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不安定な政治、くすぶる王政復古論 イタリア王家の末裔に心中を聞いた

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アメデオ・ディ・サボイア・アオスタ氏=伊中部カスティリオン・フィボッキ、河原田慎一撮影

イタリア中部トスカーナの田園地帯にある屋敷で、アメデオ・ディ・サボイア・アオスタ(75)は妻と2人、静かに暮らしていた。欧州きっての名家サボイア家につらなる。第2次大戦後、共和制となったイタリアで、王位継承権を主張する旧王族の一人だ。

最後のイタリア国王ウンベルト2世の遠縁にあたる。今は植物の種の保存を研究する財団の総裁をつとめる。共和国憲法を持つイタリアで、自らが王位に就く可能性は「ない」としつつ、息子アイモーネ(51)には帝王教育を授けてきた。「王室は常に国民に愛されてきたし、私も子どもの頃から王になるための厳しい教育を受けた。息子が国王になる可能性はあると思う」

ナポリの旧王宮にある「玉座の間」。現在は博物館になっている=河原田慎一撮影

アイモーネはタイヤ大手ピレリの役員を務め、現在はモスクワに住む。可能なら王位につく気持ちはあるのか。「サボイア家はイタリア国家の創立に多大な貢献をしてきた。国民が君主制の復活を求めれば、条件なく国のために尽くす」とメールで回答してきた。意欲がなくはないようにも読める。

イタリアでは、君主制復活を目指す団体「イタリア君主制連合(UMI)」が存在する。会員は公称7万。歴史的に君主制の支持者は南部に多かったが、会長のアレッサンドロ・サッキは「中部にもじわじわ広がっている」と話す。

イタリア王国の旗の前に立つ「イタリア君主制連合」のアレッサンドロ・サッキ氏=ナポリ、河原田慎一撮影

王政復古論がくすぶるのは、イタリア政治が安定しないことも一因だ。最近でも、昨年3月の総選挙後、3カ月にわたって政治空白が続いた。「国王は社会の安定を保障する。英国やオランダなど、民主主義が機能している国は君主とともにある」とサッキはいう。「いまの政治は災難だ。50年もしないで君主制に戻るかもしれない」

とはいえ旧王族たちも一枚岩ではない。サボイア家の中でも、アメデオと元皇太子ビットリオ・エマヌエーレの間で王位継承権をめぐる争いがあるのだ。アメデオは、元皇太子が結婚する際に父ウンベルト2世の許可を得ていないので、王位を継承できないと主張している。一方、元皇太子は、アメデオが「サボイア家」を名乗ることの禁止を求めて提訴し、いまも係争中だ。

元皇太子には息子のエマヌエーレ・フィリベルトがいる。「王子」ともよばれるが、2009年の欧州議会選挙に立候補して落選した。