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目先の損得で動くトランプ大統領 その視界にアフリカはない

アフリカ@世界 更新日: 公開日:
ホワイトハウスでナイジェリアのブハリ大統領(左)との共同会見に臨んだトランプ大統領=2018年5月、ランハム裕子撮影

基礎知識が感じられないツイート

トランプ米大統領は822日、南アフリカのラマポーザ大統領が土地改革を進める方針を示したことについて、「南アの土地・農地収用と大規模な農家殺害について調査するようポンペオ国務長官に指示した」とツイートした。

ツイートの内容から思うに、恐らくトランプ氏は、南アのアパルトヘイト(人種隔離)の歴史に関する基礎知識をほとんど持たない状態で、南アで1990年代に散発的に発生した白人農場主に対する襲撃事件を念頭に発言したのだろう。

しかし、これらの襲撃事件は犯罪集団の手によるものであって、当たり前のことだが南ア政府が企画したわけではない。ラマポーザ大統領の土地改革は、アパルトヘイト時代に白人に土地を取り上げられた黒人への土地再配分を目指す構想であり、高度な政治判断の末に打ち出されたものだ。南ア政府が「国家の分断をもくろみ、植民地の過去を想起させる偏狭な認識を断固拒否する」として、トランプ発言に猛反発したことは言うまでもない。

南アフリカのラマポーザ大統領=2018年2月、ロイター

既に多くの識者が指摘してきたが、トランプ氏は長期的な利益よりも、短期的な利益を優先する傾向がある。口を開けば「米国を再び偉大にする」とは言うものの、実際には米国の国益を中長期的に最大化しようという戦略的発想はなく、究極的には私的関心(再選に向けた支持率の向上、自らのプライドの維持など)を満たすことにしか関心がないように見える。

政治指導者は多かれ少なかれ似たようなものかもしれないが、普通はもう少し国益と私的関心を重複させようと腐心しながら発言し、政策を設計する。だが、彼にはその意思はなく、どうやらその能力もあるようには見えない。トランプ氏のアフリカに関する無知や無関心ぶりを観察していると、この人物のそうした特質がよく分かる。 

「なぜ我々が面倒を見なければ」

筆者が知る限り、トランプ氏が201611月の大統領選前に、アフリカについて何か発言したことは一度もなかった。21世紀に入ってアフリカ経済が成長軌道に乗ったとはいえ、サブサハラ・アフリカ49カ国のGDP(国内総生産)総額が世界のGDPに占める割合は2%程度に過ぎない。いくら米国が覇権国家だとはいえ、大統領選の過程で候補者が対アフリカ政策について何も言及しないこと自体は当然とも言える。

しかし、米国では、アフリカのような地味な外交テーマであっても、大統領の就任前後の時点で、政権移行チームやブレーンたちが基本政策の立案や情報収集に着手する。トランプ政権の移行チームも政権発足直前に、対アフリカ政策について国務省に質問するための文書を作成しており、20171月の政権発足時にニューヨーク・タイムズがこの文書を入手して報道した。

その内容を見ると、トランプ氏の側近たちに、様々な問題を短期的な損得で判断する傾向が強いことがよく分かる。トランプ氏の周りには、本人同様に米国の国益を極めて狭い範囲で解釈する人々が集まっていたというほかない。

例えば、ブッシュ・ジュニア政権が導入したアフリカでエイズ(後天性免疫不全症候群)と闘うための「大統領緊急エイズ援助計画(PEPFAR)」と称する資金拠出プログラムについて、トランプ政権の移行チームは次のように記していた。

「アフリカに数多くの安全保障上の懸念が存在する中で、PEPFARは多額の投資を実施するに値するものなのか」

大統領緊急エイズ援助計画(PEPFAR)の活動を視察する米国のゴデック駐ケニア大使(写真左)=ロイター

また、ウガンダ北部で誕生したテロ組織である「神の抵抗軍(LRA)」の指導者ジョゼフ・コニー容疑者の逮捕に向けて、オバマ前政権時代にアフリカに米特殊部隊が派遣されたことについては、次のように記していた。

「何年もコニーを拘束しようとしているが、努力するに値することなのか。(中略)なぜ我々が面倒を見なければならないのか。莫大な金を支出するに値するのか」

 

