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イングランドの半分を、1%未満の人が所有している現実

ニューヨークタイムズ 世界の話題
英イングランド・ボストン近郊の農地では野菜が収穫されていた=2016年3月4日、Andrew Testa/©2019 The New York Times

英イングランド(訳注=グレートブリテン島のスコットランドとウェールズに接した中・南部)では、土地所有権が莫大(ばくだい)な富の源泉となっている。その実態はしかし、中世に戻ったように、大抵は秘密主義的な風土に覆い隠されている。その実相をある研究者が掘り起こした。結果は――。

2019年5月出版の「Who Owns England?(イングランドを所有しているのは誰か?)」。著者は環境問題の活動家で作家のガイ・シュラブソール。ニューヨーク・タイムズ紙が入手した同書の原稿によると、貴族、王室、裕福な投資家を含め、イングランド人口の1%にも満たない人びとがイングランド全土の約半分を所有している。しかもその多くが土地財産を家族の遺産として何世代、何世紀にわたって引き継いでいる。

シュラブソールは、土地所有者の多くを特定し、情報自由法に基づいて公共機関に何度も資料を請求してデータを集めた。そして政府の土地登記所に保管されている2500万件の記録を綿密に調べ上げた。

彼が調べ上げた結果は驚くべきものだった。イングランドには約5600万人が住んでいるが、全土の半分がわずか2万5千人の所有地だった(一部法人を含む)。

実態究明は、経済的不平等という重要な政治問題の核心に帰着した。経済的不平等は、国家の混乱と欧州大陸など多くの地域でポピュリストが台頭する原動力になっている。4月に英紙ガーディアンがシュラブソールの研究結果を初掲載すると、労働党の指導者たちは絶好の機会ととらえ、これまで何年も与党・保守党を批判してきた問題の動かぬ証拠だと主張した。

「私たちの国に根本的な変革は必要ないとは、もはや誰にも言わせてはならない」。労働党党首のジェレミー・コービンは同18日、ガーディアン紙の記事をシェアしてツイッターでそう述べた。

イングランドにおける土地所有の実態を他の先進国と比較するは難しい。他の国々には全国的な土地登記所がないためだ。記録を調べるには、数百人もの地元の登記官を通じて一度に一つずつ閲覧しなければならないし、そもそもすべてが一般に公開されているわけでもない。しかも米国のように、ペーパーカンパニーが中に入って土地所有権を隠せるところもある。

英国の富の不平等は、米国と比べれば小さいが、ドイツやフランス、低地帯諸国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)、スカンディナビア(スウェーデン、ノルウェー、デンマーク)といった国々よりはるかに大きい。おおかたの欧州諸国は、数世紀にわたる戦争や革命で各地に広がっていた貴族の領地を解放してきた。だが、英国は例外だった。

イングランドの「心地よいみどりの大地(訳注=18~19世紀のイギリス詩人ウィリアム・ブレイクの預言詩『ミルトン』の序詩の一節。合唱曲・聖歌『エルサレム』として演奏され、イングランドのラグビーやクリケットの代表は国歌として使用している)」は、大部分が公の記録に残っていないこともあり、所有者は今なお秘密のままだ。

英国政府は、土地の所有権に関する公会計を19世紀までさかのぼって進めている。しかし、イングランドとウェールズを所管する政府の土地登記所によると、イングランドの約15%(そのほとんどは地方部にある)は今も記録されていない。

同土地登記所のウェブサイトには「国王、貴族、教会が所有する土地の多くは登記されていない。なぜなら売却されたことがないからだ。売却すれば必然的に登記されることになり、記録の大きな手掛かりになる」と記されている。

シュラブソールがイングランドの土地所有を調べ始めたのは、英国が欧州連合(EU)からの離脱、いわゆる「ブレグジット」を国民投票にかけた16年の後だった。「もしブレグジットが真の意味で『私たちの国家管理を取り戻す』というなら、いったい誰がこの国を所有しているのか。私は少なくともそれを知りたい」。国民投票から1年後、彼はガーディアン紙のオピニオン面にそう書いた。

