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『乱世備忘 僕らの雨傘運動』 普通の若者が民主主義を語る香港

Cinema Critiques 映画クロスレビュー
「乱世備忘 僕らの雨傘運動」より©2016 Ying E Chi All Rights Reserved.

「乱世備忘 僕らの雨傘運動」より©2016 Ying E Chi All Rights Reserved.
「乱世備忘 僕らの雨傘運動」のチャン・ジーウン監督=池永牧子撮影

Review1 川口敦子 評価:★★☆(2・5=満点は★4つ)

稚拙な弱さ 生々しい強さ

 副題「僕らの雨傘運動」が指し示すやわらかな若さ。それが、「香港人」による「真の普通選挙」をと闘った青年たちに伴走するこのドキュメンタリーの何よりの磁力だ。しなやかな若さは、冷静に距離を保ち「彼らの」運動を観察するよりは「僕らの」ひとりとして共闘した監督チャン・ジーウンの視点にも感知され、彼が撮った映像の率直さを支えている。

当事者の中に入り込んで同じ目の高さで描く記録映画といえば、三里塚闘争を追ったシリーズで知られる小川紳介監督が想起される。反権力を掲げ学校当局と対決した高崎経済大学の学生に密着した『圧殺の森』は、難解な熟語を連発する1960年代後半の学生運動の闘士たちがふと見せる無防備な若さをすくい、「僕らの」運動と共振するチャン作品と重なる。

もっとも、撮影監督大津幸四郎のモノクロ映像を裏打ちする洗練された技術に対し、チャンの手持ちカメラの映像はいかにも粗い。

が、稚拙な弱さが生々しさという強さを呼び寄せる。それは、雨傘運動のリーダーでなく無名の学生や勤労青年に迫る映画が拾ったナイーブで時に感傷的なコメントの「弱さの強さ」とも通じている。

Review2 クラウディア・プイグ 評価:★★★☆(3・5=満点は★4つ)

心からの言葉、良心、確信

 市民の不服従を記録した映像は、雄弁な台詞よりはるかに力を持つことがある。壮麗な花火の映像とともに始まる作品からは、最初の数分間、爆音だけが聞こえる。そこから、私たちは何かが起きていると感じることになる。

チャン・ジーウン監督が79日間にわたる撮影で自らに課したのは、雨傘運動のもっとも何げない場面を記録することだ。手持ちの小さなカメラで撮った1000時間の映像は、ひっそりと観察するように撮られた分、いっそう心の奥に迫るものがある。

この作品は、香港では劇場公開が実現せず、ゲリラ的な自主上映にとどまった。アジアやカナダ、米国では、主に映画祭で上映されてきた。

運動に参加している人たちのポートレートはどれも印象的だ。決意を固めた表情の大学生や高校生が路上でキャンプをしながら、共同体としての感覚を育んでいく。見る側はこの若者たちの世界に引き込まれる。

耳障りな音や見慣れないアングルの映像は、警官隊との衝突を力強く描き、真の民主主義を求める運動について多くを語る。心からの言葉や良心、確信。作品が終わる頃には、若き理想主義者たちが将来の香港を導く立場に就くことを願うようになるだろう。

 監督インタビューをGLOBE+「シネマニア・リポート」に掲載予定です。