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特色ある私立高校 きめ細かな指導 気になる費用は……

バイリンガルの作り方~移民社会・豪州より~
11年生のノンネイティブ向けの英語の授業は生徒はわずか3人。マクシン・ウィーラン教諭が教える=小暮哲夫撮影
11年生のノンネイティブ向けの英語の授業は生徒はわずか3人。マクシン・ウィーラン教諭が教える=小暮哲夫撮影

シドニー中西部のサマーヒル地区。トリニティ・グラマー・スクールは創立から105年の伝統を持つ私立男子校だ。緑の芝生のラグビー場が二つもある広々としたキャンパスでは、7~12年生(日本の中高生)の1340人が学んでいる。11年生のノンネイティブ向けの英語(同校ではESL=第2言語としての英語=と呼ぶ)の教室にやってきたのは、わずか3人だった。

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広々とした校庭。ラグビーフィールドが2面あった=小暮哲夫撮影

「今日は明日のプレゼンテーションを前に、何が必要かを確認していきますよ」とマクシン・ウィーラン教諭が切り出した。

「テーマは何ですか?」「文化のアイデンティティです」
「私たちは2種類のテキストを使って準備してきましたね、何ですか」「詩と画像です」
「最初のスライドは導入ですから、聞き手を引き込むようなものがいいですね。興味を抱かせたり、刺激したりする画像などを使ってみましょう」

この日は、週5時間あるESLの授業で、9週間続けてきたこの学期の授業の最終盤。教室にいきなり入ってやりとりを見ていても、なかなか内容がのみ込めない。

ウィーラー教諭が補足して記者に説明してくれた内容によると…………。
この学期では、豪州の文化のアイデンティティとは、というテーマで詩や画像を題材にして、その解釈などを学んできた。その素材を使ってプレゼンの資料を作り、発表することが、期末の課題になる。たとえば、プレゼンで詩を取り上げる際には、alliteration(頭韻) 、allusion(引喩), metaphor(隠喩) といった表現手法の専門用語も駆使しないといけない。この日の授業は、実際にプレゼンをする学期最後の授業の前日に、発表内容を確認するためにあてられていた。

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発表のテーマは豪州の文化のアンデンティティ。教室には授業で使ったイメージが張られていた=小暮哲夫撮影

学期ごとにテーマや、進め方は違う。日々の勉強や生活、考えていることなどをビデオカメラに向かって話して編集する「ビデオ日記」の作成をテーマにする学期もあるという。

ケルビン・シャさん(16)は中国・大連出身。ここで学び初めて1年半になり、学校の寮で暮らす。中国で3年間、インターナショナルスクールに通っていたが、「こちらで課せられる勉強に比べると、インターで学んでいたときの方がかなり楽でした」と話した。

入学には国際英語テストの基準も

ビザなどの要件を満たせば、外国人でも、いつでも英語集中校(IEC)から勉強をスタートできる公立中高とは違い、私立のトリニティ校では、入学前に一定の英語力を求める。読み書き、リスニング、スピーキングのテストをするほか、国際的な英語テストのひとつ「IELTS(アイエルツ)」のスコアなら、10年生までは5、11年生以上は5.5(1~9で評価されるスコアで、大学入学には6以上が必要なところが一般的)を基準にする。

これらをクリアして入学しても、授業についていき、課題をこなすのは大変だという。豪州の中高では、学んだ内容をもとに自分の考えをアカデミックにまとめさせる課題やテストで、成績を評価することが多い。とくに卒業を直前に控えた11、12年生は、その要素が強まる。学ぶ内容や求められる課題がますます高度になり、それぞれの科目の専門用語、言い回しを英語で理解し、使わないといけなくなる。ノンネイティブの生徒たちには大きな壁だ。ESLを学ぶ7~12年生は現在、1350人中28人。1学年に数人ずつの外国人の生徒たちをきめ細かく支援する。

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この日の授業では、マクシン・ウィーラン教諭が生徒たちに、発表で盛り込むべき内容をチェックしていた=小暮哲夫撮影

