韓国の忠清北道・堤川(ジェチョン)市で8月8~13日、第15回ジェチョン国際音楽映画祭(以下、ジェチョン映画祭)が開かれ、日本映画も7作品が予定通り上映された。
日韓関係が悪化する中、韓国で開かれる映画祭の中には日本映画の上映をやめるという動きも見られる。開幕前、堤川市議会でもジェチョン映画祭での日本映画上映に反対する意見が出ていたが、映画祭事務局は上映を決定した。
国際映画祭で、国家間の政治的な葛藤を理由にある国からの出品作を上映しないということは、あってはならないことだと思う。だが、一方日本では国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」で慰安婦を表現した少女像などの作品に抗議が殺到し、中止となった。あってはならないことが、日韓両国で起こっている。
ジェチョン映画祭の執行委員長は「八月のクリスマス」(1998)などで知られるホ・ジノ監督。開幕式の会場はソウルから車で2時間半ほどの山奥だが、毎年レッドカーペットには人気俳優もたくさん登場する。堤川市職員によると、「ホ監督が開幕前に『今何してるの?』という感じで電話して急に俳優さんを呼ぶこともある」とか。
今年の開幕式で特に観客をわかせたのは、キム・ジェウクやユ・ジテの登場だった。キム・ジェウクは最近までドラマ「彼女の私生活」に主演していた。ホ監督の「ラスト・プリンセス-大韓帝国最後の皇女-」(2016)では、得意の日本語を生かし、ソン・イェジン演じる徳恵翁主の夫、宗武志役を演じた。
ユ・ジテはホ監督の「春の日は過ぎゆく」(2001)に主演した。今年は、リュ・ジャンハ監督の追悼上映としてユ・ジテ主演「純情漫画」(2008)が上映されるのに合わせて来たという。リュ監督は「春が来れば」(2004)などで知られる監督だが、「春の日は過ぎゆく」の脚本・助監督でもあった。昨年、リュ監督にジェチョン映画祭で会った際、少しやつれた様子で、病気を患っているとは聞いていたが、今年のプログラムを見て亡くなったことを知った。昨年上映されたリュ監督のドキュメンタリー映画は、障害を持った子どもたちのオーケストラを描いた心温まる作品で、リュ監督が「私自身、撮っていて癒された」と話していたのを思い出した。最期まで映画と共に歩んだ人生だった。
日本映画では、佐々部清監督の「この道」(2019)を見た。詩人の北原白秋(大森南朋)と音楽家の山田耕筰(AKIRA)を描いた作品で、日本の童謡誕生100周年を記念して作られたという。互いに反目し合っていた二人は、関東大震災をきっかけに傷ついた子どもたちのために共に童謡を作るようになったが、戦争に向かう時代、子どもたちを戦場に送り出す軍歌を作るよう命じられ苦悩する。こんな反戦映画が、「日本映画」という理由で除外されるとすれば、本当におかしな話だ。
上映後、自身も詩人という観客の一人は「詩人の映画と知らずにたまたま見たが、とてもおもしろかった。政治は政治、文化は文化だと思う。ジェチョン映画祭がこうやって日本映画を上映してくれて心からありがたい」と話した。プロデューサーの間瀬泰宏さんは観客に対し「僕も映画人として、韓国の映画を非常に素晴らしいと思っている。もっと日韓で対話できないのかな、と思います」と答えた。映画を通し、心が通い合った瞬間だった。改めて、こんな時だからこそ、文化交流は止めてはならないと感じた。