自宅では持続可能なライフスタイルを目指して努力しているあなたでも、旅先では旅行が環境に与える影響のことなんて考えたくないという誘惑にかられるかもしれない。誰だって、休暇中に罪悪感を味わいたくないのだ。
しかし、旅行が環境に及ぼす影響は重大である。豪シドニー大学が昨年発表した研究によると、グローバルな観光旅行は二酸化炭素の排出総量の8%を占めることがわかった。これまで考えられていた量より3倍多い。
「グローバルな観光旅行が安くなり、行きやすくなるにつれて、飛行機やクルーズ船、列車、バスといった乗り物の利用も増え、大量の二酸化炭素などの有害物質が放出されている」とサマンサ・ブレイは言う。持続可能な観光事業を支援する非営利組織「Center for Responsible Travel(CRT=責任ある旅行センター)」の総括主宰者だ。
でも、持続可能な、あるいはグリーン(環境に優しい)な旅行者――旅行先の環境に物理的および文化的な両面のインパクトを与えるということについて考える人――であることは、見かけほど不都合なことではない。観光旅行で生じる可能性がある害を制限するために、旅行者が実行し得る実用的な手立てがいくつかある。
■鉄道を利用しよう
目的地まで何で行くかの選択は、その旅行が環境に与える影響を考える際の最も重要な決断かもしれない。
米環境保護局(EPA)の調べだと、米国内で輸送により発生する温室効果ガス全体の12%は航空機によるものだ。自動車その他の車両からの排出量は、さらに大きな割合を占めている。
もし目的地まで列車で行けるのなら、その選択を考えてほしい。
「列車は目的地へ行くすばらしい手段だし、飛行機で行くより二酸化炭素の影響がずっと少ない」。持続可能な観光旅行を専門に扱う旅行会社「Responsible Travel」の最高経営責任者ジャスティン・フランシスは言う。
旅行者が飛行機を完全に避けるという選択肢はそうはないが、考え方として、できるだけ飛行機を使わないということだ。
「離着陸が(有害物質の)総排出量のかなりの部分を占めるため、長距離便よりも短距離の飛行やストップオーバー(途中降機)の方が旅客1人に対する1マイル当たりの公害度が高い」とフランシスは指摘する。「旅行先の国内の移動では飛行機を避け、可能ならば公共交通機関を利用し、狭い地区だったら歩いたり自転車を使ったりしてほしい」
他の考え方としては、休暇の回数を減らして1回当たりの休暇を長くとり、飛行機はできるだけ目的地までの直行便を使うことだ。
■持続可能なロッジに滞在しよう
グリーンな旅行者であるには、どこに泊まるかもカギになる選択である。ただし、この点については、何らかの下調べが必要だ。
「ホテルの持続可能性の実践は近年、とても進展している。特に国際的なベスト・プラクティス・スタンダード(最優良実践基準)に準拠した認証プログラムを通じての実践がそうだ」とブレイは指摘する。
ブレイの話によると、「Global Sustainable Tourism Council(GSTC=世界持続可能観光協議会)」はホテルやツアーオペレーター(訳注=旅行会社の委託を受けて主に海外旅行の現地手配をする会社)の認証プログラムを認定している。旅行者たちはGSTCのサイトにアクセスすれば「Rainforest Alliance」や「Earth Check」といった認証プログラムのリストを見られる。そして、認証を得ているホテルは通常、それぞれのサイトや営業資料にGSTC認証のロゴを表示している。
しかし、環境に配慮した取り組みが正式に認められていないホテルでも持続可能なケースもあるので、予約を検討しているホテルに事前に問い合わせるべきだ。
「ホリデープロバイダー(観光旅行業者など)に対し、どのような責任ある環境事業方針でのぞんでいるかについて、いつも尋ねること。そうした方針がない業者は(環境に優しいツーリズムに)真剣に取り組んでいないだろうから、あなたは(その業者を使うことを)考え直したいと思うかもしれない」。フランシスは、そう言っている。
責任ある観光事業の方針で注目すべき大切な側面は、廃棄物や水、エネルギーなどに起因する環境、社会、地元経済への影響などだ、とフランシスは指摘している。
■ホストをリスペクトしよう
「他人の家庭を訪問しているのだということを思い出し、ホリデープロバイダーたちを皆同じ存在と受けとめるのではなく、ホスト(接待主)とみなすことで、あなた自身もより責任ある観光客になる」とフランシスは言うのだ。
ブレイは、旅行先では「足跡を残すな」というマントラ(真言)に従うことを提案する。とりわけプラスチックのような固形の廃棄物は環境に重大な影響を及ぼすからだ。
「旅行者たちが再利用可能なバッグやストロー、道具、持ち帰り用の容器などを各自で持って旅をすればゴミを減らせる」とブレイは言う。
旅行者は、訪れた場所に根差したビジネスにお金を使うことを選択することもできる。
「地元産の食材を使った料理を食べるとか、地元でつくられた工芸品を買うといったことでもいい。多くの場合、より持続可能で地元に恩恵をもたらすことを選択する方が、実際、もっと気持ちを豊かにする」とブレイは言っている。
■どんなツアーオペレーターかを知ろう
観光業者によって、環境保護や野生生物の保全、文化遺産への支援、地元出身のガイドの採用などの点でより優れていたり劣っていたりする。一般的には、旅行先のコミュニティーへの支援について透明性がある業者を選択すべきだ。
「多くの業者がとてもよくやっており、カーボンニュートラル(訳注=二酸化炭素の排出量と吸収量が均衡している状態)にさえなっていて、今では地元コミュニティーとどう交流し支援するかについて説明する責任ある観光事業方針を持っている」とブレイは言う。
もし、その観光業者の方針がはっきりしなければ、地元の人を雇っているかとか、他にコミュニティーとどう関わっているかといったことを直接、業者に問いただしてほしい。また、「The International Ecotourism Society(TIES=国際エコツーリズム協会)」のような非営利の支援団体もあり、加盟組織に持続可能な観光事業の実践を求めている。
野生生物ツアーでは、「エサをやったり、触ったり、(その生物の)自然の行動を変えてしまうような振る舞いは決してしてはいけない」とフランシス。「もし、あなたが何らかのこうした振る舞いをするよう(観光業者に)すすめられるようなことがあったら、その業者について報告し、必要とあればソーシャルメディアかレビューサイトで説明を求めることを助言しておきたい」。彼はそう話している。(抄訳)
(Justin Sablich)©2019 The New York Times
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