度も話し合い制作しました。みなさんには自由に見てほしいですね。しいて言えば、『いくらなら買うだろう』という視点があるといいかもしれません。購入するとなったら本気で考えてプロダクトを見るようになりますからね(笑)」
最後に、澤良宏さん(Lexus International President)の、この展覧会への思いを紹介します。
■ 澤良宏/Lexus International President
「今回の『TAKUMI CRAFT CONNECTION -KYOTO』の開催にあたり、あらためてみなさまへ感謝いたします。『LEXUS NEW TAKUMI PROJECT』は、日本各地の若き匠の活動をサポートし、地域から日本全国、そして世界へ羽ばたく若い才能を支援するプロジェクトとして、2016年にはじまりました。小山薫堂さんをはじめ、メンターの皆さんのアドバイスのもと、匠の持つ伝統技術に新たな息吹が吹き込まれ、素晴らしい作品が生まれています。そして今回、これまで3年間でサポートしてきた全国47都道府県の約150人の匠の作品が初めて一堂に会し、お披露目することになりました。隈研吾さんをはじめトップクリエーターの皆さんと匠が協働して、新たな素晴らしい作品も展示されます。主催者としてこれらを今日、お披露目できたことを光栄に感じています。サポートしてきた匠のみなさんも、地域の伝統的なモノづくりに根差しながらも、ニーズが多種多様に変化する時代に応じて新しいチャレンジと工夫を続けています。こうした匠のみなさんの、モノづくりの情熱や、その成果である作品に触れることで、わたしたちも新たなチャレンジへの活力やインスピレーションをいただいています。こうしたサイクルを続けていくことで、日本各地のモノづくりやわたしたちに力を与えてくれると信じています。これが、このプロジェクトに取り組む大きな理由です。今回だけに留まらず、これからもみなさんと一緒に、日本ならではの美意識と感性をグローバルに広げていけるよう、チャレンジを続けていきたいと思っています」
会期は、12月1日までの3日間のみのスペシャルイベント。「新時代の匠たち」と、日本の伝統工芸の未来を体感できる展覧会になっています。
写真/福森クニヒロ(展覧会)、有村蓮(人物)、レポート/大島佑介
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特別企画【新時代の匠たち】は全5回でお送りします。