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FBIの記録管理は 元「記録のプロ」に聞く

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マイケル・ミラー氏=高橋友佳理撮影
マイケル・ミラー氏=高橋友佳理撮影

「米国政府は文書に基づく統治をした」

米国人にとって「自由の憲章」と呼ばれる三つの文書(合衆国憲法、独立宣言書、権利章典)は、「アイデンティティーの核」であると言う人もいる。そのことに気づいていない人もいるが、自由や個人の権利などの考え方は個々人の中に生きており、一般的に私たちはそれが何を意味するかを知っている。「自由の憲章」をおさめるホールは、私たちにとって、いわば伝統をおさめる「神殿」のようなもの。米政府は文書に基づく統治をしたのだ。記録が私たちの歴史の一部になるように。

今は、インターネットや本でいろいろなことを調べることができるけれど、組織が「これが過去に起こったことですよ」と記録を残さなければ、本当の記録がないことになる。これらの記録は、組織によって注意深く作られなければいけない。

FBIはどれだけ記録を残すのか

FBIの記録は極秘のものが多いが、犯人を裁判にかけて罪を証明するために、すべてにおいて文書が必要だ。その文書は、日付が入って、きちんと整理されなければならない。何十年も公開されないかもしれないが、それが捜査のやり方だ。FBIには巨大な記録保管庫があって、多くがNARAに移される。そこには、スパイに関しての情報も含まれている。私はFBIで電子データとスキャニングを担当した。私たちのところにきた資料をスキャンして、職員がリサーチに使えるようにした。FBIには広範囲にわたる電子データのデータベースがあった。個人情報が多いため、(やり過ぎがないように)情報を集める際の制限にとても神経をつかっていた。連邦記録法とは別に、個人の記録について何の記録が残されるべきか内部で特別なルールがあった。電子データの記録(キャプチャー)についても、何ができて何ができないかルール化されていた。

コミー前長官の行動について

FBIのジェームズ・コミー前長官は、米大統領選にロシアが介入した疑惑を捜査している最中にトランプ大統領から解任され、その後、在任中に大統領と交わした会話内容を記録した「コミー・メモ」を公表した。彼はFBIのトップとして、連邦捜査局員が人と会った後にやるべきことをしたにすぎない。エージェントならば、何が起きたか常に書類を提出しないといけないからだ。だから彼が、トランプ大統領との会話をメモし、それを公開したことは普通のことと言える。前長官を解任したとき大統領が何を思ったかは分からない。コミー氏は難しい立場にいたが、いい仕事をした。是非はともかく、彼がよい公務員であろうとしたその思いを、私は疑わない。

ヒラリー・クリントン元国務長官のメール問題について

ヒラリー氏が国務長官時代に、私用のメールサーバーを公務で使ったのは、愚かな考えだったと思う。だが、漏れた極秘情報があったのかどうか、私は知らない。国務省が調査した限り、仕事に関係のない内容が多く極秘の個人情報はなかったけれど、それでも問題があった。ただ、この問題が起きたことによって、政府のシステム上にあるメールをすべて保存することの重要性が指摘され、国務省はメールの使い方のガイダンスを明確化させた。もし出張でインフラが不十分な途上国にいて、個人メールしか使えなかったとしても、「CC」で公用メールのアドレスに送信してコピーすればよい。私も自宅で仕事をするときには、すべてCCで公用メールにコピーしていた。

アーキビストの立場から見ると、ヒラリー氏の問題が起きたとき、注目したのは国務省内のレコードマネジャーが何が起きていたのか把握していたかどうかということだ。彼らはメールは省内で記録(キャプチャー)されていると思っていた。もしレコードマネジャーが組織の中で、何を記録するべきか決めるのに影響力を与えうる立場にいないと、作られたものを管理するだけの存在になってしまう。

日本で起きている文書をめぐる問題をどう見ているか


ルールを実行する責任がどこにあるのかだと思う。アメリカの組織は特に最高幹部のレベルでは、自分たちの行動の記録について、かなり多くを保存している。もし保存していないと、日本のようなことが起こるからだ。もし組織が透明性を持ちたかったら、短期間にいかにしてすべての文書を保存するかに力を注ぐだろう。情報公開法があり、人々は起きたことを知りたいという欲求を持っている。それを満たすために、政府はより多くの人を割いている。オバマ政権のとき、電子メールをすべて残すように、またすべての永久保存文書を電子データで残すようにと言われた。それがまだ続いているかは分からないが、理想は電子データを残しアクセスできるようにすること。これは歴史(作成、研究)のためだけでなく、過去の失敗に学ぶために必要だ。

なぜアーキビストになったのか

私がNARAに就職した70年代には、まだ「アーキビスト」はメジャーな仕事ではなく養成機関も少なかった。私の大学での研究テーマは中世ドイツで、アーカイブズ学について学んだわけではなかった。ただ、連邦政府で働きたいと応募したときに私に与えられたのがアーカイブでの仕事だった。

しかしNARAで働き始めて、アーカイブの仕事がとても好きになった。将来の人が過去に何が起きたかを知ることができるように、記録を残すという仕事が。政府で働く人がモラルと理想を持って仕事をしていて、私はわくわくした。国のために何が正しいか、何がよいことかを考え仕事をしていることがね。すばらしい人たちに出会い、記録管理について本当にやりたいことができた。約40年、記録にかかわったことは、すばらしいキャリアだった。



Michael Miller
米・ケンタッキー生まれ。オハイオ州立大で歴史学を学ぶ。1976年からNARAでアーキビストとして働き電子記録プログラムのディレクターを務める。90年から7年間、環境保護庁でレコードマネジャーを、2002年から3年間、FBIで電子記録のスキャニングや保存自動化に取り組む。その後、民間の記録管理コンサルティング会社でディレクターを務めた。