1. HOME
  2. World Now
  3. カメレオンのように異文化に適応せよ

カメレオンのように異文化に適応せよ

A European CEO's Challenge フランス人社長 老舗を背負う
武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長=五十嵐大介撮影
Takeda Pharmaceutical CEO Chiristophe Weber

English version: Takeda Trying to Change Japan’s Seniority-Based System

――グローバル人材をどのように育てているのですか?

武田では、ローカル、グローバルの両方の人材開発プログラムがあります。グローバルでは、「プレジデント・フォーラム」というプログラムがあり、毎年、世界中から幹部候補50人程度を集め、私と他の経営陣何人かと1週間を共に過ごします。

そこでは会社の戦略について議論しますが、世界のビジネスについての多くの知識を得ることができます。世界を主戦場にしたい従業員にとっては、こうした機会が与えられます。昨年は42人のうちの30%、12人が日本人でした。

多くの参加者は30、40代で、男女比はほぼ半々です。参加者が5、6人のグループに分かれて戦略を議論し、最後に私たち経営陣の前でプレゼンをします。昨年のフォーラムでは、シャイアーの買収について議論しました。新しい組織をどう作り、どのように統合していくべきなのか。

こうした議論から出たアイデアは、我々経営陣が採用したものもあります。たとえば、シャイアー出身の幹部がトップを務める、世界展開する製品の戦略・立案を担当する部署(ペイシェント・バリュー&プロダクト・ストラテジー=PVPS)ですが、この部署のアイデアはフォーラムの議論で提案されたものでした。

――英語も必要なスキルですか?

私の後任の社長に就く人や、経営陣に加わる人は、英語を話す必要がある。これは以前の武田では明確にされていませんでした。今でも英語は武田の公用語だというわけではありません。ロシアではロシア語を話すし、日本では日本語を話します。

ですが、もしこの会社のトップになりたいならば、英語は必須です。なぜか。武田のエグゼクティブチーム(執行役員クラス)は、11カ国の国籍からなるメンバーで構成されています。私はフランス人ですが、フランス語を話すのは数人だけ。だから、英語をデフォルトの言語とするしかないのです。

――ここまで外国籍の経営陣が多いなら、本社を東京に置いておく必要はないのでは?

私たちの企業はこの地で生まれており、日本にいることに喜びを感じています。だからこそ、この新しい本社ビルに相当な金額を投資しました。

私たちは武田の伝統にとても誇りを持っています。我々が重視する価値観は、日本における武田の歴史と「タケダイズム」に深く結びついています。グローバルリーダーを採用する際、必ず彼らは日本に来て、1週間の「グローバル・インダクション・フォーラム」という研修に参加します。

武田の価値観とは、患者さんにとって正しいことを行い、社会との信頼関係を築き、武田の評価を高め、事業を発展させることです。こうした価値観は、日本の文化ではとても重要視されています。グローバルに事業を展開する製薬企業として、この価値観を維持することはとても良いことだと思います。私たちが意思決定をする際のコンパスのような存在でもあるのです。

――終身雇用や年功序列の賃金制度など、日本の企業文化は他国と比べてユニークです。日本の企業文化の強みと弱みをどうみますか?

私は日本の企業文化の弱みを抑え、強みをより向上したいと考えています。たとえば、忠誠心は重要だと考えています。

私は大学を卒業してから長い年月が経っていますが、武田は私にとって二つ目の勤め先です。私は基本的に忠誠心のある人間だと思っています。調和を大事にしており、他の人との対立することは好きではありません。周りの従業員に聞いて頂ければわかると思いますが、私はとても穏やかな人間です。

それでも、常にコンセンサスが必要だとは考えていません。なぜなら、時としてコンセンサスが得られなくても、意思決定をしなければならない局面があるからです。そういう時こそ、慎重に動かねばなりません。チームの他のメンバーとの議論に多くの時間をかけ、慎重に検討します。

シャイアーの買収を決めた際は、長期間議論を重ねました。「あなたの意見はどうか?」。これだけ大きな決断をする際は、チームの全員の意見を聞きます。これは投票ではありませんが、とても協調的なチームプレーと言えます。

本社ロビーのスクリーンでは、ニューヨーク証券取引所への上場を祝う武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長らの映像が流れていた=五十嵐大介撮影
Takeda CEO Weber and other executives celebrate the company’s listing on the New York Stock Exchange, shown on a wall screen in Takeda headquarters lobby(photo by Igarashi Daisuke)

