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未知の超熟成バーボンに挑む ケンタッキー名門醸造所の挑戦

ニューヨークタイムズ 世界の話題
倉庫Pの保管庫にあるたるの栓を木づちではずすマーク・ブラウン。この蒸留所を所有する会社のCEOだ=Buffalo Trace Distillery via The New York Times/©2018 The New York Times
倉庫Pの保管庫にあるたるの栓を木づちではずすマーク・ブラウン。この蒸留所を所有する会社のCEOだ=Buffalo Trace Distillery via The New York Times/©2018 The New York Times

バーボンには今、破竹の勢いがある。質の高さで世界的にも知られる典型的な米国産ウイスキー。需要に供給が追いつかず、価格は上がり続けている。それでも、勝てないものが一つある。熟成年数だ。

主産地のケンタッキー州で造られた名酒のほとんどは、熟成4~12年。寝かせたウイスキーが、この期間に最もうまくなると蒸留元も評論家も考えている。それ以上になると、たるの木の臭いが鼻につくようになってしまうと言う。夏の厳しい暑さ。内側を焦がした新しいオークのたるを使わねばならないという米連邦法の定め――こうした要因が、大きく作用しているようだ。

しかし、愛飲家からは、もっと熟成したバーボンがあれば、金に糸目はつけないという声も聞かれるようになった。これに応えようとしているのが、ケンタッキー州都フランクフォートの都市圏にある名門蒸留所バファロートレース(Buffalo Trace)だ。W.L.ウェラーやブラントンなどの一流ラベルを数多く出している。

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米ケンタッキー州にある蒸留所バファロートレースの倉庫P=2018年10月23日、Aaron Borton/©2018 The New York Times。中には、50年後に売り出すバーボンウイスキーなどの超熟成ものが寝かされている

ここでは熟成年数の長いラベルも、すでにわずかながら造っている。20~23年もののパピーバンウィンクルなどだが、どれも滅多に手に入らない。そんな人気を背景に、さらに上を行く35~50年ものを開発しようという野心的な計画が進められている。

「古いほどよく、一流品になると消費者は考えている」とこの蒸留所を経営するサゼラック社(Sazerac Co.)の最高経営責任者マーク・ブラウンは語る。「われわれも、米国産のウイスキーがスコッチと同じ土俵で戦えるようにしたい。それには、熟成年数の問題をなんとかせねばならない。ただし、自然に任せたままでは解決できないというハードルがある」

では、どうするか。その答えが、「倉庫P」だ。自然は制御され、内部の保管庫は温度を厳しく管理している。そこに並ぶたるの中には、中身が日の目を見るのは早くて2068年というものもある。

バーボンの産地とはいえ、空調が整った倉庫はわずかしかない。レンガ造りの倉庫Pの保管庫は、温度が常にカ氏45度(セ氏7.2度)に保たれており、まるで大きな肉の保冷庫のようだ。「基本的には冷凍技術と同じだ」とバファロートレースの蒸留主任ハーレン・ウィートリーは説明する。

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超熟成もののバーボンなどのたるが並ぶ倉庫Pの保管庫。ドアは頑丈な金属製で、まるで金庫室のようだ=2018年10月23日、Aaron Borton/©2018 The New York Times

低温で保管するのは、熟成が進む速さを抑えるためだ。そうすれば、熟成過多のあの木の臭いがつかず、フルーティーな風味が増すと見られている。ただし、結果はふたを開けてみるまで分からない。ブラウンもウィートリーも、未知の領域にいることを率直に認める。

「今日ここに入れて、35年から50年も放っておくのだから、とてつもない大ばくちさ」

ブラウンは、保管庫内にある200本ほどのたるの一つを、頼んだぞと言わんばかりに手でたたいてみせた。中には1993年産が入っており、130万ドル相当になるとブラウンははじく(庫内に並ぶたるには、この2年間に蒸留したもののほか、実験用に寝かせた何種類ものもっと古いバーボンが入っている)。

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1993年もののバーボンが入ったたる=2018年10月23日、Aaron Borton/©2018 The New York Times

自然の環境とは違う寒さに、中身はどう反応するだろうか。「悪ければ、地獄だ。1年後に試してみて、全損扱いで処理せねばならないことだってありうる」とブラウンは肩をすくめた。

そんな地獄を避けるため、ここでは熟成の進み具合を定期的に調べている。倉庫Pと、通常の倉庫で寝かせている、同じような年代のたるの中身とを比べての分析が続く。

倉庫Pの製品は、希少蒸留酒専門の蒸留所ラスト・ドロップ(Last Drop)との協働作業で造られている。スコッチウイスキー界の大ベテラン、ジェームズ・エスピーとトム・ジャゴら3人によって2008年に設立され(訳注=英スコッチウイスキー協会加盟)、現在はそれぞれの娘であるビーニー・エスピーとレベッカ・ジャゴが経営している。世界中の優れた蒸留酒をくまなく探し、「ラスト・ドロップ」の名でビンに詰めて愛飲家に売っている(スコッチとコニャックが多い)。

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バファロートレースとラスト・ドロップの両蒸留所が一緒に造った超熟成バーボンの第1作。1982年の仕込みで、1本4千ドル=Handout via The New York Times/©2018 The New York Times

米国のウイスキーにも手を広げようとしたが、壁にぶつかった。飲むに値するような50年もののバーボンなんて存在しなかったからだ。

逆に、2016年になって、サゼラックがラスト・ドロップを買収した。希少な蒸留酒を見つけるのを支援するためだけではなかった。バーボンやライ麦を主原料とするライウイスキー、ラム酒などを寝かせる技術を開発する狙いがあった(ラスト・ドロップ自体は、自立した親族経営のもとで存続している)。

その超熟成もの。バファロートレースとしては、50年後の2068年を待つことになる。一方で、ラスト・ドロップを干上がらせるわけにはいかない。

そこで、最初に実った合作が、最近ビン詰めされたバーボンだ。もとになったのは、1982年(当時のバファロートレースの名称は「ジョージT.スタッグ(George T. Stagg)」)に仕込まれたものだった。20年後にたるからステンレス製のタンクに移されていたが、とれたボトルはわずか44本。1本の価格は4千ドルで、25本が米国内向けに出荷されることになった。

今度は、さらに長い冒険の旅になる。造る方も、じっくりと構えるしかない。酒のできばえだけではない。どんな人が買ってくれるのだろうか。先の蒸留主任ウィートリーには、さまざまな思いがめぐる。

「50年後に、ウイスキーがまだ飲まれていればよいが」。そんなことすら、頭をよぎる。(抄訳)

(Robert Simonson)©2018 The New York Times

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