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大統領が来ないホワイトハウスの会見室

ホワイトハウスへ猛ダッシュ 更新日: 公開日:
レーガン大統領が銃撃された際に負傷し半身不随になったジェームズ・ブレイディ報道官への敬意を表して2000年に「ジェームズ・ブレイディ・プレスブリーフィングルーム」と名付けられたホワイトハウスの会見室=ランハム裕子撮影

いつも走っている。カメラバッグを背負い、夏も冬も汗だくで全速力。その先にはいつもホワイトハウスがある。この「ホワイトハウス・ダイエット」が日課になり約1年半が経つ。トランプ政権が始まってからというもの、突然の発表や会見、予定の変更などに振り回されることが多い。その中でも比較的予定通りなのは、「ジェームズ・ブレイディ・プレスブリーフィングルーム」で行われるサンダース報道官による定例会見だ。

定例会見で記者からの質問に答えるサンダース報道官。2017年7月26日、34歳という若さでホワイトハウス報道官に就任した=ランハム裕子撮影

この会見室は、ウェストウィングと呼ばれる大統領執務室やシチュエーションルーム(危機管理室)が集結する建物に位置している。記者、フォトグラファー、カメラや音声の担当者を含む多くのジャーナリストが日々つめかけ、座席が49席(7席X7列)しかないスペースは、まるで都内の通勤電車のように混みあうこともある。最前列の席から演壇までは2メートル以下いう至近距離。報道官と記者が向き合うことで、時には冗談が飛び交い、時には熱いバトルが繰り広げられる場所。この戦場で、異なった意見や感情がぶつかり合う瞬間を撮るために走っている。

満席状態の定例会見の開始直前の様子。「2-minute warning(2分前の知らせ)」がアナウンスされると、テレビのリポーターたちはカメラに向かい話し始めるが、2分前の知らせのはずが5分、10分になることもしばしば=ランハム裕子撮影

トランプ政権発足以来、定例会見で物議をかもす議論が繰り広げられることが多く、テレビやオンラインの視聴率は急上昇。いわゆる伝統メディアに加え、多くのフリーランスやオンラインメディアのジャーナリストも日々ホワイトハウスを取材するようになった。特にスパイサー前報道官の会見は、視聴者数が450万に達した日もあったほどだ。現在のサンダース報道官と記者団の激しいバトルは、「must-see TV(見逃せないテレビ番組)」とよく称されている。

大統領就任式の聴衆の数について、メディアが故意に虚偽の報道をしていると非難したスパイサー前大統領報道官。コンウェイ大統領上級顧問がテレビで、報道官の主張は「Alternative facts(替わりの事実)」だと弁護。さらなる批判を浴びた=ランハム裕子撮影

この「人気番組」はほぼ毎日午後2時か3時ごろ放送されている。きつい言葉で記者を叩きのめすイメージが強いサンダース報道官にも、動揺する瞬間や、可愛らしい笑顔、または母親としての顔を見せる瞬間がある。大統領も、報道官も、人間だ。人としての感情が表れる瞬間にシャッターを押す。

定例会見で冗談を言い、微笑むサンダース報道官=ランハム裕子撮影

ただ、オバマ前大統領と違い、この会見室でトランプ大統領が会見をしたことは一度もない。トランプ大統領は、メディアを野党と呼び、就任直後には会見室をホワイトハウスの敷地内から他の場所へ移す提案を検討したこともあった。この時ホワイトハウスは、移転検討の理由に、ジャーナリストの数の増加により現在の会見室には入りきらないという懸念をあげた。しかしホワイトハウス記者団から、猛烈な反対を受け、ひとまず落ち着いた。

そんなトランプ大統領が会見室に初めて「登場」したのは今年の1月4日、演壇の両脇に設置された大きな2つのモニターを通してだった。2度目の「登場」は、同じく今年の3月8日。北朝鮮の金正恩委員長の提案を受け、韓国特使がホワイトハウスで米朝首脳会談について発表を予定していた約2時間前、突然トランプ大統領が会見室のドア付近に姿を見せ、「これから韓国が重大な発表をするぞ」と記者たちに言った時だ。

2018年1月4日、二つのモニターを通し会見室に「登場」したトランプ大統領。収録済みのビデオで減税についての声明を一方的に発表することにより、記者からの質問を避けたと批判された=ランハム裕子撮影

トランプ大統領による記者会見は、主に各国のリーダーによるホワイトハウス訪問の際に、イーストルーム(ホワイトハウス東側にあるイベント用の大きな部屋)やローズガーデン(大統領執務室の前にある中庭)などで、フォーマルに行われている。記者と至近距離でやり取りをする会見室とは雰囲気が全く異なる。

2017年2月16日、77分に及んだトランプ大統領初の単独記者会見。多くのジャーナリストが大統領に直接質問しようと競って手をあげた=ランハム裕子撮影

ホワイトハウスは過去と現在と未来が交差する空間。そこで写真を撮るということは、歴史を撮るということかもしれない。