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切り札は他社の後追い ジョブズなきアップルは大丈夫なのか

Behind the News ニュースの深層
スティーブ・ジョブズ(左)とティム・クック=いずれも尾形聡彦撮影

口ぐせは「サービス」

米アップルが曲がり角にいる。売上高の6~7割を支えるiPhoneの販売高が昨年の歳末商戦で、前年と比べて15%も減ったのだ。創業者であり、カリスマだったスティーブ・ジョブズなきいま、アップルはどこへ向かうのか。

シリコンバレーのほぼ中心に位置するクパティーノ市。その一角の背の高い緑の木々のすき間から見える、流線形が美しい巨大な円形の建物は、アップルの本社「アップル・パーク」だ。

3月25日、敷地内の小高い丘を登っていくと、円柱形の建物「スティーブ・ジョブズ・シアター」が見えてきた。1階のホールは円形の空間だ。何もない丸い場所は、ジョブズが好んだ「禅」を感じさせる。支柱がなく、外側のガラスの壁で屋根を支える構造は、デザインに対するジョブズの執念がいまも息づく。

スティーブ・ジョブズ・シアター=尾形聡彦撮影

この日の朝、地下のシアターで発表を始めたのは、2011年に他界したジョブズにバトンを託された現最高経営責任者(CEO)のティム・クックだった。

「これまでなかったような新しいサービスを作ります」

クックが公表したのは、独自の動画などを配信する動画サービス「アップルTVプラス」。私を含め、会場にいた記者のほぼ全員が予想していたサービスだった。というのも、アップルは前年から、米国の人気司会者オプラ・ウィンフリーや、女優のジェニファー・アニストンらと契約。独自番組を制作しているのは明らかだったからだ。25日は映画監督のスティーブン・スピルバーグらも登壇し、華やかな発表会になった。

「サービス」というのは、最近のクックの口癖だ。同社は1月末にあった10~12月期の決算発表で、決済サービス「アップルペイ」などのサービス事業が前年比19%増になったと強調した。25日の発表会では、有料ニュース配信事業「アップル・ニュース・プラス」を同日から米国でスタートし、今年中に有料ゲーム事業「アップル・アーケード」を始めることも公表。有料サービスを急拡大させるのがクックの狙いなのだ。

iPhone依存の弱さが出た

新サービスに大きな期待を寄せなければならないほど、いまアップルが置かれた状況は厳しい。

苦境があらわになったのは、新年早々の今年1月2日だった。アップルが昨年10~12月期の売上高予想を、前年同期比5%減の840億ドルになる見通しだと予想を下方修正すると、世界の市場に「アップル・ショック」が広がった。10~12月期の実際の決算発表で明らかになったのは、アップルの売上高全体の7割を占めてきた看板商品「iPhone」の販売高が前年比で15%も減った、という衝撃的な内容だった。

アップルは昨年夏、米企業で初めて時価総額1兆ドル(約110兆円)を突破。強さをみせつけていたその半年後に訪れた落差は、大きかった。

iPhoneは創業者のジョブズが07年に発表して以来、右肩上がりで販売を伸ばしてきた。10~12月期で比較すると、07年に2.4億ドルだったiPhoneの販売高は、17年には250倍超の611億ドルに。それが、18年に初めて前年を下回ったのだ。

「iPhone」頼みの、いわば一本足打法のアップルの経営の弱さが露呈し、投資家は懸念を強めている。

だからこそ、クックはいま「サービス事業」に活路を見いだそうとしている。月額利用料を得られ、より安定的な収入が見込めるからだ。ただ、サービス事業はまだ「iPhone事業」の5分の1。上り坂は険しい。

そもそも、動画配信サービスは、ネットフリックスやHulu、アマゾン・プライムの後追いだ。ネットフリックスはすでに全世界で1.39億人の有料会員を抱え、コンテンツ制作力もアカデミー賞で作品賞を狙える域に達している。アップルは今秋に100を超える国や地域でサービスを始めると「予告」しただけで、月額料金など詳細についての発表はなく、疑問が逆に膨らむ内容だった。

そんな発表を見て、私の頭をよぎったのは14年半前のジョブズの姿だった。

04年10月、新型のiPodの発表会で、彼独特の甲高い声が響いていた。楽曲を「iTunes・ミュージック・ストア」でネットを通じて購入できるサービスを始めて1年半が過ぎた頃で、ジョブズは「(ネットの音楽販売市場での)シェアは7割に上る」と断トツの先行ぶりを高らかに宣言し、舞台にU2のボノを登場させた。大物アーティストがネット上での楽曲販売に賛同していることを象徴する狙いがあった。

いまでこそごく普通になった「ネット販売」だが、大手レコード会社は当初、CD販売を通じ長年培ったビジネスモデルを崩されかねない、と強く反対。それを説き伏せたのがジョブズだった。

その日ジョブズは、180センチを超える長身の腰を折り、ボノを丁寧に舞台に迎え入れた。アップルに勤務する友人から、ジョブズの理不尽なまでの剛腕さを聞いていた私は、丁重なジョブズの姿に驚いた。

「ネットで音楽を売る」という新たな市場を切り開いただけでなく、そのビジネスのさらなる拡大を期す彼の凄みを逆に感じたことを、よく覚えている。

その14年余り後、ジョブズなきアップルは、彼の名を冠した劇場で、「ネットで独自の動画を売る」ビジネスに周回遅れで参入することを発表した。

そこには、ネットの音楽販売を開拓したアップルが、動画販売では大きく後塵を拝しているという現実があった。

アップルにはiPhoneなど世界で14億台も使われている機器があり、そのジョブズの「遺産」は、後発の動画配信ビジネスでも大いに有利に働くことだろう。しかし、かつてあった「先見性」と、「後追い」の今の間の落差を感じずにはいられなかった。

■時代を読み解く新連載「ニュースの深層」は、毎月第1火曜日に配信します。

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