イングランドの土地価格は、欧州でも最高レベルで、ここ30年ほど上昇している。シュラブソールの著書は、そのイングランドの土地の所有権を記し、未登記の土地を地図上に示している。そして、所有権が一部に集中すれば、取得可能な土地は少なくなり土地の価格を高めるのに手を貸すことになる、と主張する。

住宅、商店、事務所ビル、学校、それに農場はたいてい長期リースで、継続的に土地の賃貸料が課されている。そして直接あるいは中間借地人を通じて大地主に支払われる。

シュラブソールは出版を機に、土地所有をめぐる話し合いが始まることを期待しており、「イングランドにおける土地改革の必要性についてきちんとした議論を促すはずだ」と語った。

土地問題はイングランドの住宅危機に関係しており、経済的不平等、さらに気候変動や農地の集約的利用にも関係している、とも彼は言った。

「富は所有地にあり」という古典的な考えは、今日では必ずしも真実ではなくなってきている。しかし、英国家統計局のデータによると、英国では2016年現在で、国家の純資産の半分は「土地」が占めていた。これはドイツの2倍、フランス、カナダ、日本といった国々よりも高い割合になっている。

1995年から2017年の間に英国の純資産は3倍以上も膨れ上がった。そもそもの理由は、土地の価値が上昇したためだ。土地以外の資産の価値はそれほど急速には上がらなかった。

「主な経済問題と社会的公正に関わる問題は、過去30~40年間、土地の所有者が経済成長や賃金の上昇をはるかに上回る率で莫大な富を労せずして得てきたことにある」と語ったのはユニバーシティー・カレッジ・ロンドンのイノベーション・公共目的研究所の調査研究部長ジョシュ・ライアン・コリンズ。

彼は「土地所有者は何もしないで莫大な収入を得てきた」と断言した。さらに、農地ですら思惑需要の対象になって価格が上がり、所有者により多くの利益をもたらした、とも明かした。

保守党政権下では土地改革が議題にならなかったにせよ、政府は住宅危機と農業補助金については取り組まざるを得なくなった。最近では、保守党員たちはEUの農業・林業補助金システムに批判を集中させている。EUの農業・林業支援は域内市民の税金で賄われるのに、貴族や王室、裕福な投資家たちが最大の支援を受ける側の一員だ。

ある公共データベースによると、ロンドン北部サンドリンガムにあるエリザベス女王の領地は、17年に69万5千ポンド(1ポンド=145円換算で1億77万5千円)の補助金を受け取っていた。

英国議会では、ブレグジット後に農業補助金を見直す法案が提出されている。これまでは農産物を生産する農地の総面積を元に直接補助金が支払われていたが、法案はこれに代えて、環境への配慮や動物愛護、私有地への一般人の立ち入り許可といった要件をベースに補助金が支払われる、としている。

英環境相のマイケル・ゴーブは、新法案に関する18年の議会討論の席上、「ご存じのように、受益者の多くは英国やEU市民だけでなく、農業用地に投資した外国人も利益を得ている」と述べるとともに「(新法案の目指すのは)単に社会的公正と経済効率の問題であり、私たちはシステムを変える必要がある」と語った。

EUに加盟しているほとんどの国では、同一基準ではないにせよ、集中的な農地所有権の問題に取り組んでいる。欧州議会が17年に出した議員報告書によると、10年現在でわずか3%の農園が域内の農地の半分を管理していた。

スコットランドでは、土地の所有権がさらに少ない人や組織に集中しているが、一連の土地改革法が実施された。04年に封建的な法律を廃止し、土地を長期間借りてきた多くの者がきちんと所有できるよう法的に支援することになった。別の法律では、一般市民でも広大な私有地に立ち入ることができる「散策権」を導入した。

「スコットランドのように他の地域における土地改革の例は、我々に希望を与えるはずだ」とシュラブソールは著書に記した。「土地改革に取り組むべきだ。そうすればやがて住宅危機を解消し、自然を取り戻してもっと平等な社会に向かう長い道を歩んでいける」と。(抄訳)

(Palko Karasz)©2019 The New York Times

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