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隣の中国に、熱い視線と警戒感と カザフスタン、相反する思い

World Now 更新日: 公開日:
カザフ国立大学で中国語を学ぶ学生たち=アルマトイ

中央アジアのカザフスタンでは、「一帯一路」構想を掲げて経済的な存在感を増す隣国・中国に対する脅威論が強まっている。近年、「土地を奪われるかもしれない」といった懸念から、中国や中国人へ反感を示す動きが相次いでいる。(中野渉、写真も)

2018年6月、カザフ人女性と中国人男性がアルマトイ郊外のレストランで結婚式を挙げようとした際、招待状がSNSに流出し、会場に出向いて式を阻止しようと呼びかける声がネット上で広がった。騒動になることを恐れたレストランは式を中止。街の他のすべてのレストランも拒否したため、新郎の父親が経営する会社の倉庫で式が行われたという。

人口約1800万人のカザフスタンで、年々増える中国人労働者の姿が懸念に拍車をかけている。

中国への警戒感は、2016年ごろにはすでに広がっていた。同年5月、土地法改正の動きを「中国人に土地を売る売国行為」と解釈した人たちが全国各地で抗議デモを開いた。

「土地は我々カザフ人のもの。中国人に売ってはいけない」。当時、最大都市アルマトイでのデモを呼びかけた反政府活動家のルスベク・サルセンバイ(67)はそう語気を強めた。

2016年に中国を巡るアルマトイのデモを呼びかけたルスベク・サルセンバイ

フェイスブックを通じて、アルマトイ中心部の独立記念碑周辺に集まるよう呼びかけた。賛同した約800人が市の中心部をめざして歩いたが、政権は会場の広場周辺を封鎖してデモの規模を抑え込んだ。そしてルスベクは、「うその情報を流してパニックをひき起こした」として警察に逮捕された。

法改正は、外国人にも土地を貸せるようにするためのものだったが、抗議デモの動きなどを受けてか、ナザルバエフ大統領(78)は法改正を凍結した。

カザフスタン・アルマトイの独立記念碑

自身を「愛国者」と呼ぶルスベクはかつて国営新聞社に勤めていた。次第に政権に批判的な姿勢を示すようになったことを見とがめられて解雇され、民間の新聞社に移った。「人々が自由に集会を開いて発言できる権利を求めている」。カザフスタンに入った中国人が違法に国内にとどまることや、カザフ女性と結婚したらカザフ国籍をもらえることも気になると説明した。

ウイグル問題もカザフスタンの人々の対中警戒につながっている。

中国は近年、カザフスタンも接する西部の新疆ウイグル自治区でイスラム教徒への締め付けを強めている。自治区に住むカザフ人だけでなく、自治区からカザフスタンに移り住んで国籍を得た人までが中国に戻った際に拘束され、「再教育施設」に入れられると言われている。こうした不安はカザフスタンだけでなく中央アジア各国に影を落としている。

■中国語学習熱は高まる

その一方で、経済的な関係が深まる中国の言葉を学ぼうとする熱は高まっている。中国が世界に展開する中国語などの教育機関「孔子学院」は07年以降、カザフスタンに4校開かれ、17年には5校目がアルマトイにできた。中国は、優秀なカザフスタン学生に奨学金を出し、中国に留学する機会を与えている。

カザフ国立大学の中国語講師で中国の対外言語政策が専門のケリンバエフ・エルジャン(49)は「経済大国となって世界的に注目されている中国の言葉を学ぼうとする人は増えている。そして、本音の部分では、中国語ができれば仕事を見つけやすくなり、稼ぐ機会が増えるという期待があるのだろう」と語る。

この大学の中国語学科には、カザフスタンと中国のと関係を示す展示があり、ナザルバエフと中国国家主席の習近平が握手する写真がその中にあった。

カザフ国立大学の中国語講師ケリンバエフ・エルジャン。中国語学科には、ナザルバエフ大統領と中国の習近平国家主席が握手を交わす写真が=アルマトイ

中国語学科4年生のジアナ(21)は以前、中国浙江省の大学に留学した経験がある。「中国の文化や芸術などに憧れて学び始めた。でも留学して中国の対外経済政策を知ってみると恐怖感も出てきた。いまはグローバルな時代。カザフは中国とうまく付き合うべきだ」と話した。

政治評論家のドスム・サトパエフ(44)は「中国は、過度に流入して反発を招くと地域の流動化につながりかねないと、気を付けている」と指摘。「中央アジアは新疆ウイグル自治区やアフガニスタンと接していることもあり、中国はこの地域の不安定化を望んでいないはずだ。中国からの投資は歓迎すべきだが、頼り過ぎるのは危険で、適度な距離感を保つことが重要だ」と分析する。