各科目の教員たちは、授業に応じて専門用語の「語彙リスト」の作成が奨励されている。事前に渡して予習をさせておけば、留学生たちが「何を話しているのかさっぱり」ということは避けられる。文化や歴史面での背景説明の充実も求められている。

留学生たち向けには、昼休みや放課後、生徒によっては選択科目の授業がない日中の空き時間を活用して、図書館の勉強室などでウィーラー教諭らESLが専門の教員2人が個別に支援する。「先週は、ある生徒の物理の課題をかなり深く手伝いました。全く私の専門ではないのですけれど。その内容というより、言葉使いや表現で協力しました」
放課後に留学生同士で交流し、リラックスしてもらう時間にあてることもある。「ときにはみんなでカラオケをすることもありますよ」(ウィーラー教諭)

充実の施設 学費は公立の3倍

同校の特徴は、課外活動が盛んなこと。ラグビー、水泳、陸上などのスポーツのほか、オーケストラやバンド、討論、演劇、チェス、美術や野外キャンプまで幅広い。そんな活動への参加を通じて、学校生活を楽しみ、ネイティブの友人をつくる機会を広げることもできる。

香港出身のヘンリー・チューさん(17)は「豪州の友人たちと週末にバスケットボールをしたり、映画を見に行ったりもします。それから、本当に楽しいのはビーチに行くこと」

車で5分ほどのところには、同校の幼稚園から小学6年生までのキャンパスがある。そこで幼少のころから学んできたアジアなど外国出身の生徒も多く、実は、幼稚園から12年生までのおよそ2千人のうちの4割が、家では英語以外の言葉も話す子どもたちだ。その多くを中国などアジア系が占める。だから、日本人が留学した場合、白人の生徒たちだけに圧倒されるような環境では必ずしもなく、そこに居心地の良さを感じるかもしれない。

私立校は、受け入れの条件や支援態勢などは学校ごとの特色を見て選べるのが魅力だ。訪れてみればわかるが、設備も公立よりも恵まれた環境なのは一目瞭然だ。でも、やはり、学費はかさむ。トリニティ校の場合、留学生は、年4万豪㌦(約320万円)ほどと公立校の留学生の3倍近くする。学校の寮に入る場合、さらに年3万豪㌦かかる。

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創立から100年以上の伝統がある校内の中庭=小暮哲夫撮影

学生寮に入っている中国人のジャッキー・ガンさん(17)は、姉も豪州の大学に通っているという。相当に裕福な家庭なのだろうと想像した。

英語が流暢になるには何年かかる?

何年くらい豪州で勉強したら、本当に英語が流暢になれるでしょうか? 改めて、この連載のテーマとも言える質問を教員歴25年のウィーラー教諭にぶつけてみた。
「対人のコミュニケーションなら3、4年はかかると思います。これがアカデミックなスキルまで、というと7年という研究結果がありますよね」
7年……。実はこれ、取材を始めた当初、英語教育の専門家、ニューサウスウェールズ大(シドニー)のクリス・ダビソン教授にも聞いていた。学校で実際に教える人からも出てくると言葉は重い。

ウィーラー教諭は、そんな認識もふまえて「これはあなたの(言語を習得する)旅です。高校を卒業して大学に進んでも毎年、上達していきます」と生徒たちを励ましているという。
さらに、こうつけ加えた。「学校で同じ科目を学んでも、それに興味を持つか、退屈で居眠りをしてしまうかによって生徒の上達度は違う。発音をまねするのが天性のうまさの子もいる。継続して取り組むことができる子もいる。いずれにせよ、個人の態度や努力が、ものを言います。(英語を一気に上達させる)『魔法の杖』はないのです」

もっともだと思う。しかし、日本から数年間、豪州へ我が子を送りだせる余裕のある家庭はあまりないだろう。では、たとえば、1年くらいならどうか。1年間、豪州で英語を学ぶと、どれくらいのレベルまで上達できるのだろうか。次回から、「1年コース」で学ぶ日本人の生徒を紹介してみたい。

(次回は9月19日に掲載します)