韓国で「バーバリー・マン」とは、よく「露出狂」の意味で使われる。英国ブランドのトレンチコートだけを着て、公共の場所で身体を露出する人物のことだ。何がきっかけだったのかわからないが、私が小学生の時代から、周囲でもテレビでもそう呼んでいた。
最近、その「バーバリー・マン」という表現が、ソウル駅で開かれた市民集会で登場して人目を引いた。集会には、韓国政府が新たに実施したインターネット遮断政策に反対する人々が集まっていた。
発端は2月中旬、韓国放送通信委員会の発表した新政策だった。同委は海外の違法インターネットサイト895件を遮断すると発表した。違法賭博、違法わいせつ物を巡る被害や副作用が拡大しており、被害者を救済し、海外の事業者を取り締まるためにも必要だという触れ込みだった。
だが、この発表直後、インターネット空間では、「迂回(うかい)サイトができて、政策が有名無実化する」「インターネットに対する統制、検閲ではないか」といった批判が乱舞した。大統領府ホームページにある国民請願コーナーにも苦情が殺到した。
このため、放送通信委員長が「政策の決定過程で国民と意思疎通する努力に欠けていた」と謝罪したが、市民の怒りは収まらなかった。抗議の一部はインターネット空間にとどまらず、ソウル駅での市民集会などに発展した。
ソウル駅の集会に集まったのは60人余り。「我々はわいせつ映像に夢中になっているわけではない。これ以上、潜在的な性犯罪者扱いをしないでほしい」と主張した。彼らによれば、数枚のヌード画像があるという理由だけで芸術サイトまで遮断されたという。
一方、この集会の周りでは、「盗撮やリベンジポルノの被害にあった女性の気持ちを考えたことがあるのか」と抗議したり、首をかしげたりする女性たちの姿も見られた。
専門家たちの意見を聞いてみると、政策決定を懸念する声が多かったようだ。IT企業に勤務する40代の男性は「話を聞いたとき、ものすごく驚いた。昔の軍事独裁政権に逆行する動きのように感じた」と指摘。「深夜零時以降の外出禁止令を出したり、報道統制によって徹底的に記事の検閲をしたりした行為と変わらない措置だ」と話す。
これに対し、韓国政府は「表現の自由が国政哲学だ」と主張する。だが、特定の「わいせつサイト」「賭博サイト」という「バーバリー・マン」を捕まえるため、「知る権利」「表現の自由」といった「バーバリーコート」そのものを着せないようにすることが、果たして望ましい措置なのだろうか。
すでに、政府が遮断したサイトを閲覧できる「迂回ルート」を見つけるアプリも登場した。「違法サイトから守る盾」と「違法サイトにたどり着く矛」の争いは当面、「矛」の方が優勢な状況が続きそうだ。
論争が続いたことから、政府は「専門家と共に、技術的措置を含むインターネット規制の望ましい方向と適正な水準について徹底的に議論する」と表明した。
政府が表明した「対策のための対策」に期待したい。