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強みは13億人が生み出すデータ AI開発に本腰入れる中国

World Now
北京で盛大に開かれた世界人工智能大会 photo:Kurasige Nanae
北京で盛大に開かれた世界人工智能大会 photo:Kurasige Nanae

昨秋、北京の国家会議センターで開かれた「2016世界人工智能大会」には米中の学者や企業幹部ら、約2000人が集まった。会場には、中国国内の大学や企業が開発したAI搭載の犬形ロボットや僧侶形ロボットが並ぶ。シンポジウムの席上、大会を主催したIT関連企業「新智元」の創始者、楊静はこう強調した。
「AIで中国は変わる。必ず限界を打破し、新領域を創造する」

 

(撮影:倉重奈苗、機材提供:BS朝日「いま世界は」)

開発競争で追いかける立場の中国がこれほどの自信を見せるのは、深層学習の登場で、データの規模が技術進化のかぎを握るようになったためだ。中国の最大の強みは、13億という巨大な人口が日々生みだすデータ。それを、IT大手の百度(バイドゥ)、アリババグループ、騰訊(テンセント)の通称「BAT」がほぼ独占する。世界市場を席巻するグーグルやフェイスブックも、中国ではアクセスが制限され、大規模な事業を展開できないためだ。
世界最大のネット通販企業として知られるアリババは、大規模なデータセンターを備え、ネット経由でITサービスを提供する「クラウド」を事業の中心に据えようとしている。4億3000万人とされる利用者の購買歴、日々の問い合わせや苦情の記録など、膨大なデータ処理に力を発揮するのがAIだ。「機械が電気ではなくデータをエサにする」(アリババ創業者の馬雲)時代。AIは潤沢なエサを取り込み、学習を積んで急速に「賢く」なる可能性を秘める。
参入が容易でないとはいえ、「先頭集団」が中国市場の潜在性を見逃すはずはない。米マイクロソフトは1998年、ITベンチャーが集う北京・中関村地区に米本土以外で最大となるアジアの研究開発拠点「アジア研究院」を設立し、中国政府から国民のデータ使用の許可を得て、AI技術を中国の社会問題に応用している。
 大気汚染対策では、自分がいる場所の微小粒子状物質PM2.5の濃度の予測値をスマートフォンで調べられるようにした。春節(旧正月)の交通混雑解消に、ネット上で本人認証を経て、鉄道の切符が買えるサービスも手がける。首席研究員の周明は「利用者から得た大量のフィードバックを開発に生かせる」と話す。
中国のもうひとつの強みは人材の厚さだ。北京大の「智能科学技術」課程でAIを学ぶ学生や研究者は約500人。「AIの元となる計算機分野は、比較的費用がかからず、中国が貧しい頃から研究者は多かった」と、機械認知・智能重点研究室主任の査紅彬は解説する。学生の就職先を確保したい地方大学も、軒並み関連学科の新設に動く。
前出のアジア研究院も、200人超の研究者を抱え、北京大や清華大からトップ級の学生をインターンに受け入れている。その後、米国に留学する学生も多い。日本のLINEで会話するAIアプリ「りんな」の基礎研究もここが手がけた。

産業構造を変える新技術が登場した機をとらえ、一気に予算と人材を注入して先進国との差を縮める手法は中国政府の「お家芸」だ。AIでもまずは技術を持つ企業や研究機関に開発を競わせ、果実が見えた段階で政策に吸い上げる構えだ。個人情報の保護よりも国家の利益を優先し、人材と予算を一気に動かせる中国の体制は、AI開発を進めるうえで有利だともいえる。ある中国人研究者は「いずれはテロ対策の一環で街中の防犯カメラにAIを導入し、通行人の顔認証をするようになる」とみる。
政府は昨年5月、AIなどの関連市場を1000億元(約1兆7000億円)規模に育てる方針を打ち出した。「すでに10億円規模の研究を十数本支援している」(中国人研究者)ともいわれる。