一部のサマープログラムでは大学寮で3週間、プログラミングや文学、歴史など選択コースに沿って毎日7時間みっちり学ぶ。参加費は部屋・食事代など計約5000ドルと安くないが、人気は高く、参加資格を得るのは難しい。
国や州が実施する標準学力テストで、全米の同学年で上位5%に入る得点があったり、学年よりも進んだレベルの学力を測るため、大学進学適性試験(SAT)などを受けたり、狭き門をくぐり抜けなくてはならない。
さらに、13歳未満でSAT(数学、言語能力のいずれかで)800満点中700点以上を取った「ギフテッドの中のギフテッド」向けのプログラムもある。9歳で大学に入り、数学のノーベル賞とも言われるフィールズ賞を受賞するなど「超天才数学者」と呼ばれるテレンス・タオ(42)も受講したという。
一方、ずば抜けた才能とともに学習障害などの「二つの例外」(2E)を併せ持つ子どもの支援も進んでいる。2E教育に定評があるメリーランド州モンゴメリー郡公立学校「MCPS」は、全米から問い合わせが相次ぐ。指導員のジェンナ・ランディは「私たちは子どもの得意なことに焦点を当てる。それが原動力となって才能を伸ばし、子どもの自立にもつながる」と言う。
ここでは、子どもの症状に応じて、支援を総合的に判断する方法を細かく定めている。大きな特徴の一つがメンター(指導・助言者)プログラム。子どもと8週間にわたって1対1で向き合うメンターを決め、子どもに負担がかからないよう学校内で週1回、1時間だけ面会交流する。
得意なことを生かしながら弱点を回避する方法や自尊心、自立心、自己決定の大切さを教える。メンターは元教師のほか、科学者やエンジニアもいる。
最近、財源の基金が底をつき、来年以降の実施が危ぶまれている。それでもランディは言う。
「大事なのは、子どもの弱点ではなく得意なことに着目するよう、大人の思考を切り替えること。それは資金がなくても、どこでもできます」
「分け隔てない才能教育」を評価
長年、才能教育と2E教育の問題に取り組んできた松村暢隆・関西大学文学部教授に話を聞いた。
「米国では、裕福な家庭の2Eや発達障害のある子向けに高校卒業・大学進学を促す私立校が増えてきたが、社会経済的に恵まれない層にも、公正に特別プログラムへの門戸を開くMCPSの試みは、高く評価できる。マイノリティーであっても、障害があっても、個人の多様な才能が公正な基準で認められれば、分け隔てなく才能教育を受けられるという理念がそこにはある」
「2Eの子供の中には、才能と障害におのおの対応するプログラムへの参加だけではニーズが満たせず、才能と障害の両方に配慮したプログラムが必要な子供も少なからずいる。学校では多様な才能をもつ個人のニーズに応じた多様な場で学習を個性化しようとする」
「それでも才能教育や2E教育は通常のクラスがベースになる。才能教育の権威ジョーセフ・レンズーリの『全校拡充モデル(SEM)』では、すべての子供の個性的な才能を集団や個別で伸ばす機会を提供して全体の水準を底上げする中で、才能児(ギフテッド)や2Eの子供の特定の才能も伸びることを目指す」
「日本では2E児の障害や苦手な面を補うことに力が注がれるが、もっと得意や興味に注目して才能を伸ばす働きかけが必要だろう。才能教育・2E教育は、けっしてごく少数の天才的な子ども対象でなく、より多くの子どもの個性を尊重して学習ニーズを満たそうとする。特別支援教育の既存の取り組みには2E教育の方法と重なるものもあるので、通常学級をベースに一人一人の子供に寄り添った教育を、今後少子化が進む中で展開して行けるのではないか」