――スマホでデリバリーを頼む人が増えています。どんな理由でしょうか。
ライドシェアのウーバーを始めた10年前、食べ物のデリバリーをするとは思いませんでした。ビジネス拡大につれ、乗客以外に運べるものはないかと考え、気づいたのが、人々は食べ物を配達してもらうのが好きだということ。2015年にカナダでウーバーイーツを立ち上げ、世界で500以上の都市に広がっています。
――日本や韓国、インドなどアジア各国にも進出していますね。
アジア太平洋地域で市場が急速に成長しているのは間違いありません。7月時点で9カ国・地域の75都市以上で、6万3000を超す飲食店と提携しています。日本やオーストラリア、インドに力を入れていますが、中でも日本は大きく伸びています。アジア太平洋地域の加盟店数は、昨年だけで倍になり、利用者数は3倍以上に増えました。世界で最も注文がある地域です。
――なぜそれほど市場が急成長しているのでしょうか。
昔は、ほとんどの食事は家庭ですませていました。1980年代、ファストフードのような気軽に入れる安い飲食店が増え、外食は必ずしも高価なものではなくなりました。人々の食べ物を消費するスタイルという点で、これは大きな変化でした。そしてここ数年、再び新しい変化が起きています。人々が食の価値を便利さに置きはじめたことです。家庭でも職場でも、多くの人がオンラインでデリバリーを頼むようになってきました。
アジアでは、より多くの世帯の支出が外食などの飲食に使われるように変化してきましたが、デリバリーに関しては、欧米などに比べると、まだまだ初期の段階です。定期的にオンラインで頼む人はアジアでは7%ほど。他の地域では20%程度のところもあるので、大きな成長の可能性があると言えます。
――日本の特徴はどんなところにありますか。特別な戦略はありますか。
大きな特徴の一つが、世界で最も豊富な「食」が、どの都市にもあることです。地元の人気店もあれば、外国料理の店も。日本全体で飲食店は60万軒あるといいますが、それだけ選択肢が豊富なのです。コンビニエンスストアも大きな地位を占めています。外国では、食事のためにコンビニに行く必要はありませんが、日本ではとても重要です。多様な食の選択肢と、コンビニの商品などを、どのようにサービスに取り入れられるか考えています。
――日本では「出前館」や「楽天デリバリー」などの競合相手がいます。ウーバーイーツの強みは何ですか。
私たちにはテクノロジーの力があります。飲食店と協力し、それぞれの利用者の好みに合わせておすすめ料理を提案したり、簡単に配達できるよう工夫したりすることで、満足度を向上させることができます。また、マクドナルドやスターバックスなどグローバルに展開する飲食店との強固な関係は、私たちならではの強み。一方で、すかいらーくのような国内市場で強い飲食店との連携も大切にしています。
――ウーバーイーツの将来像は、どのように描いていますか。
朝起きてから夜寝るまで、すべての食に貢献できればと考えています。例えば朝のトレーニング後の食事は、カロリーの消費量や心拍数の上昇に加え、ベジタリアンやグルテンフリーといった食の好みを把握した上で、おすすめの料理を提案できます。それを店に注文しておけば、職場に行く途中、店で受け取って食べられます。同僚とのランチや、家庭で使う日用品の手配などのツールとしても使える。そんな便利さと選択肢の豊富さを併せ持つサービスを作っていきたい。デリバリーはスタートにすぎません。
――デリバリーが増えると、家から冷蔵庫がなくなり、家事から解放される日が来るのでしょうか。
人々は、家でつくるのと同じくらいヘルシーで、調理する手間のいらない食べ物を求めています。興味深いことに、オーストラリアでは、広いキッチンがないアパートが建てられたといいます。デリバリーを多く使うような人たちには必要ないのです。日々の食の選択肢として、デリバリーの存在感が増しています。
――加盟する飲食店にはどのような利点がありますか。
飲食店の関心は、「共にビジネスをすることで、私たちの仕事をどう助けてくれるのか」ということ。例えば、店内のオペレーションを効率化したり、利用者のデータ分析によってメニューを最適化したりできます。大事なのは、利用者の要求と飲食店の運営の橋渡しをすることです。単なる配達の枠を超えて、飲食業界全体をどう支えていけるのか、考えていきます。
――配達員は直接雇用でなく、個人事業主に業務委託しています。配達中の交通事故などの問題もありますが、働く環境の整備はどう考えていますか。
私たちは信頼できる収入と、柔軟な働き方を提供し、配達員もそれを重視しています。安全対策にも力を入れており、交通安全に関する講習を開き、事故などに備えて保険制度を整えています。
報酬についても、主な収入としても副収入としても十分な水準だと考えています。配達員の90%は、安定した収入を働く理由に挙げています。日本ではこれまで、副業や柔軟な働き方ができる機会があまりありませんでしたが、最近では多くの人々が副業に関心を持ってきました。これも日本のユニークな点になっています。
ラージ・ベリー Raj Beri
ウーバーイーツ・アジア太平洋地域統括本部長
カナダ・トロント生まれ。米ペンシルベニア大ウォートンスクールでMBA取得。ウーバー入社以前はアドテク企業AdadynのCOOなどを務める。