一方で、年功序列の慣習については、より柔軟なシステムに変えようと試みています。もちろん経験は重要ですが、皆違う人間です。ある人は世界中飛び回れるとしても、別の人は違います。ある人は野心を持っているけど、他の人はそこまでではないかもしれない。ある人は学ぶのがとても速いが、他の人はそうでもないかもしれません。ですから、私は従業員に「自分自身のキャリアを考えて下さい」と伝えています。

日本の多くの企業では、従業員が同じようなスピードで出世しますが、武田は硬直的なシステムにはしたくありません。その考えには、女性の幹部登用にもつなげたいという思いもあるからです。経営陣により多くの女性を登用したいと考えた時、より柔軟なシステムにしておく必要があります。

私たちは従業員の能力を重視しています。もちろん、5年の勤務経験は2年より多くの経験をもたらしますが、勤務年数にはより柔軟でいたいと考えています。ワーク・ライフ・バランスについても同じことが言えます。今は自宅でも働けるし、時間もフレキシブルにできる。実際に多くの従業員がこうした制度を使っています。制度をどうしていくかについて、今も従業員との多くの対話の機会を持っています。

従業員から多くの質問を受けるのが、自分のキャリアを作る制度についてです。従業員は自分のキャリアをどうするか、自分で考えなければなりませんが、従業員がこうしたことを求めるのは比較的新しいことです。

――女性社員の登用で何か取り組んでいることはありますか?

日本では、女性を支援するための「ハナミズキ」と呼ばれるネットワークグループを社内で作りました。より均等な機会が与えられるような環境作りをどうするかなど、このグループは多くの提案をしています。

日本の現実として、多くの女性が男性より家事に多くの時間を割いています。ワーク・ライフ・バランスでより柔軟な労働環境をつくることは、女性にとってとても重要です。女性の従業員に対して、仕事か家庭かという選択肢を迫りたくありません。

女性のなかには、多くの時間働かなくてはならないので、管理職に就くことに消極的な人がいます。日本で新しく管理職になった従業員に私が伝えているのは、管理職に就いたからといって今までの2倍働かなければならないわけではない、ということです。1日は24時間しかありません。働く時間を3倍に増やすことはできず、限界があります。管理職になっても、ワーク・ライフ・バランスを保つことができるんだと認識してもらう必要があります。武田では、新たに任用される管理職の3割を女性にする目標を掲げています。

――日本企業では「休みづらい」という問題もよく言われますが、武田ではどうですか?

休暇については、私が働いてきたオーストラリアや欧州とは大きな違いがあります。もちろん、日本でも個別の企業ごとに状況は違いますが、他の国と日本企業の働き方の違いは、日本の終身雇用制度によるものだと思います。

武田でいえば、日本では管理職が職場のリズムを決めるという特徴があります。上司が朝早く出勤すれば、すべての社員が早く出社する。上司が遅くまで会社に残れば、みんな遅くまで働く。

私が経験した国の文化では、それぞれがより独立性を持っています。上司は遅くまで職場に残れるが、他の人は皆早く家に帰る、という具合です。私たちはこの点は変えようとしています。「それぞれの人が、それぞれ違う生活を営んでいる。毎晩8時まで職場にいたとしても、いい仕事ができるわけではない」と言い聞かせています。

私たちが伝えようとしているのは、「量」だけが唯一の評価基準ではないということです。「質」や従業員の働き方は、生産性の面でも重要です。そして、日本では管理職の役割がとても大きいのです。上司が柔軟でなければ、この慣習を変えるのはとても難しくなります。職場において、今までより従業員の独立性、柔軟性、自由が求められます。

――日本のビジネスマンがグローバルで活躍するためには、どんな能力が必要なのでしょうか?

日本の教育水準はすばらしく、この点について問題はありません。自分が身を置く業界での一定の経験は必要です。武田では経験がない人間を外国に送り込むことはありません。まずは日本で製薬業界の基本を学ぶことになります。

その後は、外国で働きたいという意欲と意思があるかどうかです。スーパーマンやスーパーウーマンである必要はありません。外国で働く環境にあるかどうかも尊重します。日本は私の家族にとって9番目に住んだ国ですが、これは私たち家族にとって大きな決断でした。家族の理解が得られる人と得られない人がおり、その点は私は尊重します。

そして大事なのは、異なる文化に自分を適応させ、違う働き方を学ぶことです。日本、米国など、違う国で働くことはどういうことかを学ぶ。カメレオンのように、色を変えていくのです。自分が行く土地に、自分自身を合わせる必要があります。

English version: Takeda Trying to Change Japan’s Seniority-Based System

(次回は、アイルランドの製薬大手シャイアーとの買収について聞きます。3月配信予定です)