それから1年後の今年111日。ホワイトハウスで移民制度について議員らと懇談した際にトランプ氏は、「くそったれ国家(shithole countries)から、なぜ多くの人がここに来るのか」などと発言し、アフリカ諸国やカリブ海の島国ハイチから来るアフリカ系移民の多さに不満を示したという。この発言が伝えられると、在ニューヨークのアフリカ54カ国の国連大使が謝罪を求める共同声明を発表する騒ぎになった。

共同通信によると、430日に、トランプ氏の大統領就任後、サブサハラ・アフリカの首脳として初めて訪米したナイジェリアのブハリ大統領は、トランプ氏との会談後の共同記者会見で、1月の「侮辱発言」への見解を問われ、困惑した様子で「私にとって最善の方法は黙っていることだ」と語った。だが、その傍らでトランプ氏は「アフリカの一部の国は状態が悪く、住むのは厳しい」と平然と開き直った。もはや中長期的視野や戦略的思考の欠如どころではない低レベルの発言というほかない。 

ホワイトハウスでナイジェリアのブハリ大統領(左)との共同会見に臨んだトランプ大統領=2018年5月、ランハム裕子撮影

地味な分野こそ、視野が試される

トランプ政権発足後、政権に対する初の全国レベルでの審判となる中間選挙(116日)まで2カ月を切った米国で、トランプ氏の無能ぶりや人格的欠陥を暴露する出版と寄稿が相次いでいることは周知の通りである。

一つは、かつてニクソン米大統領をウォーターゲート事件の報道で辞任に追い込んだ米紙ワシントン・ポストの伝説の記者、ボブ・ウッドワード氏がトランプ政権の内幕を描いた「FEAR(恐怖)」。同書によれば、政権の要であるケリー大統領首席補佐官は「我々はクレージータウンの中にいる」と嘆息し、マティス国防長官は「大統領は小学56年の理解力しかない」と、トランプ氏の愚かさに絶望したという。

ボブ・ウッドワード氏の著書「FEAR」(Sonny Figueroa/The New York Times)

もう一つは、米紙ニューヨーク・タイムズが掲載した政権高官の匿名寄稿文。自らをキャリア官僚ではなく政治任用だと主張する高官は「問題の根源は大統領の道徳の欠如だ。トランプ氏には決断のための指針となる原則が何もないことを、一緒に働いたことのある誰もが知っている」とトランプ氏を痛烈に批判した。

モノ、カネ、ヒト、情報が短時間で世界を巡る今日、国家が自国の安全と繁栄を担保するには、眼前の危機に反射的に対応するだけでは不十分である。国際情勢を中長期的かつ構造的に認識し、自国の安全と繁栄の基盤となる様々な要素を国際社会に何らかの形で埋め込んでおくしかない。アフリカの破綻国家の再生を支援し、テロと戦い、感染症対策に取り組むことが重要なのは、それが最終的には巡り巡って自国の安全にもつながるからである。

つまり、対アフリカ政策は、地味で目立たない分野であるからこそ、指導者が自国の国益を中長期的視野で構想できるかを試す。アフリカのような、自分たちの日常とは一見無縁に見える地域との関係を戦略的に考察できる人物であれば、自国と密接な関係にある他の重要な国・地域との関係を、当然のように戦略的に構想できるだろう。

政権発足後の18ケ月を見る限り、トランプ氏にはこうした戦略的思考は全く期待できない。だが、それでもトランプ氏の支持率は3割台~4割台で推移している。

果たして米国社会で高い信頼を獲得している名物記者ウッドワード氏が大統領の愚かさを明らかにした本は、中間選挙の結果と政権の行方に影響を与えるだろうか。これまで出版された数々の「暴露本」や政権批判の報道も、結局、トランプ氏の支持率に大きなダメージを与えることはなかった。トランプ氏の無能さや人格的欠陥が強調されるほど、それをエリートや既成権力による「陰謀」と解釈し、逆にトランプ氏への支持を強める人々が今の米国には、いや日本を含む世界各地にいるのだろう。

 

■白戸圭一さんの「アフリカ@世界」は今回で終わり、来月から白戸さんの新連載「アフリカの地図を手に」が始まります。アフリカ研究を続けながら大学で国際ジャーナリズム論を教える筆者の視点で、国際情勢と日本社会に関する様々なテーマを取り上げていきます。