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世界中の科学者が集まる沖縄の大学より、旬な話題をお届けします!

美ら島の国境なき科学者たち
キャンパスと東シナ海、やんばるの森を上空から眺める (写真:OIST)
キャンパスと東シナ海、やんばるの森を上空から眺める (写真:OIST)

ハイタイ!私はソフィー。沖縄本島の中部西海岸に位置する恩納村にある、沖縄科学技術大学院大学(通称OISTオイスト)で、半月前まで「サイエンス・コミュニケーション・フェロー」として働いていました。イギリスのバース出身。ケンブリッジ大学で動物学を専攻した後、インペリアル・カレッジ・ロンドンの修士課程でサイエンス・コミュニケーションプログラムを修了し、2017年11月に、OISTにやってきました。

それまで日本どころか東アジアにも来たことがなく、沖縄がどんな場所なのかも実はよく知らないまま着任。初出勤日にキャンパス内に「ハブに注意」と書かれた看板を見てギョッとしましたが、東シナ海を見下ろす丘の上に建つ近未来的なデザインのOISTキャンパスに入ってエレベーターで最上階まで昇り、目に飛び込んできた景色には、心が震えました。どこまでも続くターコイズブルーの海とエメラルドグリーンの森。この場所で、私のキャリアをスタートさせることが誇らしい気分でした。

なぜ、このような未知の場所で働く気になったのか?みなさんはそう思われるのではないでしょうか。実はOISTは、科学をわかりやすく一般に伝えることを仕事とするサイエンス・コミュニーターへの登竜門として、欧米のトップクラスの大学に設置されているサイエンス・コミュニケーションに特化した修士過程に通う学生たちの間では、わりと知られた存在なのです。

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ランチタイムの食堂。約50カ国・地域から学生や研究者らが集まり、専門分野や文化の違いを超えて交流する雰囲気作りを大切にしている。(写真:OIST/Kenji Togo)

OISTでは開学以来、日本、欧米、インド、アフリカから21名のフェローを受け入れ、若きサイエンス・コミュニケーターを輩出してきました。実際、私の出身校インペリアル・カレッジの先輩、イギリス出身のグレタとフランス出身のウィルコもつい最近までOISTで6ヶ月間のフェロー経験を経た後、私にとって憧れの仕事に就きました。グレタはロンドンにある英国気鋭の生物医学研究機関であるフランシス・クリック研究所での広報職、ウィルコはデンマークの動画制作会社で、コペンハーゲンとバリ島を行き来して科学をテーマとしたクリエイティブな仕事に携わっています。

そしてなにより、OISTの環境は真に国際的で、私のように日本語が一言も話せなくてもまったく不自由しません。トップクラスの科学教育・研究が、国籍や分野間の壁がないボーダーレスでダイナミックな環境の中で行われているので、初日からすぐに職場に馴染むことができました。

OISTに二人いるサイエンス・コミュニケーション・フェローのもう一人は、スコッティー。スコットランドのバンフ出身。彼は海洋生物学を学び、同様にサイエンス・コミュニケーションの修士号をニュージーランドのオタゴ大学で取得しています。最近着任したばかりの彼ですが、すでに沖縄に魅了され、先日は三線(さんしん)を購入したのを目撃しました。

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ソフィー(左)とスコッティー(右)(写真:OIST)

OISTサイエンス・コミュニケーション・フェローの役割は、主に記事を書いてウエブサイトに掲載すること。内容は、学内の研究活動から出る最新の研究成果、産学連携プロジェクト、ここで働く人々のプロフィールや、イベントの報告など様々。そして、扱う研究も、流体力学から海洋ゲノム科学、沖縄の伝統染織物に至るまで、実に多種多様です。AIと美学・芸術について考える展示会の記事を書いたり、宇宙飛行士の写真を撮る仕事もありました。

私の故郷イギリスでは、サイエンス・コミュニケーションは急成長を見せている分野です。新たな創意工夫により教育とエンターテイメントの橋渡しをし、科学はさらに幅広い人たちに届くようになっているのです。例えば、ビールの単位である「パイント」に由来する「Pint of Science」という科学イベント。パブでビールを片手に、気軽な雰囲気の中、科学者から最新の研究の話を聞くというものです。2012年ロンドンに端を発し、今は世界の300都市で開催されていますが、日本ではまだのようです。(ただし、同様のイベントで、アメリカから始まったNerd Niteというイベントは東京で行われるようになりました。発表は全て英語ですが、興味のある方はこちらを。

さらには、英国サイエンス・ミュージアムやロンドン自然史博物館で行われているナイトミュージアムは、大人を対象として、科学に関する講演やワークショップが行われ、お酒やスナックが用意されたり、参加者同士で交流できたりと、若いプロフェッショナル達が集う知的な遊び場として人気を集めています。また、伝統ある大学も、一般向けのサイエンス・フェスティバルを毎年開催しています。ケンブリッジ大学では2週間に渡るサイエンス・フェスティバルを開催し、1,000人ものスタッフや学生がボランティアとなって、100を超える講演やデモンストレーション、映画上映や実験プログラムなどを用意し、市民に楽しんでもらっています。

ちなみに、ここOISTでもサイエンス・フェスティバルを毎年開催しています。ちょうど私が着任した直後の昨年11月、沖縄本島の子どもたちをはじめとする5,000人以上の人々が来校し、30ほどの科学プログラムを楽しんでいただきました。OISTではこうした地域との交流を大切にしていて、沖縄の方々が気軽に遊びに来て、科学に親しんでくれるような研究機関を目指しています。

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「OISTサイエンス・フェスタ2017」の様子。英語での説明にも、違和感なく夢中になる子どもたち。各プログラムには長い行列ができるほどの人気(写真:OIST)

OISTでのサイエンス・コミュニケーション・フェローの任期は6ヶ月。いろいろな思い出のできた沖縄を去らなければならなくなりました。今後は、まずは英国に帰り、サイエンス・ライターとして、私の大好きな動物や植物について情報発信していきたいと思っています。サイエンス・コミュニケーターの活躍の場は、ライターだけでなく、研究機関の広報、テレビやラジオの番組制作から博物館や公共政策立案の仕事など、幅広いものです。科学をわかりやすく伝えるというスキルを活かし、こうした職種を時には転々としながらここ沖縄でスタートさせた私のキャリアを積んでいくことができると考えています。

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キャンパスの中庭で仲間と語り合う。いろいろな文化背景を持つ友人ができたことも、OISTでの思い出のひとつ。(写真:OIST)

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沖縄科学技術大学院大学(OIST)による本コラムは、科学記者の卵である、OISTのサイエンス・コミュニケーション・フェローが執筆を担当します。ソフィーの後任には、インド出身のイプシタ(ソフィーと同じく、インペリアル・カレッジ・ロンドンのサイエンス・コミュニケーション修士プログラムを修了)が着任しました。彼らの目を通して、最新の科学研究や科学者の世界を沖縄からお伝えしていきます。