「接続性」で読み解くグローバル世界
イギリスの欧州連合(EU)離脱決定や米国のトランプ大統領誕生など、グローバル化に対する反作用とも取れる動きが目立つ。近著「『接続性』の地政学」の中で、「接続性」が重要だという視点で世界を読み解いた、シンガポール国立大学公共政策大学院のパラグ・カンナ氏に、グローバル化する世界で起きていることを聞いた。
人類の歴史をみれば、分断よりも接続性のほうが、人間同士の関係を構築してきました。民族ごとの集団に分かれたのはこの数百年のことです。一方で、(道路などの)インフラを整備して人間が定住する地域がつながれてきた過程は、人類の歴史そのものです。政治的な領土が世界を構成する最も重要な要素だという考え方は、歴史のごく一部の期間であり、その間でさえ、接続性は大国が拡大していくための要素でした。
接続性は、交通やエネルギー、コミュニケーションのインフラの発達で、かつてないほど加速しています。インターネットのような情報技術が、接続性を一層高めているのです。接続性と都市化こそが今日の世界で最も強力な要素です。
地球上の土地が主権国家によって覆われているからといって、すべての国家が同等に重要というわけではありません。実際に力を持っている者が誰かを考えれば、国家よりも重要な都市がたくさんあります。力が、接続性とその接続性の密度に由来するとすれば、都市のほうが国家よりも重要な存在になり得るのです。
超大国はそれぞれグローバル化を推進する役割を果たしています。たとえば中国の重商主義的な貿易政策は、米国のグローバル化と同じものではありませんが、グローバル化の一つではあります。グローバル化は、それぞれの国が利益を追求する努力の合計なのです。
米国も中国も、欧州も日本も、グローバル化を止めることはできません。中国は一部のコンテンツへの国民のアクセスを遮ることができますが、インターネットそのものを止めることはできません。インターネットを発明した米国ですら、すでにインターネットを止めることはできないのです。グローバル化は、誰にも止められません。そしてグローバル化とは、地球上の人間同士の接続性が高まっていく、継続的なプロセスなのです。
トランプ氏の言う「アメリカ・ファースト」とは、私が「綱引き」と形容している世界規模の(接続性の優位を巡る)競争に、よりアグレッシブに参加することを意味しています。トランプ氏が求めているのは、自国内で、自国の労働者が生産したものを、より多く輸出することです。私自身はこれがよいやり方だとは思いませんが、これもまた、接続性の優位性を巡る「綱引き」の一つの形です。
これはグローバル化が弱まることを意味するのではなく、これもグローバル化の一つの形なのです。米国は依然、多くを輸出し、グローバルな存在であることを望んでいます。私が書いた「『接続性』の地政学」はいかに皆が仲良くなるかという本ではありません。これは「競争的な接続性」です。世界はかつてないほど競争が激しくなると同時に、かつてないほどつながっているのです。
「エレファント・カーブ」を聞いたことがありますか。※特集「グローバル化という巨像」に掲載された「エレファント・カーブ」のグラフ
所得の観点からすれば、米国の中流層のような人々が、一番グローバル化の恩恵が少ないことを示したグラフです。しかし、彼らの所得の上昇が少なかったからと言って、グローバル化の恩恵を受けていないと主張するのは誤りです。彼らが手にしたより良い車、インターネット、より安い衣服などはすべてグローバル化のおかげです。
彼らがグローバル化の敗者だという考え方はナンセンスです。もし敗者だとすれば、それは技術の進歩による自動化で、彼らの仕事が失われたのが最大の要因です。技術の進歩による労働生産性の向上の方が、外国へのアウトソーシングよりも雇用喪失へのインパクトが大きいのです。もし誰かを責めるならロボットですが、選挙ではロボットを責めるよりも、中国やメキシコを責めるほうが得点になりますからね。