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武田薬品ウェバー社長「若者よ、起業初日からグローバルで戦え」

A European CEO's Challenge フランス人社長 老舗を背負う
武田薬品工業のクリストフ・ウェバー社長=五十嵐大介撮影
Chiristophe Weber, CEO, Takeda Pharmaceutical

English version: Japanese startups should go global from Day One

世界への関心減った日本の若者、懸念

――グローバル市場で生き残るため、日本企業に必要なことは何でしょうか?

私はいつも、枠にはまった(one-size-fits-all)答えはしないようにしています。武田の経営陣は、11の国籍を持つメンバーで構成されており、主に米国、日本、スイスのチューリヒを拠点にしています。私にとって、グローバル化というのは、この状況から考えます。自社の状況を反映したグローバルチームになっているか。武田の従業員は9割が日本の外におり、そういう意味ではグローバルな経営陣を持つのは自然なことです。

――日本の教育についてはどうお考えですか?

私は日本の教育システムはとても気に入っています。もちろん完璧ではないものの、素晴らしい制度です。日本人の知識水準はとても高く、大学制度もいいと思います。AIが社会のすべての領域に影響を与える21世紀を考えた時、数学とコンピューターエンジニアリングは極めて重要になります。さらには、英語などの外国語のスキルを身につけ、世界で相互に意思疎通できる能力も大事です。この分野では日本は少し後れを取っています。

私が少し懸念しているのは、外国で教育を受けた日本の学生数が、過去20年ほどで半減していることです。過去に比べて、世界への関心が減っており、これは良い傾向ではありません。

――日本では少子高齢化も大きな問題です。

この状況を改善するには、子どもを産みたいと考える女性の生活をよりしやすくするための政策が必要になります。欧州でそうしたことに成功している国では、子どもを持つ女性や家族に対して、保育などでかなりの支援をしています。これはもちろん企業も含めてです。

我々が慎重にならなければならないのは、子どもを持つことが、女性のキャリア構築にネガティブな影響を与え得るということです。従業員とのタウンホールミーティングで私が話すのは、産休中の女性も昇進すべきだということ。「そんなことがどうしてできるのか」と言われますが、産休で昇進の機会が失われるのなら、いつ昇進できるかわからなくなります。

「グローバル化批判」にこたえる

――世界ではグローバル化や多国籍の大企業への批判が広がっています。この状況をどうお考えですか?

このような状況だからこそ、社会全体でどんな貢献ができるかという目的を持つことが大切です。企業の役割とは何かという問いに対して、全体的なアプローチが重要です。当社の場合、人々の命を守るため、人々が支払える価格で新薬を提供する必要があります。良い仕事と労働環境を提供し、税金を払い、良好な株主還元をもたらす。こうした全体的な取り組みを通じて、大企業と社会は協調できると思います。

――批判への懸念は高まっていますか?

我々はすでに、多くの分野で社会に対する貢献を再考すべきフェーズにあります。米国では、多くの企業がルールとして社会貢献に取り組んでいます。複数のステークホルダーに貢献するという取り組みは、大企業の間で広がっています。

グローバル化への反発も問題ではあるものの、そこまで大きくはないでしょう。我々はグローバル企業であり、グローバル化が人類にもたらした恩恵を過小評価すべきではないと思います。グローバル化には良い面と悪い面があります。問題は、マイナス面ばかりが議論され、プラス面を忘れていること。そのバランスを再び取ることが重要です。

特に我々の業界でいえば、患者さんに関するデータが膨大に増えています。このデータがうまく管理され、有効に活用されれば、新薬の開発やより良い治療法を見いだすなど、多くの恩恵を受けることができます。しかし、患者さんのデータプライバシーの扱い次第では、わずかの失敗で大きな反発を招くことになる。これはグローバル化に似ています。プラス面がありながら、マイナス面をうまく管理できなければ、反発にあう。医療データも同じことが起き得ます。

武田薬品工業の「武田グローバル本社」
The Global Headquarters of The Takeda Pharmaceutical

データで健康を管理する時代に

――今後10、20年後、製薬業界はどうなるでしょうか。

薬は残るでしょうが、これらは特定の病気に極めてターゲットされたものになります。そして、患者さんのモニタリングがとても大きなものになるでしょう。今では、病気になれば医師のところに行き、薬をもらい、そこで自分の病気について知る。ですが、これからは、患者さんや医師が状況をモニターする能力が指数関数的に高まると思います。

皮膚の下など、あらゆるところにデジタル医療機器が埋め込まれていく。健康状態について、リアルタイムで把握し、適切な治療を施し、医療システム全体のコスト削減にもつながるでしょう。もちろん、遺伝子治療などの新しいテクノロジーも増えますが、何よりも今後10年では、患者さんのモニタリングは全く違う惑星のような域に達すると思います。だからこそこうしたデータに関する倫理や価値が重要になり、データへのアクセスがしっかりと管理される必要があります。それができなければ、こうした進化は起きないでしょう。

――自動車と同様、新たなテクノロジーが薬の需要を減らすと?

病気の管理を最適化し、コスト削減につなげる。この流れに我々の選択の余地はありません。多くの国で医療システムはとてつもない財政的苦境にあり、そのコストを最適化する道筋を探す必要があります。

遅れたら負け すぐ世界で戦う自信を

――日本のビジネスパーソンへのメッセージはありますか?

イノベーションは極めて重要な要素で、成功のカギを握ります。さきほど述べた通り、日本の教育水準はとても高く、多くの優位点がある。日本からイノベーションが出てこない理由はありません。

今日の世界では、イノベーションを起こし、急速にグローバル化を進めた者が成功します。そこに日本の課題があります。過去20年間、日本企業のグローバル化はとても緩やかだった。まずは自国市場で製品を開発してうまくいったら、その10年後に外国向けの開発を始めるという手法でした。

しかし、今のスタートアップ企業やバイオテック企業は、起業した初日からグローバルで戦っています。何かを発明したら、すぐにグローバル化させる。それによって規模が与えられる。この点が私はカギを握ると思います。何かイノベーションを起こしたら、すぐにグローバル化させる、そうした自信を持つ必要があります。どんなに良いイノベーションを起こしても、遅過ぎれば競合に負けます。

東京都中央区の新社屋会議室で=五十嵐大介撮影
President Weber poses in a meeting room at the Global Headquarters building in Tokyo.

――ご家族は日本になじみましたか?

私たちはほぼ6年日本に住んでおり、生活を楽しんでいます。妻はこの3年間、毎日2時間の日本語レッスンを受けており、日本語がとてもうまくなりました。17歳の息子、21歳の娘はいま米国にいますが、息子は日本に4年住み、日本語がとても上手です。

――スキーが趣味だそうですね。

私はフランスの山の中で育ち、スキーは40年続けていますが、いまも毎年数日は日本でスキーに行くようにしています。出張がない、天気が良いなど、多くの条件がありますが、富士山の山頂からのスキーも毎年行くようにしています。すでに3回滑りましたが、これが体重を増やさないようにする秘訣です。(おわり)