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英語の早期教育はすべきなのか?

英語が拓く世界
幼児期から英語を学ぶクラスは、どんどん増えている=2016年、名古屋市(以下、写真と本文に直接の関係はありません)
幼児期から英語を学ぶクラスは、どんどん増えている=2016年、名古屋市(以下、写真と本文に直接の関係はありません)

英語教育というと必ず話題になることのひとつに、語学の早期教育があります。英語の早期教育に対する反応はクッキリと2種類に分かれていて、一つは「語学は1歳だって早く身につけた方が良い。遅くなれば遅くなるほど不利だ」という流れです。早期英語教育をうたう保育園や幼稚園なども多数ありますし、最近では親子留学をする方もずいぶん増えています。

もう一つの流れは、「母国語が固まっていないうちに外国語を入れると脳が混乱をきたし、まともな思考能力が育たなくなる」というものです。この流れを支持する方も非常に多く、ノーベル賞を受賞した著名な学者の中には「日本人がノーベル賞を獲れるのは母国語教育をしっかりしているから論理性が身につきやすい」などという言説を唱えている人もいます。

この二つの考え方の、いったいどちらが正しいのでしょうか? 今、幼い子供達を抱えている親御さんたちは、早期語学教育についてどのように考えればよいのでしょうか? 今回はそのあたりのところを考えてみたいと思います。

早期語学教育のメリット

早期に語学教育をするメリットというのは間違いなく存在します。まずその一つは発音です。発音というのはスポーツなどと同様の一種の運動動作ですから、1歳でも早く始めた方が確実にナチュラルな発音が身につきます。

私の子供たちはそれぞれ7歳と5歳の時に英語環境に放り込まれましたが、現在23歳になった長男の方はホンのかすかに訛りが残っています。一方次男の方はネイティブと判別不能なくらいナチュラルに話します。

またリスニングも年齢が若ければ若いほど身につくのが早いです。さらに発音とリスニングの他にも、日本語には同じ概念がない冠詞や可算名詞、不可算名詞などの使い分けも、1歳でも早く始めた方が確実に身につきます。

私自身は16歳の時から英語圏で暮らし始めましたが、周囲を見渡してみると小学校、つまり12歳以前から英語圏で暮らし始めたかどうかで、発音の滑らかさも書いた文章のナチュララルさも、かなりはっきりした違いを感じます。

それらは絶対に乗り越えられない壁ではありませんし、例外も多数いますが、歳を取ればとるほどギャップを埋めるのが難しくなるのは間違いありません。

ではデメリットは?

無論、英語教育を早期に始めればそれ相応のデメリットがあるのも事実です。まずもっとも顕著なのは、語彙の獲得にかかる時間です。1日は24時間しかありませんから、仮に子供が起きている時間を単純に14時間とすると、7時間を日本語で7時間を英語で過ごせば、14時間全部をどちらか一方の言語で過ごしている子供に比べて、語彙の発達が遅れるのはある意味当然のことです。

ですから子供にバイリンガル教育を施したいのであれば、この語彙のギャップをどう埋めていくかが一つの大きな課題となります。子供は覚えるのが早いので、決して埋められないギャップではありませんが、一方で忘れていくのも非常に早いので、コンスタントに両言語に触れていかないと、使用頻度が低い言語は驚くようなスピードで忘れていきます。

海外在住などであれば、親子の会話は必ず日本語で行う、日本語と英語を混ぜて喋らない、あるいは日本のアニメなどを積極的に視聴させるなどして日本語の維持に努めることをお勧めします。

2カ国語を喋りながら育つことはそれほど珍しいのか?

ところで、早期2カ国語教育というのはそんなにも珍しく、難易度の高いことなのでしょうか?

日本で生まれ育つと早期からの2カ国語教育というものは非常に特殊なものに感じられますが、世の中には公用語が複数ある国も少なくなくありません。それどころか、国民の大半が2カ国語以上を話す国の方がむしろ多いくらいなのです。

では世界中でどのくらいの人々が2カ国語環境で育つのでしょうか? 驚いたことにこれについてははっきりした統計が存在しません。そもそも何を方言と考え、何を言語と数えるかは多分に政治的に決められるため、学者間で何を言語するのかさえもが一致していないからです。

また、どのくらい流暢に話せたら「言語を話せる」と数えるのかも、統一見解がありません。このため数え方がまちまちで、「これが信頼できる数字だ」というものが存在しないのです。

しかし、これまでにそれぞれの国で何度も統計が取られていますし、国ごとに公用語も定められていますから、おおよその数字は存在します。たとえば、欧州では54%の人が2カ国語以上、25%の人は3カ国語以上を扱うとされています。人口の多いアフリカや、インドを初めとしたアジア地域でも二つ以上の言語を操るのが普通です。

