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5度落ちた、それでもあきらめず 超多国籍の環境で働くカタール航空の日本人CA

私の海外サバイバル 更新日: 公開日:
乗務後の機内で、乗客として搭乗した母・千鶴さん(写真左)と

■私のON

中東のカタール航空で客室乗務員(CA)をしています。CAは1万5000人、国籍は約120に及びます。日本人のCAも200人近くいます。私は8年目で、もうすぐCAをまとめるパーサーに昇進する予定です。チーフパーサーとともに、客室業務全体をまとめる役割です。

これだけ多国籍な社員が集まっているのに、カタール人の女性CAは一人もいません。イスラム教を国教とするカタールでは、女性の日常生活にさまざまな制限がある。女性の乗客から男性の隣には座れないと言われることもあります。カタールで一夫多妻が合法だと知った時は驚きました。こうした風土があわずに社を辞め、カタールを去った同僚も少なくありません。

乗務便が固定されておらず、ほぼ毎回、初対面の同僚たちとチームを組んでの仕事になります。乗客との接し方もそれぞれ。英語のなまりも出身国でまちまちです。CAになりたてだった当初は、パーサーから、自分の意見をしっかり主張するように注意されたこともよくありました。慣れるまでは精神的な疲労が強かったけど、みんな明るいし、職場の雰囲気はいい。今ではとても楽しく仕事ができるようになりました。日々の「実戦」のなかで英語もどんどん上達しました。

2015年、ベスト航空会社の賞をとった記念に

英語教諭の母の影響で、私の自宅では、幼いころから多くの外国人を頻繁にホームステイで受け入れていました。外国人がいることが当たり前だったし、外国人のいる生活風景に違和感を抱くこともなく育ちました。だからこそ、自然に英語を使う仕事がしたいと思うようになったのかもしれません。世界各国の人たちと働きたかったし、知らない世界への好奇心も強かった。そして、CAは母がなりたかった職業でもあります。世界各地に行けるCAの仕事に外資系の企業で就くことが将来の夢となりました。

大学は日本でしたが、その間に豪州の大学に約1年の留学をしました。初めて英語環境で1人で生活をしたのですが、とても大変でした。言葉の壁にぶちあたり、しんどかった。日本では、CAになるため、航空会社の受験に特化した専門機関にも通いました。就活中に受けた航空会社は外資系ばかり十数社。それでも、どこからも内定はもらえませんでした。

一度は、全く別の業種に就職が決まったのですが、やはり夢を捨てきれない。そんな時、大学卒業前の海外旅行の際に乗ったのがカタール航空でした。その便には様々な国籍のCAがいて、すごく楽しそうに仕事をしていました。日本人のCAも乗務していたので、その場で直接、話を聞きに行きました。いきなりの質問だったのに、その方は親切に対応してくれて、勤務内容やドーハでの生活などについて色々と教えてくれました。

社員の国籍が多様で、世界各地への就航路線も多い。ここしかないと決心し、別の仕事に就職した後も、カタール航空にしぼって採用試験を受け続けることにしました。中東の航空会社はすごく人気がありました。多くの人が落とされる最初の段階の書類選考だけで、毎回2万人規模の希望者が履歴書を出すと聞ききました。でも、採用人数は非常に少ないので、とても狭き門なんです。

履歴書では笑顔や立ち姿などの写真がより重要でした。書類選考を通っても、つま先立ちで手を伸ばして212センチの高さに届くことが求められるなど、採用基準も独特です。身長160センチの私にはやっかいでしたが、自宅の壁を使い、床から212センチの高さの所にテープをはり、届くようになるまで毎日ストレッチを続けました。

数カ月ごとに採用試験があったので、落ちては再挑戦し、また落ちては諦めずにトライして、受かったのは6度目です。ようやく合格した時の高揚感は忘れられません。

■私のOFF

月平均で7~10日間の休みがあります。短い休みの日は、寮からタクシーでドーハにあるホテルのカフェに行き、のんびりします。治安はいいですが、女性だけの町歩きは、じろじろと見られます。そうでなくても、日本のように色んなお店が軒を連ねているわけではないので、町歩きを楽しむような場所もないです。

休日にドーハ市内でゆったり、のんびり

ドーハでは、カタール人の女性たちが外を出歩く光景をあまり見たことがありません。服装についての取り決めも厳しいですよね。同じ女性なのに、生まれた国が違うだけで、できることに制限があるなんて、と違和感を抱きました。

まとまった休みがとれると、迷わず旅行です。多くの航空会社と同様に、社員割引があります。フライトに空席がある時だけですが、航空券を普段よりも安い価格で購入できます。フィンランド、ペルー、インドネシア、米国、ドイツ、ポーランド、オーストリア、クロアチア。昨年だけで8回も旅に出ました。2カ月に1回、国外旅行をしていたことになります。この7年間では、旅行した国と仕事で行った国をあわせると、約90カ国にはなると思います。南極を除けば、全ての大陸を制覇しました。航空会社に勤務する強みですね。

社の同僚と旅行したアブダビ(アラブ首長国連邦)で、世界一豪華と言われるシェイク・ザイード・グランド・モスクを訪問。アバヤを着て観光した

海外旅行は1人でも行くし、家族とも行きます。同僚と行くこともありますが、長期となると、なかなか休みがあわない。出身国によって、観光ビザの取得の必要性も異なります。日本のパスポートならビザなしで行くことができる国でも、同僚の出身国のパスポートでは、観光ビザをとらなければいけないことがよくあります。そうなると、なかなか一緒に海外旅行を計画することも難しくなる。多くの国へビザなしで行ける日本のパスポートは、世界最強なんだと実感しています。

カタールは国際的なスポーツ大会の誘致に積極的で、ドーハでは今年9月に世界陸上、2022年にはサッカーのワールドカップも開催予定です。こうした大きな大会のチケットが、ここでは比較的容易に手に入ります。サッカー日本代表の試合を当日手配で観戦したこともあります。日本人選手が出る大会には、よく応援に行きますね。

夕日やドーハの夜景を見られるスポットを散策

多国籍の同僚たちと一緒に働いていると、生まれ育った国や文化、習慣は違ってもみんな同じ人。世界は一つなんだと実感します。いまの仕事には満足しています。何度も挑戦したかいがありました。不安はつきものですが、やりたいことがあるなら、あきらめずにやった方がいいと思いました。特に外資系企業は語学が重要ですが、私の経験則では、英語も慣れです。実際に使う環境に身を置かないと、言葉は上達しない。なんでも飛び込んでやってみて、あとは努力と慣れで、なんとかなるものです。(構成=山本大輔)