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台湾の街を潤す飲み物屋さんと「小さな幸福」のかたち

虹色台湾
台北市内のジューススタンド。マンゴー、パパイヤ、パイナップル。店先に並んだ果物が色鮮やか=西本秀撮影

台北市内の街角には、持ち帰り用のお茶やジュースなどを販売する飲み物屋さんが多い。朝日新聞の台北支局が入る長安東路沿いの雑居ビルの1階にも、コーヒーを売るカフェがある。通りを挟んだ向かいには、冬瓜を煮込んだ冬瓜茶の屋台が立ち、裏通りの向かいには、ウーロン茶やタピオカミルクティーを売るお茶屋が2軒、カフェも2軒が集中している。

「ドリンクスタンド」と呼べば良いのか、こうした街角の飲料店は、4月から11月まで日本の夏のような陽気が続く台湾では欠かせない商売だ。1杯が40台湾㌦(約140円)前後。私も取材を終えて支局に帰る途中、週3、4回は立ち寄って、のどを潤す。

地元の報道によると、ドリンクスタンドの1年間の販売量は約10億杯。台湾の人口は約2300万人だから、単純に割ると1人で約40杯となる。

メニューが書かれたお茶屋の看板。「氷塊」は氷の量を、「甜度」は甘さの度合いを指す=西本秀撮影

台湾人にとっては身近なドリンクスタンドでも、日本からの旅行者は、最初は注文に戸惑うだろう。

理由のひとつは種類が多いこと。お茶屋の場合、お茶の種類だけでも、緑茶、ウーロン茶、紅茶、プーアル茶など。それぞれに牛乳を加えたミルクティーもあれば、豆乳を加えたものも。レモンやユズのジュースを加えて、爽やかな味わいにした品もあれば、タピオカやゼリー、プリンをトッピングしたデザート風もある。

注文時には、氷の量や甘さの好みも聞かれる。「少氷(シャオビン)」は少なめ、「微氷(ウェイビン)」はほんの少し、「去氷(チュイビン)」は氷無しだ。店によって表現は異なるが、甘さも「全糖」「少糖」「微糖」「無糖」など何段階にも分かれている。ちなみに私は「少氷」「微糖」で頼むことが多い。

    

台湾にも、米国資本のスターバックスなど大手チェーンのカフェは進出しているのだが、友人や家族で経営する、小規模なカフェやお茶屋さんが目立つのが特徴だ。

冒頭で触れた、支局が入居するビルにあるカフェ「ジェントル・ブルー」は今年5月にオープンしたばかり。姚冠均さん(24)と呉庭歡さん(25)の恋人同士が経営している。

台北支局の入るビルの1階にあるカフェ。姚冠均さん(右)と呉庭歡さんの恋人同士で経営している=西本秀撮影

姚さんは高校生だった16歳の時からカフェでアルバイトを始め、コーヒー豆のローストや抽出方法などを学んで、8年かけて独立を果たした。持ち帰りのコーヒーを販売すると共に、顧客とゆっくり会話をしたいと店内にカウンター席を設けている。

独立した理由を聞くと、姚さんは「小確幸(シアオチュエシン)」と語った。「小さいけれど、確かな幸福」という意味だ。元々は日本の作家、村上春樹さんがエッセーに記した言葉で、日本語では「しょうかっこう」と読む。

台湾では5年ほど前から、この言葉が広まり始め、広告などにも使われている。社会や人々の価値観の変化を象徴する言葉として受け止められているようだ。呉さんは、「会社勤めより、小さなお店でも、自分たちの店を持つ方が充実して幸せ」と語る。

ただ、こうした「小さな幸福」を求める生き方について、大企業の経営者らからは「競争を避けている」と批判する声もあり、現地メディアでは論争になっている。

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「小確幸」と聞いて、私がすぐに思い出したのは、よく利用する裏通りのお茶屋だった。

間口150㌢ほどの小さなお茶屋。ここで20年ほど営業している。隣は鍵屋=西本秀撮影

「丸刈り頭のお店」という名で、文字通り髪の短い孫嘉男さん(47)が経営している。間口が150㌢ほど、奥行きは5㍍ほどの細長くて小さな店なのだが、妻の簡秋燕さん(39)が奥に洋服を並べて衣料品店にもなっている。

小さなお茶屋の奥は、店主の孫嘉男さんの妻が洋服を並べて売っている=西本秀撮影

改装したため新しく見えるが、この場所で20年ほど営業を続けてきた。気さくな孫さんの人柄が慕われ、昼時になると行列ができる。周辺の会社から大口の配達の注文もあるという。20代のころはカメラマンだったが、「あくせく働くより、自分のペースで仕事をしたい」と、職を切り替えた。妻の簡さんは恥ずかしがって、取材と写真は断られてしまったが、ふたりの仲の良さが伝わってくる。

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ドリンクスタンドのほかに、台北の街角では、だれでも自由に飲めるお茶や水が振る舞われていることがある。「奉茶」と呼ばれ、田舎に多い習慣だという。

雑貨屋の店先に置かれたお茶入りのタンク。通りすがりの人が自由に飲める=西本秀撮影

支局近くの雑貨店の店先にも、ウーロン茶の入った金属製のタンクと紙コップが置かれ、通りすがりの人々が渇きを癒している。南の島だからこその助け合いなのだろう。台湾の街角では、小さな幸せや、小さな優しさに出合うことができる。

今回の台湾メシ

台北支局の周辺はドリンクスタンドのほか、レストランも多い。「犂園」(南京東路3段256巷24号)は、小籠包が手軽に楽しめ、昼も夜も地元の人々でにぎわう。写真の「上海小籠湯包」は140台湾㌦(約500円)。

「犂園」の小籠包=西本秀撮影
台北支局の近くにあるレストラン「犂園」=西本秀撮影