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こうした数字を総合してみると世界人口の半数以上の人々が2カ国語以上を話すようです。つまり、早期バイリンガル教育などというのは、国によっては当たり前の風景で、話題にすらならないというわけです。

なお、人口の大半が1カ国語しか話さない国というのは、それほど多くはありません。基本的に、他国に植民地化されなかった大国だけだと言ってもいいでしょう。イギリス、ロシア、中国、フランス、スペイン、日本などがこのグループに入ります。

また、英語が公用語の大国でもカナダ、アメリカ、オーストラリアなどにように、そもそも移民で成り立ってきた国々では、少なからぬ人々が2カ国語以上を話します。

早期バイリンガル教育は論理思考が育たない?

ではここで、改めて早期英語教育の是非について考えてみましょう。もしも1カ国語で育たないと論理的な思考能力が育まれない、などという説が正しいのであれば、世界の半分の人々は論理思考ができないということになってしまいますが、現実にそんなことがないのは、マルチリンガルで育った人々と付き合ってみればすぐにわかることです。

確かにノーベル賞受賞者を多数輩出している国はモノリンガル国家が多いですが、先にも述べたとおり、そもそもモノリンガル国家は国の規模が大きく、教育も行き届いており、研究予算などもそれ以外の国に比べてずっと大きい傾向にあります。

ですから大学教育のレベルやノーベル賞の受賞数などだけを取り出して「早期英語教育をすると論理思考が育たない」などという言論に与することできません。またスペインなどはモノリンガル国家ですが、別にノーベル賞獲得者の数は多くありません。つまりこれは、何の根拠もない一種の迷信のようなものだと考えて良いでしょう。

バイリンガルはアルツハイマーになりにくい?

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英語幼児園で英語の曲に合わせて踊る子どもたち=2010年、北九州市

日本ではモノリンガルとバイリンガルで子育てした場合の脳への影響についての調査はまだまだ始まったばかりですが、大規模なバイリンガル人口を抱える国ではかなり以前から研究対象として度々取り上げられています。

バイリンガルで育ったからといって飛び切り頭が良くなるわけでもないようですが、バイリンガルで育った子の方がより偏見が少なく、文化的感受性が高く、異なった視点から物事をみる能力に長けているとの調査結果が度々出ているようです。

また興味深いのは、バイリンガルの方がモノリンガルに比べ、アルツハイマーの発症が4~5年遅くなるという調査報告でしょう。カナダ・ヨーク大学のエレン・ビアリストク博士が、211人のアルツハイマー患者を対象におこなった調査によると、バイリンガルの患者たちはモノリンガルに比べ、認知症の診断が平均して4.3年遅く、そして発症は5.1年も遅かったのです。

僕自身ももう30年以上英語と日本語を日常的に併用する生活をしていますが、おそらく日常的に複数の言語を操ることは、脳のどこか深い部分に強い影響があるのではないかと感じています。

私ならどうするか?

僕は海外が拠点だったので結果として子供をバイリンガルに育てましたが、仮に日本で子育てをしていたとしても、おそらくバイリンガルに育てただろうと思います。

理由は上記の通り、語学教育は早期から始めた方が圧倒的に有利だからです。フォニックスベースでチャンツや歌などから教えてくれる子供向けの英語塾などに通わせ、遊びのような感じで慣らしていったでしょう。ゲームやアニメなども取り入れたに違いありません。

発音のリスニングも、小さいうちに始めるに越したことないからです。しかし、がっつり机に向かわせて勉強させるようなことはしなかっただろうな、と思います。子育ては思い通りになんて進んでくれないものですし、親の言うことを無理に聞かせたってそれが子供のためになるとも限らないからです。

ただ、幼少の頃に種まきをしておけば本人にいつかその気になった時に芽がでる可能性は大いにありますから、本人が楽しめるような形で、英語を与えただろうとは思います。

なお、現時点で自分自身が英語が堪能でない方で、子供への早期英語教育を考えている場合には、まず自分自身が英語を勉強してみることを強くオススメします。なぜなら、子供のしんどさが理解できるからです。

早期英語教育は子供の努力はもちろん、親の努力も経済力も必要となるかなりの長期戦です。躍起になって取り組むよりも、本人も親も楽しめるような形で臨んだ方が、結局は英語が身につく可能性が高まるように思います。

目先のテストの点数などに振り回されず、それでいて根気よく。それができるなら、英語の早期教育には大いに賛成です。